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リアリティドラマ シーンイメージ〜「日本初女性首相インタビュー その誕生経緯①」(ドラフト)

総理インタビュー

ダメ元で総理にインタビューを申し込んでみた。
観音崎総理はさすがにお忙しいので無理だろうと思ったが、対応してくれたのには驚いた。オンラインではあるものの、自分のようなまだ3年目の若いフリーライターが首相に単独インタビューさせてもらえるだけでも異例だが、取材には気さくに応じるというのがポリシーとのことだ。聞くところでは毎日4,5件の取材を受けてるという。彼女は英語と中国語もできるので外国ジャーナリストの取材にも対応している。
ただ一つ条件があった。インタビューは党側でライブ中継すること。これは連立与党すべての議員や閣僚についてだ。インタビューアも一緒で匿名は許されない。Youtubeで全世界の誰でも視聴することができ、それはアーカイブされる。

「今後の政権運営については他でいろいろとお話されていらっしゃると思うので、私からは是非、今回の歴史的大転換とも言うべき政権交代はなぜ可能だったのか、そこをお尋ねしたいと思います。勝因はなんだったとお考えですか?」

限られた時間、最初から核心に突っ込んだ。

「そうね。それは国民が望んだからでしょう」

ステファニーはあっさり答える。

「お・・おっしゃることはたしかにそうですが、でもそこに持ち込んだのは貴党の戦略があってのことですよね?」

「ごめんなさい。ちょっとそっけなさすぎね」

ステファニーは笑う。

「ピリカさん、自民党の支持率はご存知ですよね」

「だいたい3割強ですよね」

「では無党派層は?」

「5割弱くらいですね」

「政党の支持者もほんとうに積極的に支持しているのはそのうちの4割くらいという見立てもありますよね。つまり他に選択肢がないから仕方なくと」

ライブ映像の真ん中には、WEBサイトが表示されている。ちょっとしたインタビューにもこうしたデータを参照する。ステファニーと私はそれぞれワイプになっている。

「方や政治への関心は8割。さすが日本人、高いですよね。投票に行こうという方は9割。にも関わらず実際の投票率はなんと5割。こういう数字を見れば、自ずと戦略は見えてきませんか?」

「とおっしゃいますと」

「無党派層、棄権層、それと他党の消極的支持層を取ることです」

「でもそれはどこの党も当然のごとく考えていることですよね?」

「はい、もちろん皆さんお考えでしょうね」

ステファニーはカメラ越しにピリカに改めて視線を送る。カメラ目線はなかなか難しい。どうしても相手の映っているモニターに視線が行きがちだ。ネット会議慣れしてるのもありそうだが、そういうカメラシステムを使っているのか。

「ピリカさん、国民はこの国の政治の何に失望してるとお思いになります?」

「そうですね・・・一概には・・・」

ちょっと言葉を濁してしまった。

「どの党も国民に耳障りのいいことを訴えてますよね。当たり前ですけど。どの党も美味しそうな・・・でもないでしょうか、まぁまぁそれなりな”絵に描いた餅”を掲げます。しかも選挙の時にだけ」

ディスプレイに各党のマニフェストを比較した一覧を表示させる。

「このマニフェスト、なんだか細かな各論ばかりで、ぱっと見てわかりますか?仕事に追われる貧困家庭や遊ぶのに忙しい若者が。どれを見ても当たり障りのないものですし。この中から自分の”意向”にマッチした政党がどこかなんて、普通わかるでしょうか。ピリカさん、わかります?」

「そうですね。正直私もいつも困っていました」

「だから国民はいつも妥協を求められるんです。でも日本人は妥協を許しませんからね、生真面目ですから。だから世界を驚かせる技術やアートを生み出せる。妥協ではなく諦めですね」

失望は、実は諦めなきゃいけない政治に対してなのかもしれない。

「これ、”対立軸”はなにかしらね」

「そうですね・・・。なんでしょう」

つい率直になってしまう。

「経済政策、子育て支援・教育、年金・社会保障、外交・安全保障、憲法、原発・エネルギー、ジェンダー・多様性・・・ピリカさん、これって理念とか目標でしょうか?」

「ではないですね。政策ですから。手段でしょう」

「ですよね。では一体彼らはどういう国を目指そうとしてるんでしょう。」

「キャッチコピーで最近共通してるのは、”改革”でしょうか。つまり今停滞していることは共通認識でそれを変えないとならないと」

「そうですよね。でも何をどうやって変えるのか。変えた先にどんな日本があるのか。ちょっと私にはなんだか良くわかりませんでしたし、結局彼らの違いが見えませんでした。ピリカさんは?違い、わかりました?」

「そう・・・ですね」

やはり返答に窮する。

「岸田総理は成長と分配と言っていましたよね。誰も成長が先とも分配が先だとも明確には言っていません。結局両方あるに越したことはないと皆言っています。ただ、これも手段でしょう」

政党を比較するには政策だと普通に思ってるが、それではなんだか釈然としない。それもフラストレーションの原因なんだろう。なら理念目標とはどんなものなんだろう。

「例えばアメリカですけど、共和党と民主党の対立軸はご存知ですよね?」

「自由か平等ですね」

「ですよね。自由と平等、ピリカさんはどっちが大事?」

「え・・・どちらかと言えば・・・自由でしょうか。でも平等も大事ですけど」

「ピリカさんには、この2つは対立軸?」

「たしかにジレンマではあります」

「共和党が”自由”を、民主党が”平等”を”最上の理念”として掲げていて、そこからすべての政策を作ってるんですよね。トランプさんからはちょっと変わってきましたけど。一応原理的には、あのふたつの政党はそういう”価値観”に立っているわけです。それぞれがそういう役割分担をして、アメリカ政治という大きな構図をバランスしているんですよね」

「では今の日本の政党をそれで分けることはできるかしら」

「どうでしょう。どの党も両方とも・・・というか、明確にどちらとは掲げていないように思います」

「そうね。それで党の内部でバランスを取る。それをそれなりに上手くやってる・・・ように見えるのが自民党。バランスを取り切れなくて収拾がつかない感じなのが野党、みたいな、でしょうか」

ステファニーは笑う。

「日本のテレビ局が常に公正中立ていうのも似てますね。まぁ放送法がありますから仕方ないんでしょうけど、アメリカでは共和党、民主党と”局としてのポリシー”をだいたいはっきりさせてます。向こうの人は白黒はっきりさせる人たちですからね。白も黒もなんてどっちつかずなこと言ってると、なんだこいつって思われちゃう。日本は逆ですよね。どっちとはっきり言うと、なんだこいつ浅はかなと思われるんですよね。もちろんアメリカ人もだいたいみんな自由も平等も両方共大事だと思ってるんですよ。でもどちらかを選ばなきゃならないという場面というのも実際あって、その時にはちゃんと決めなくちゃならないんです」

日本人に意見を聞くと、ニュートラルやモラトリアムな人が多めだ。もっと議論しなければとか、自分は白だけど黒という人もいるから一概には言えないみたいな。日本人は繊細で賢くて優しい。いろんなことに気配りができてきちんと考えるから、なかなかどちらとも決められない。議論、debate。これはアメリカではある意味”ゲーム”だ。白と主張する人と黒と主張する人が戦って決着をつける。それが彼らの”議論”なんだろう。グレー同士が戦っても決着をつけようがないし、そもそも争点がわからない。

「日本では欧米式の二大政党制は無理でしょう。”自由で平等な社会”。どの党も目指す山の頂きは突き詰めれば同じですから」

たしかに。同じ”民族”なのだから無理もないのか。でも登るコースが違うのかもしれない。いやもしかしたら与党も野党も同じコースなのではないか。違うのは誰が率いるのか。そこで”非アベ”、”非自民”となる。ただ、そのコースさえ明らかでないことの方が多いが。

「そこで他の選択肢があったらどうでしょう」

「それが対立軸ですか?」

「そう、イデオロギーでもなく基本理念でもない、日本人にわかりやすい対立軸。それが私たちの選挙戦略でした」

たしかに選挙戦で示されたのは対立軸だった。
《システム民主党》は、”間接制 vs 直接制”
《ユース日本》は、”高齢者 vs 若者”
《日本から貧困をなくす党》は、”富裕層 vs 貧困層”
選挙期間中はただそれだけを訴えていたようにも思う。

「間接民主制」「シルバー民主主義」「格差社会」
これが”今の日本と政治のカタチ”。
多分明に暗に国民はそこに”なしかしらの不満”を感じていたろう。しかしそこに対するアンチテーゼはあるようでまだなかった。少なくともはっきりとそれをうち立てた政党は。

「ただ私たちは直接民主制を目指してるわけではないんですけどね。国民が主体的に政治に関われるようにしたいんです。そのための選択肢を作ろうとしています」


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