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マイク録りとプロファイリングアンプ、アンプシミュレーターを一通り経験して感じた、それぞれのメリデメ
POD2から始まって、最終的には4x12キャビにマイクを立て、でもそこからKemperへと移行。そして最近はーー
我ながら、色々やってきたなぁと思う。
自分が良い音を出せた/収録できたかどうかはわからないが、いろいろ経験してきたからこそ、そのいろいろなツールでギターを録ることの、それぞれのメリットやデメリットについて買いてみようと思う。
実機(ギターアンプのマイク録り)
実機を使うことのメリット
本物であるということ、それが最大のメリット。
とだけ書いても本物ってなんだという話になるので、細かく噛み砕いてみると。
何より、唯一無二の音を録れること。
機材のチョイスやセッティング、環境など、あらゆる要素が複合的に作用して、他人には再現できない、オリジナリティのある音になる。
それはマイク録りの難しさという意味でもあるのだけど。
さらに、コストを掛ける覚悟さえあれば拡張性に上限がない。用意できるのであれば、ありとあらゆることが可能だ。
世界で一番良い音を出せるとしたら、それはきっとこの環境。
実機を使うことのデメリット
はっきり言ってコストが掛かる。
多分、ほとんどの人が想像するよりも遥かに多くのコストが掛かる。
実用レベルの機材は決して安くはないし、アンプ以外にも必要なものが大量にある。
が、機材を揃えることすらも入り口に過ぎないのが厄介なところ。
例えばスピーカーユニット、個体差はかなりある。
ちゃんと良い音(ここでは自分の好みの音の意味)を出そうと思ったら、同じスピーカーユニットを10個くらいは揃えて選びたい。
そして、機材だけでなく環境が整っている必要がある。
よほどの田舎でもない限り防音されていなければいけないし、適切な広さも必要だ。
4発キャビを完全に鳴らすのであれば、防音された環境で、少なくとも10畳程度の広さが必要なのだとか。
オンマイクのみなら部屋の広さの影響は限定的だと思うのだけど、しかし何か不足を感じた時に、その原因が部屋の広さではないと確信を持つのは難しい。
これは実機を使っていた時に結構悩まされた部分だった。問題が自分の収録スキルにあるのか、環境にあるのか。切り分けるのが難しい。
さらに、メンテナンスコストも掛かる。
アナログなハードウェアは生き物のようなもので、ありとあらゆるものが経年劣化する。定期的にメンテナンスが必要だし、ある日突然壊れてしまうかもしれない。
色気を出してヴィンテージのアンプなんかを買ってしまったら……大変だよ。
再現性がない、というのも厄介な点。
無限の可能性は、音に影響する変数が多すぎるとも言える。
それゆえ一度バラしてしまうと、同じ音を再現するのはほぼ不可能。
以前収録した時の音を再現したいだとか、一部分だけを前と同じ音で録り直したいだとか、そういったことはできないと思ったほうがいい。
それらをクリアした上で、知識や技術、経験も必要というのもなかなかしんどいところ。
正直なところ、一般的に想像するよりも遥かにお金と時間、何より忍耐力の要る手段だと思う。
プロファイリングアンプ
プロファイリングアンプを使うことのメリット
初めてプロファイリングアンプを触った時は正直、感動した。
100%再現が可能とまでは言わないが、85〜90%くらいの再現は可能だと思う。
現在、最もクオリティと実用性のバランスが良い選択肢かもしれない。
比較的可搬性が高いのも利点。
環境を90%近く再現できるものをどんな仕事場にも持ち運べるのはとても魅力的で、特に演奏を生業としている人には大きなメリットになると思う。
デジタルなハードウェアだけど、専用機であればライブでの信頼性も比較的高いと思う。ツアーではプロファイリングアンプを使うアーティストが多いのも納得。
他人のプロファイルを使うことで、他人の環境を低コストで手に入れることができるというのも良い。
実機を用意しなくても、リグを買うだけで世界中のあらゆるアンプを再現することができる。
初期投資としては安くはないが、実機で収録できる環境を揃えるよりは遥かにコストを抑えることができる。
頑張らないと買えないけど、絶対に手の届かない値段ではない。割と現実的な選択肢ではあると思う。
プロファイリングアンプを使うことのデメリット
プロファイルは「ある一つのセッティングを再現する」ことしかできない。
その状態からツマミで補正することはできるけど、それは実機のツマミを操作することとはちょっと違う。
これが結構厄介で、ちょっとこの帯域を抑えたいだとか、ちょっとマイクの位置をずらしたいだとか、そう思ってみてもなかなか思い通りには変化してくれないことが多い。
そしてもちろん、プロファイルできる環境がないと、他人の環境をひとつ切り取って借りてくることしかできない。
これは他人の作ったプリセットをそのまま使うことしかできないということでもあり、そういう意味では自由度は低い。
プロファイルできる環境を持っていたとしても、デメリットはある。
実機の項で書いた通り、環境だけ揃っていても良い音で収録できるとは限らない。
それができて初めて良い音でプロファイルできるという意味では、その部分は実機のデメリットと被るかもしれない。
良い音で収録できるところまでいかなくても、プロファイルできる環境がある場合、他人のプロファイルはあまり魅力的には感じないかもしれない。
自分の好みのリグは意外と自分にしか作れないもの。満足するかは置いておいて、作れてしまう分、自分とは違う人間がプロファイルしたものは結構痒いところに手が届かないと感じてしまうもので。
……まぁ、それは人によるのかもしれないけど。
アンプシミュレーター
アンプシミュレーターのメリット
とにかく低コスト。高くても1〜3万円前後、無料でも音を鳴らすことができる。
他の手段と比較するとコストパフォーマンスの高さは圧倒的。
ひとつひとつが安いので、まったく別の環境を追加するのも低コスト。
プロファイリングアンプほどの再現性はないかもしれないが、これも大きな魅力のひとつだと思う。
デジタルゆえに(アナログのシミュレーターもあるが、それは除外)セッティングを保存しておけば100%再現することができる。
これは地味だけど、実機と比較すると大きなアドバンテージだと思う。
良かった時の音を簡単に再現できるというのは非常に楽だし、使い方によっては録り終えてからも微調整が可能というのは、他の手段にはないメリットかも。
最後に、これは主観的な話なのだけど、品質的にも他と比べて明らかに劣るものではない、と思う。
今のシミュレーターなら100点満点中の80点くらいの音を出すのは難しくない。残りの20%はどこまで他者から理解されるかは難しいところなので、潔く切り捨てるという選択肢も悪ではないと思う。
アンプシミュレーターのデメリット
セオリーにない音、想定していない用途の音を出すことはできない。
あまり歪まないアンプをブースターで無茶苦茶歪ませてみたりとか、インピーダンスのミスマッチを利用してみたりとか、そういうセオリー外の使い方が意外に良い結果をもたらすこともあるのだけど、そういった状況を再現することは難しい。
そんなに突拍子もない使い方でなくても、例えばマイキングを調整する程度のことだって、ものによっては難しかったりもする。
それと関連して、選択肢が狭いのも大きなデメリットではある。
どうしてもこの音が欲しいと思った時に、当たり前なのだが、それが用意されていない場合は使うことができない。
市販されているものに自分の好みの音のものがなかったら割と絶望的だ。
ソフトウェアの場合はライブで使うのは厳しいかもしれない。
いつ落ちるかわからないPCをアンプの代わりに使うのは、かなり勇気が要る。
実機はもちろん、プロファイリングアンプと比べても実機の再現性は低い。
が、実機を完璧に再現しなければならないかどうかは、人によると思う。
話のオチ
安定して確実に合格点を取れる環境を目指すのか、頑張れば高得点を狙える環境を目指すのか。
実機は究極の後者、アンプシミュレーターは究極の前者。プロファイリングアンプはそのいいとこ取り。
各々にとってどちらのメリットを取るかという話であって、優劣はないように思う。
目指すものや機材の好き嫌いは人それぞれ。
最終的に評価されるのは出音だけ、しかも合格点より上はなかなか加点要素になりにくい、というのは頭に入れておきたいところ。