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【運用部コメント】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大が与える新興国経済への影響

最近は中国・武漢発の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴い、世界の実体経済に対する懸念も日増しに大きくなっています。そこで今回はこれが今後の新興国経済へどの程度影響を与えると考えられるかについて考察していきます。

アウトブレイク(感染拡大)中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年12月31日に最初にWHO(世界保健機関)に報告され、2020年3月4日現在、その感染者95,124人(うち中国本土の感染者80,271人)、死者3,254人(うち中国本土の死者2,981人)となっています。

現在でもそのアウトブレイク(感染拡大)が続いており、2002 年11月から 2003 年7月に中国南部を中心に拡大したSARS(サーズ:重症急性呼吸器症候群、発症者8,096人、37ヶ国で 774人が死亡、致命率 9.6%)をゆうに上回る規模に拡大しています(グラフ1)。

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ここにきて感染者数の増加率は逓減しているものの(グラフ2)、その絶対数は大きく、今後この感染症の拡大やその経済活動に与える影響は現段階では予想不可能であり、予断を許さない状況が当面続くと考えられます。

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2002年11月~2003年7月の資産クラスの動き

念のため、17年前のSARSが感染拡大した時に、市場では何が起きていたかを振り返ってみましょう。SARSが流行した時は、ドットコム・バブル崩壊後に約3年あまり続いた株式の下落相場の終わり頃であり、また第二次湾岸戦争(イラク戦争、イラクに対する最後通牒:2002年11月8日、戦闘時期:2003年3月20日~2003年5月1日)と重なっています。

第二次湾岸戦争はしばしば「ドットコム・バブル崩壊で 3 年続いた下落相場から反転上昇するきっかけになった」と語られますが、SARSが市場に与えた影響はあまり明確ではありません。表1の通り、開戦への不安感から、2002年11月から米ドル指数は下落し、戦争が終結した5月以降ようやく上昇に転じています。一方、戦争には直接関係がないと考えられた新興国市場の通貨は、2002年から始まっていた新興国投資ブームもあって堅調に推移しています。

株式市場は米国株および先進国株は、開戦前は先行きの不透明感を嫌気して売られていましたが、ひとたび戦闘が始まると米軍の一方的勝利が明らかになり、株式市場は大きく切り返しました。ただ、SARS感染が集中した中国広東省に隣接した香港株市場は、SARS拡大が続いている間は下げ止まらず、4ヶ月あまりで18%弱下落。SARSの直接的影響が最も大きかったのは香港市場でした。とはいえ、新興国の株式市場は、その通貨同様、概ね堅調に推移していました。このように17年前のSARS拡大・流行が、資本市場に与えた影響は限定的だったといえそうです。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大・流行が市場に与える影響

今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大期の起点をWHOに最初にその感染が報告された2019年12月31日とし、最初期の拡大期は2020年2月21日までと考えると、それは52日間でした。中国の春節(旧正月)休日の前後では世界的に一時的な大きな株価下落が見られましたが、2月に入ってからは堅調に推移しました。また米ドルも堅調でした。この時期を通して目立つ動きとしては、債券市場では金利低下が続いていたということです。これは先行きの不透明感を織り込みに行っていたと考えてよいでしょう。株式市場参加者と債券市場参加者の見方が異なった局面でした。

しかしながら、中国以外への感染拡大が明らかになってくると、2月24日の週には市場の様相は一変。世界的に株価は急落、ドル指数は下落、長期金利は急低下、そして恐怖指数といわれるVIX指数は急上昇しました。市場は今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の実態経済に与える影響の大きさにようやく気付いたということでしょう。

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中国本土経済が各国経済に与える影響

世界経済において17年前から変化した最大のファクターの一つは、中国経済の世界経済に与える影響度でしょう。世界全体の名目GDPに占める中国の名目GDPの割合は、2002年および2003年当時は5%程度に過ぎませんでしたが、2019年のそれは16%を超えています(Fitch Solutionsの推計)。2000年以降のグローバル化の進展に伴い現在中国はグローバル・サプライ・チェーンの要となっています。

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表3は、先進国の産業別サプライ・チェーンの中国エクスポージャーの大きさを表しています。先進各国のグローバル企業の多くは、中国を要としたグローバル・サプライ・チェーンを構築しており、特に電気機器産業、自動車産業および服飾産業は中国企業に依存する割合が顕著です。

一方、新興国を見てみると、中国本土経済の各国経済に与える影響度は、東アジア、東南アジアで極めて大きくなっています(グラフ3)。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大・流行が新興国経済に与える影響

1)旅行産業を通じて:
既に中国人旅行者の激減により大きな影響を受けていますが、なかんずく香港、シンガポールそしてタイに与える影響が大きいでしょう。

2)グローバル・サプライ・チェーンの棄損から:
中国はすでに東南アジア諸国の製造業者からの調達を減らしており、更に一次産品を輸出している国も影響を受けています。

3)商品価格の下落から:
中国経済の減速はサウジアラビア、ロシアのような産油国、そしてチリのような鉱業品産出国に影響を与えることになるでしょう。

前回(※)お伝えしましたが、OECD景気先行指数はG7を始めとする先進国の多くが景気サイクルの成熟期にある可能性を示しているのに対し、新興国市場諸国では景気サイクルの初期や中期の特徴を見せている国が少なくありません。

※ 以下をあわせてご参照ください。

このことから、今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大は、中国を要とするグローバル・サプライ・チェーンに依存するグローバル企業に今後甚大な影響を与える可能性は否定できませんが、中国に対する依存度が小さい東欧、アフリカ等の新興国経済に対する影響は限定的になると思われます。一方、比較的経済規模が小さく、中国本土に対する依存度が高い東アジア、東南アジア諸国は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大が早期に収束しないかぎり、景気後退は避けられないでしょう。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の実態経済に対する影響が経済指標に表れるのは2月分からと考えられるので、これまで発表された主な経済指標を見てみましょう。中国の国家統計局がまとめるPMI(購買担当者景況感指数)は、1月は製造業で50.0と、拡大・縮小のちょうど分岐点水準で、1月分についてはあまり大きな影響は見られませんでした。しかしながら2月のPMIは、製造業で35.7と、リーマン危機後の最低水準38.8を下回り、過去最低となったほか、同非製造業指数はさらに落ち込んで29.6となっており、2月の中国経済は事実上停止状態にあったことを示唆しています。

米国においても2月のサービス業PMI(速報値)が49.4に急落し、分岐点の50を割り込んだ。これも新型コロナウイルスの影響が反映されていると思われます。日本においては2月の新車販売台数が前年同月比10.3%減となる一方、百貨店売上げもJ.フロントが前年同月比21.4%減、三越伊勢丹が同13.6%減、高島屋が同11.7%減となっております。1-3月期のGDP成長率(前期比年率換算)の市場予想値は2.5%減となっており、2四半期連続でのマイナス成長となれば名実ともに景気後退期入りとなるといえるでしょう。

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