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【運用部コメント】アフリカ諸国の通貨制度と統合通貨「ECO」

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴って、これが世界経済全体に与える影響が懸念され、またこれに基づいて金融市場も大きく変動しています。しかし、こういう時こそ、冷静かつ丁寧に観察していくことが重要です。

そこで今回は、新興国市場の中でもアフリカ地域に焦点を当てて、アフリカ諸国の通貨制度と統合通貨「ECO」の足元の動向について考察していきます。

二極化が進む新興国通貨

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が拡大しています。金融市場を見ると、ダウ工業株30種平均は2020年2月最終週、週間ベースで3,583.05ドルと過去最大の下げ幅で、下落率は12.4%と2008年の世界金融危機以来の大きさでした。そうした中、新興国通貨も例に漏れず下げ幅を拡大しています。

ここで昨年からの新興国通貨の動きを見ると、対米ドルで上昇している通貨と大きく下落している通貨があることがわかります。特にブラジル・レアル、南アフリカランドなどは今年に入り7.0%超下落しており、他の新興国通貨とは様相が異なっています。

両国に共通する点として資源依存度が高いことがあげられます。主な輸出品である鉄鉱石や石炭は、世界最大の消費地である中国経済が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で大幅な減速に陥っているため価格が下落しています。輸出が落ち込めば、これらの国々は大きな影響を受けるため、通貨の下落につながっていると考えられます。

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グラフ1のように、足元で新興国通貨の二極化が進んでいる一方で、比較的安定した地域があります。アフリカです。以下、ヨーロッパに程近い北アフリカ地域を除く、サブサハラアフリカ地域(サハラ砂漠以南のアフリカ諸国)の通貨制度と、西アフリカにおいて兼ねてより話題に上がっていた統合通貨「ECO」について見ていきましょう。

アフリカ諸国の為替推移と通貨制度

2019年のサブサハラアフリカ地域の主要通貨の動きを見ると、サブサハラアフリカで10位以内の経済規模を誇るアンゴラ、ザンビア、そして南アフリカでは通貨安が進行しました。しかし、ナイジェリア、ケニア、CFAフランなどの通貨は比較的安定した価格推移をしていることが見て取れます(グラフ2、対米ドル、2019年3月1日を100として指数化)。

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アフリカ諸国の通貨が比較的安定している要因の一つに、通貨制度が挙げられます。採用通貨制度をみると、固定相場制を採用する国が21カ国、管理変動相場制を採用する国が17カ国と、サブサハラアフリカ諸国の半数を超えています。

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なかでも、6カ国から構成される中部アフリカ経済通貨共同体(Communauté Économique et Monétaire de l'Afrique Centrale:CEMAC)と旧仏領西アフリカ諸国を中心に8カ国から構成される経済通貨同盟(Union Economique et Monétaire Ouest Africaine:以下UEMOA)は、CFA フランというユーロにペッグ(※1)した通貨により通貨同盟を実現しています。この2つの通貨同盟では、固定レートによるユーロとの自由交換が、旧宗主国であるフランス政府によって保証されており、現状では大きなセーフティーネットとなっています。

※1 ペッグとは、自国の通貨と特定の通貨との為替レートを一定に保つ制度のことです。 ペッグ制は、経済基盤が不安定で輸出競争力のある産業をもたない国等が、多く採用をしています。

統合通貨「ECO」とは

2019年12月21日に、フランスのマクロン大統領とコートジボワールのワタラ大統領は、ECOWAS(※2)の統合通貨「ECO」の導入を決定しました。ECOWASの内、CFAフランを採用しているUEMOAについては2020年中の導入を目標(※3)としています。

※2 ECOWASの加盟国は、CFAフラン圏であるUEMOA加盟国のベナン、ブルキナファソ、コートジボワール、マリ、ニジェール、セネガル、ギニアビサウ、トーゴの8ヵ国、及び非CFAフラン国のガンビア、ガーナ、ギニア、リベリア、ナイジェリア、シエラレオネ、カーボベルデの7ヵ国の合計15ヵ国。

※3 中部アフリカ経済通貨共同体(CEMAC)もCFAフランを採用していますが、UEMOAとは異なる通貨圏であり、新通貨の導入は予定されていません。

ECOはCFAフランと同じく、フランス政府によってユーロとの固定レートによる交換が保証されるとのことです。ECOWAS加盟国15カ国のうち8カ国がユーロとペッグされているCFAフランを、残り7カ国では独自の通貨を採用していますが、2000年初頭よりECOWAS域内での統合通貨の導入が検討されてきました。とくにCFAフランを導入している国は外貨準備高の50%をフランスの国庫にて管理する義務が課せられており、現在も旧宗主国であるフランスによる経済支配下に置かれている状況にあります。

ECO導入が実現すれば、これまでCFAフランで適用されていた上記の外貨準備の国庫への預託は廃止され、UEMOAはフランス政府の管理から離れる形になり、域内諸国の経済的独立が求められることになります。

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統合通貨「ECO」導入に現実味はあるのか

一方、エコノミストらはECOの導入については非現実との見方を示しています。ECOWAS経済圏の総生産の3分の2をナイジェリアが占めている現状から統合通貨の導入は加盟国の経済リスクにも成り得ると警鐘を鳴らしています。

また、ナイジェリアを筆頭に独自通貨を採用しているECOWAS内諸国とCFAフランを採用しているUEMOAの立場の違いから導入までには引き続き時間を要するという見方もあります。ECOもユーロでペッグされる運用がなされることから、現行のCFAフランからの移行に明確なメリットを見いだせないという見解もあります。

ECOへの移行条件においても厳しい基準が設定されています。年間のインフレ率を低水準に抑えること、財政赤字をGDP比4%以内に抑えることなど、UEMOAを除くインフレ率が高水準のECOWAS諸国内では導入への障壁が高いといえます。

とはいえ、ECOが導入されることになれば、域内貿易は促進され、通貨の信頼性および流動性が高まることにより直接投資や援助の積極性が向上し、アフリカ経済の活性化に繋がることにもなります。これを踏まえれば、今後も動向を注視していきたいところではあります。

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