「ザ・ファーマシスト オピオイド危機の真相に迫る」
息子を射殺された父親ダンは、殺人事件が多発していてもロクな捜査をしない警察は頼りにならないと悟り、危険を冒して自分で犯人を捜すことに。事件は解決したが、息子を失った悲しみは癒えない。薬剤師の彼はある日、非常に強い鎮痛剤を大量に処方されている若者が多いことに気づく。薬を買いに来た知り合いの若者がオーバードーズで亡くなったのを知り、これ以上息子と同世代の若者を死なせるわけにはいかない、と再び独自調査を始める。
タイトルどおり、オピオイドの不正処方を暴くドキュメンタリーかと思いきや、息子を殺した犯人を捜すところから始まるのは予想外だった。前半は殺人事件の捜査なのでまったく別の話のように見えるが、オピオイド問題と共通するのは、ダンの異常な行動力だ。武器はビデオカメラとテープレコーダー。なんでも証拠として撮りまくる。こんなになんでも残ってるなんて(ハリケーンカトリーナの被害もまぬがれた!)、ドキュメンタリーにするには出来過ぎているくらい。素人捜査はあまりに危険すぎるし、一般市民が普通は踏み込まない領域までぐいぐい進む。そして地元の街を巣食う薬物中毒の実態を把握するまでになる。FBIやDEAに電話して調査を催促するのだけど、一応対応してくれるのもすごいなと思ってしまう。それでも遅々として進まないので、自分で直接鍵となる人物を見つけて電話し、突破口を開く展開は、DEAもお手柄と認めている。このおじさん有能すぎる。しかし、いくらアメリカでも、検事が一般市民に電話で、「君の調べてるケースはひどいね、じゃあ〇〇に連絡するといいよ、グッドラック」なんて言ってくれるもんなんだろうか(通話記録が残ってる)。
殺人事件が解決しても、まだやることがある!とオピオイドを処方しまくる医師を捕らえるために再び奔走する父親は、周囲から見るとタガが外れてしまったように見えても仕方ない。「それでもやるんだよ」精神で突っ走るダンを支えたのは、亡くなった息子への思いだった。彼にとってはセラピーのようなものだったのかな。
アメリカのドキュメンタリーって、よく顔出しで出演するね・・と思うこと多いけど、本作はダンから執拗につつかれたDEAの職員や、問題の医師、製薬会社の販売員(やなやつ!)、息子を殺した犯人まで登場するので、よくこれだけ揃ったなと感心してしまう。前半の殺人事件を解決する鍵となった証人の女性が印象深い。