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『万感のおもい』刊行記念、万城目学トークショー


作家・万城目学さんのトークショーに行ってきました。大変面白く、楽しく、そして愉快な時間でした。その素敵な時間をほんの少し、ご紹介します。

チケットを取る


5月も半ばを過ぎたある金曜日のこと。
然るべき手順を踏み、仕事を早めに切り上げ、電車に乗った。地元の駅から大阪に向かう。天王寺にあるスタンダードブックストアのイベントに参加するため、2年半ぶりに新幹線のぞみに乗った。

今年に入ってコロナに罹患、しばらく後遺症に悩まされていたが、1ヶ月前にTwitterで目にしたお知らせを見て「これは行きたいし、行かねば」と思った。コロナの後遺症も吹っ飛ぶ高揚感。場所は大阪の天王寺、うん近い、近い。コロナも今のところ大丈夫だし。次の瞬間にはイベントのチケットを取った。

向かった先は、万城目学のトークショー。

万城目学について語る


万城目学とは、奇想天外な発想と面白い文体が持ち味の作家。大阪や京都を舞台にした小説をたくさん書いている。
デビュー作『鴨川ホルモー』は、私が当時大学生になったばかりの頃に出版された。外見からはそうは見えないのに読者家で、ヘンテコな言葉にすぐ飛びつきやすい、同じく大学生だった兄の本棚にあった。彼が「ホルモー!」と意味もなく連呼していたのが忘れられない。「え?ホルモン?」「違う違う、ホルモー!」というやりとりを何度かしたようなしていないような。
本の内容は「なんか変だけど面白い」と思った記憶がある。その数年後には『鹿男あをによし』がドラマ化された。「原作がホルモーの人だ。」主人公の玉木宏だけが、山寺宏一の声でしゃべる鹿の言葉がわかるという設定が妙におかしかったのを今でも覚えてる。

それからはあまり本を読まなくなったので、常に最新刊を追いかけていた訳ではないが、2020年の秋に前年刊行の「べらぼうくん」で久々に読んだ。きっかけは何かの紹介文だった、気がする。ある俳優のことですごく落ち込んでいる時期だったからか、様々な経験について綴られているこのエッセイはすごく身に染みた。やっぱりこの人の書くものって面白いな。テンポがいいし、視点も面白いし、いいこと言ってると思わせておいてオチがある、でも何かしら考えてしまう。

その後、Twitterで作者本人の告知を見て「おっ、またヘンテコな感じ、これは読まねば」と『ヒトコブラクダ層Z』は発売日に大人買いした。関西をまたにかけているイメージから一転、今度の舞台はメソポタミア。この発想力はどこから湧いて出るのか。ツイートも短いけど毎回面白いし、なんでこんな面白い文章が書けるのか。
着眼点も素晴らしい。一度、生徒に語ったことがあるが、エッセイに載っていた台湾のサイン会の様子にて「中国語だと漢字だけで表記するので本一冊の厚さが日本語の本よりも厚い。」「むっちゃおいしいでんがな、という関西弁の でんがな にあたる中国語はないので でんがな は大阪湾を渡れずに沈む」 ほんとだ!目から鱗とはこのこと、面白い!

トークショーで聴く


「この人から一度話を聞いてみたい」

いつからか、この気持ちをぼんやり持ち続けていた。そしたら、冒頭で述べた、ツイッターをふらふらしてたコロナ罹患後の私にトークショーのお知らせがドンピシャで舞い込んできた。「これは行かねば。」なんとしてでも体調を整えないと。

新大阪に着いた私は、迷うことなく地下鉄御堂筋線に乗り換えた。あべのハルカスが建っている駅で降り、ホテルで荷物を下ろし、会場に向かう。1週間の疲れが出ていたが、それを振り払うようにズンズン歩く。
天王寺商店街を真っ直ぐ行くと、お目当ての会場に到着した。ほうほう、一階がお洒落なカフェ。一瞬戸惑っていたら店員さんに「イベントですか?」と声をかけられ、二階に案内された。そんなに広くはないがちょうどいい大きさの店内に本が並んでいる。店員さんに案内され、着席した横にある本があまり地元では見ない感じ。これだよ、これ。本屋に来たって感じ。1人ニヤニヤしながら語学に関するエッセイをペラペラめくっていた。後で買いやすいようにキープしとこ。あ、『とっぴんぱらりの風太郎』のサイン本まである。これからサインもらうのにサイン本も欲しくなった、どうしよう、悩む。

そうこうしているうちに、トークショーが始まった。出版元の夏葉社の島田陽一郎さんとのトーク。いろんなことに話が弾んでおり、聞いていて心地が良い。
今回のエッセイで可能性の話について述べていたが「中之島美術館でモディリアーニ観に行ったんですけど」「久々に俺にも描けるんちゃう?って思いましたね」つかみはばっちり。「絵を見た後に絵の具セット売ってたら買うてますよ」面白すぎる!!爆笑してしまった。

また、『鹿男あをによし』でも「鹿がしゃべるからには社会批判を含んでないと」と言われ「鹿がしゃべってるだけでおもろいやん」「なぜ意味を持たせるのか」「おもしろければよい」と言いきる姿には勇気をもらえた。

印象に残ったのが、作家同士の話題。作家の津村記久子さんとサッカー観戦をした時のこと。「挨拶って漢字、『挨』と『拶』、挨拶のほかに見ます?」「どちらも同じような意味らしいし、ほかに使い道ないですよね」「他では使わないのにあいつら『挨拶』のためだけに使用頻度めちゃくちゃ高いんですよ」と趣旨の内容だった。

トークショーで話す


トークショーが終わり、サイン会に移った。座っている位置から順番に前へ移動する形式だったため、おっ、自分の番か?と思った時、さすがに緊張していて出遅れて次の番になってしまった。が、なんと万城目さん本人から「すいませんね」の会釈をしてもらってしまった。控えめな性格でよかった、私より先に行った人に感謝をせねば。

自分の番が来たので促してもらった。『万感のおもい』と『ザ・万字固め』にサインをしてもらった。大阪が舞台の「プリンセストヨトミ」にした方がよかったかなと思い、「プリンセストヨトミの方がよかったですよね」と意味不明なことを呟いてしまったが丁寧に「どの本でもいいですよ」と言って頂いた。

それから「挨拶」の話で思い出したので、これは同期に言われた話をするしかない!と自分の名前を書いてもらう際に「これで○○○○と読むんです。この前、『○○の○って先生の漢字を書く時にしか書かないじゃないですか、ほかに見たことないですよ』と言われてしまって〜、挨拶と一緒ですよね」と言った。そうしたら、「えっ、なんの先生ですか?」と話が弾み、「いやー高校で〜」「えー、○○から来てくれたんやて」「いや、もう、好きなので」「ずっと話聴いていたいです!」「3年振りなんですよ」「科目は?」「英語です、まだまだなので頑張らないと」「ここめっちゃ面白い本がたくさんありますよね!まだ買えますか??」など、万城目さんだけじゃなく、お店のスタッフさんとも話が弾んだ。
生真面目な父から受け継いだこの漢字に感謝、冗談を不快にならない話し方で常日頃笑かしてくれる同期に感謝。

全く控えめじゃないな、自分、と前向きな自尊心を自我の奥底から見つけ出し、本を四冊増やし、まさに万感のおもいで会場を後にした。



終わって思う


やっぱり行ってよかった。言葉の端々から感じる面白みとテンポ、頭の良さ、そして人懐っこい人柄。サイン会で一人一人に興味を持ってお話されていたのがとても印象的だった。

こうやって面白い話は紡ぎ出されるのか。

8月に出版される『あの子とQ』も楽しみだし、文春でもまた新しいお話を書いているらしい。また機会があれば最優先で話に耳を傾けたい。
「また行きたいし、また行かねば。」
そう思って大阪を後にした。

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