【運用部コメント】足元好調な新興国市場の現状と今後
引き続き世界的にコロナ禍となるなか、各国・地域の政府および中央銀行による大規模な財政出動や金融緩和の影響もあり、直近の金融市場は上昇基調となっています。なかでも、新興国市場は足元好調といえる状態にあります。そこで今回は、新興国市場の現状を考察しつつ、今後の展望を考えるうえでのポイントをお伝えしていきます。
1. コロナショックから一転して上昇基調を続ける金融市場
昨年、2020年の金融市場は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、2020年3月上旬に投資家の急激なリスク回避姿勢を受け、主要資産が大きく売り込まれました(いわゆる「コロナショック」)。その後、主要先進国・地域が強力な財政金融政策を発表したことなどから、投資家のリスク回避姿勢が和らぎ、2020年3月下旬には主要資産が大きく上昇に転じる展開となりました。
株式は、2020年11月の米大統領選通過による政治的な先行き不透明感の後退に加え、COVID-19向けワクチンの接種開始を受けた経済回復期待などから、さらに上昇基調を強めています。とくに新興国株式および新興国通貨は、投資家のリスク回避姿勢が和らぐなか、米ドル安が進んだ影響などから、主要資産のなかでも際立って大きく上昇しています。
2. コロナショック直後の悲観から遠ざかる世界経済の見通し
2020年4月、国際通貨基金(IMF)は世界経済見通し(World Economic Outlook、WEO)を発表しました。COVID-19のパンデミックによって、2020年の経済成長率が著しく低下し、過去最速のペースで各国の経済が収縮しており、1930年代の世界恐慌以来の景気後退に直面するとの内容でした。IMFは見通しのテーマを“The Great Lockdown”としており、パンデミックはすべての国の経済活動に影響を及ぼし、2020年1-3月期に大きな影響が生じた中国を除いて、2020年4-6月期に被害が集中すると想定していました。また、2020年6月に改訂値を発表し、2020年の世界の経済成長率を前年比▲4.9%と予測しています。
しかしながら、続いて2020年10月に再度発表された改訂値見直しでは、2020年6月発表の「WEO改訂見通し」で示された予測ほど深刻な経済収縮ではないとの見解から、0.5%ポイントの上方修正を行い、前年比▲4.4%としました。この修正は主に2020年4-6月期が予測を上回る結果になったこと、2020年7-9月期により一層の力強い回復が見込まれたことが反映されています。とくに前者については、2020年5月および6月にロックダウン(都市封鎖)が緩和された後、経済活動が想定よりも早く回復し始めたことを受けてのものです。また、2021年の世界の経済成長率については、2020年の景気後退が想定よりも緩やかになりそうなこと、その一方でソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保が当面続くと見込まれることを反映し、2020年6月のWEO改訂見通しよりも若干低めに予測されています。
これまでとは別に、世界銀行が2021年1月5日付で発表した「世界経済見通し」では、2021年の東アジアおよび太平洋の新興国・地域の経済成長率の予測を前年比+7.4%とし、2020年6月発表の前年比+6.6%から0.8%ポイント上方修正しています。世界銀行は、COVID-19の影響について国・地域によってばらつきがあり、封じ込めに成功した中国とベトナムでは生産と輸出の増加に加え、公共投資の後押しもあって経済成長が拡大したと捉えています。一方、その他のフィリピン、マレーシア、タイなどでは、観光に依存した産業構造が足を引っ張るかたちで経済が低迷している旨を指摘しています。
3. 新興国市場の今後を考えるうえでの注意点
国・地域によるばらつきはあれども、外出制限をはじめとした経済活動の制限の緩和に伴い、概ね新興国の経済活動は回復傾向にあります。しかしながら、財政面での刺激策が正常化に向かうにつれて、景気回復のペースは緩やかになっていくことが予想されます。
また、新興国が利下げなどの金融緩和策を行うと、資本が流出することで自国通貨安、高インフレとなる傾向があるため、通常は慎重を期すことが求められます。ただ、今般については、米国をはじめ先進国が率先して利下げや資産買入れの増額といった大胆な金融緩和策を行ったことで、新興国から先進国に資金流出が起きていない要因になっていると考えられます。そのため、新興国において利下げしてもインフレ率が抑制されている点を市場がポジティブに受け取り、足元で新興国株式および新興国通貨の上昇につながっているといえるでしょう。
このように現在、世界的に強力な財政金融政策を実施していること、COVID-19向けワクチン接種が拡大していることをもって、新興国をはじめ金融市場は好調を維持しています。一方で、各国の財政出動はIMFの想定を上回って増加すると推測されています。これによって今後、政府債務残高対GDP比が大きく上昇するおそれがあります。その際、金利上昇による利払い負担が重くなるリスクがある点には注意を要するでしょう。好調の時こそ、リスクに対する意識的な備えを忘れないようにしたいものです。