トイレ
中学三年生の秋頃のお話し。
部活も既に引退し、受験までもまだ間がある。そんな訳で、私達はよく遅くまで学校に残っていました。
その頃は放課後、日が暮れるまで駐輪場でバドミントン。その後、私の家でテレビゲームというのがパターンでした。
その日も駐輪場の垂れ下がった電線をネット代わりにバドミントン。その後、少し疲れたんで駐輪場裏の神社で一服しながら談笑してました。
そのうち、一人帰り、二人帰り、残ったのは
私、友人A、Bの三人。
A「みんな帰ったし俺らも帰ぇっか」
私「んじゃウチ行く?」
B「なんか面白え事やんべぇよ」
私「例えば?」
B「男子トイレ…行ってみねぇ?」
A、私「はぁ?」
多分、どの学校にもあるかと思いますが、うちの中学校にも
「七不思議」
が有りました。
・トイレの開かずのドア
・夜中動く「考える人」
・魔の第2コース
…あとなにか3つ(笑)
お約束の、「全部知ると不幸になる」というエピソード付き。
大人が聞けば
「はい、ありがち~」
な話しですが。(いや、当時もそんな感じでしたが)
でもね、在るんですよ確かに。
「開かずのトイレ」
本校舎の1F男子トイレ。
入って左手、4つ並んだ個室の一番奥。もうマンガみたいな
「開かずのドア」
パステルライムの壁に、むき出しの木製の板をクロスさせ、ドアを釘で打ち付けてあるんです。
噂としては
「昔、イジメを受けてた 男子生徒がここで…」
とか
「ここ、実は異次元につながってて、夜中になると…」
とか…
これまたよく聞く話し。
A「どうせ…なんも無ぇべ?」
私「無ぇだろなぁ…」
B「でもさ、今なら違うかもじゃね?」
確かに、噂を聞いてからも何度も(トイレですから)行ってるしドアを見ながら
「怖くね~w」
とか言ってましたが。全部昼間でしたね。
私「面倒だからいぃよ」
A「却下だな~」
B「何?ビビってんの?」
この一言でスイッチが入りました。この当時の私達にとって
「あいつビビってる」
というのは、相当な侮蔑の言葉でした。
私「は? ビビってねーし」
A「いーぜ、行くべぇよ」
秋の夕日はつるべ落としと言われますが、その時もそんな感じで
…いや…
そう記憶してるだけかもしれませんが。神社の裏から学生玄関までは100mあるかないか、さっきまでは薄暗いくらいだった筈なのに、玄関を入ると廊下は真っ暗でした。
ここからトイレまでは50m足らず。
神社からここまで、
「俺の兄貴の友達が…」
とか
「本当にあったらしいん だけど…」
みたいなプチ怪談をしながらトイレへと向かいました。
真っ暗な廊下を歩き、近づくにつれ、少しずつ口数も減っていきました。
心のなかで、AかBのどちらかが
「…やっぱやめねぇ?」
とか言い出すのを待っていたんですが、期待も虚しくトイレの前へ。
非常口の明りだけの真っ暗な廊下で、さらに暗く口を開けるトイレ。駐輪場に照明がある筈なのに、すりガラスのためか灯かりが入っていません。
私「俺、電気つけるよ」
やけに張りきって言いました。二人ともビビってるから、勇者になりたかったんですね。
(左手の壁スイッチ…左手の壁スイッチ…)
目をつむり、それだけ考えてました。何故なら、右側の壁には手洗い場と鏡がありましたから。
スイッチに触る。
カチッ
灯りが付く
別に何もない。
私「ほらな…別になんも起こらないじゃん」
B「そりゃそうだ」
A「んだよ、Bが『行こう』っつったんだろ」
私「んじゃ、帰るか。」
A「待てよ、このまんまじゃな…そうだ、あそこ覗いてみねぇ?」
(オイオイオイオイ…)
皆様ご存じかと思いますが、学校のトイレのドアの下って、数㎝開いてるんですよね。
そこから中を覗こうと。
B「馬鹿!いいって…」
A「は?ビビんなよ…」
B「誰がやんだよ…」
私「そりゃ勿論言い出しっぺでしょ」
A「んじゃBな。」
B「待て待て、俺は『行こう』って言っただけで…」
私「だな。言い出しっぺA」
A「なんでだよ!」
灯りが付いてるんで、さっきまでと違ってみんな元気です。いつも通りのやりとり。
B「んじゃ、ジャンケンで」
結局、負けたのはA。
A「絶対逃げんなよ!」
B「わかったよ」
A「置いてくなよ!」
私「いいから早く…」
Aはタイルに四つん這いになり、ゆっくりと開かずのトイレの下を覗き込みました。
A「うぁぁぁぁっっ!」
叫ぶやいなや走り出すA
私とBも
「何だよ!?何だよ!!?」
と叫びながらAに続いて走りました。
なにか、普段と違う「狂気」のようなものをAの声に感じたのです。
トイレを飛び出し、階段を駆け上がる。渡り廊下を抜けて、別校舎の職員室へ。その時間、校舎内で照明が点いてるのはそこだけだったんです。
職員室の前に行くと、入口の前でAが座りこんでいました。職員室に着いて安心したのか、
震える
とか
取り乱す
というより魂が抜けたようでした。
B「何だよ急に!」
A「悪ぃ…だけどさ…」
私「何だよ、お前が急に 走るから、オレら…」
A「あった…」
B「何が」
A「違う、目が合った」
私「は?目が有った?」
A「違う、目が合ったんだ よ!」
B「は?」
A「オレ…覗いたじゃん?そしたら…」
怖がりながら、トイレのすきまをゆっくり覗きこんだら、向こうからも誰かが見てた。まばたきした。
そうAは言いました。
私もBもAが嘘を言ってるとは思えません。嘘なら判りますから。
大声をあげて廊下を走って来た私達を見咎め、注意をしに来た教師に事情を説明しましたが
「そっか、そりゃ大変。いいから早く帰れ」
と言われただけでした。
そのままではどうしても帰れなかったので頼み込んで備品の懐中電灯を貸してもらい、三人で帰り、そのままAの家に泊まりました。ちょっと一人では寝れそうもなかったので。
その後、Aには変わった事もなく普通に暮らしています。ただ、未だに暗い所を覗くのは嫌だそうです。
「なんか、目がありそうで…」
との事です。