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No.1 空も夢もない地上
【共同アトリエ・F沿い通路 利用者の会話】
え? あぁ、共有のアトリエ区画は自分も行きますよ。
一緒にいきますか?迷っちゃいますよね。
…あの、その、その手に持っているの、台本ですか?ああ!奇遇ですね!自分も演劇、するんです!.あ、えっと、書く方、なんですけど。
もし、あの、えっと、その詮索は、しません、ルールだから。
え、話してくれたら同じだけ話す?
…あー…うー…『ボスや学芸員さんは人を信用するな』っていうし…でも、その台本の書き込みや付箋。決して、悪い人じゃない気がする。
じゃあ、その、もし、自分が話し終わった後、話してくれたら正しい道を教えます。でも、約束を守ってもらえなければ、違う道の方へ、危ない道の方を教えます。それで、よければ。
―わかりました。
…じつは、自分、演劇部にいたんです。
でも、演劇部の発表会なんて、年に1回、発表会や文化祭を含めても年2~3回。基本、回数少なくて。3年の学生生活でも10回とチャンスがないんです。
でも、そこに希望なんか、じつはあんまりもてなくて。どんなに頑張っても、地区大会の先、大きな大会に行くのは財力、というか、部費の予算がたっぷりさけて大きくて豪華な大道具を作れる名門か、よほど顧問の先生が演劇やってて、台本を書いたりしきっているとこだったから。生徒の努力じゃどうにもならない次元で物事が決まっていく、そんな世界です。いや、自分がそう見ているだけかも、しれないんですけど。でも楽しかったんです、演劇、好きでしたし。
ここにこようって決めるまでは。
…最近、外部指導講師?の方がくるきっかけで、顧問も変わったんです。二人はとても、演劇に詳しくて、「大会のため」っていって、今まで自由にやらせてくれる先生と方向ががらっとかわったんです。
「もしかしたら自分たちも地区大会の先にいけるかも」って、なにか変わるかなとおもったけど、なんか、その…部活というより演劇がなんで楽しかったのかもわかんなくなって、自分やめちゃったんです。キミが書くものは、未熟で、つまらないんだって。これで大会なんかいけるわけないだろうって。それでも先生方が台本書く人たちだから、教えてもらえるかなとかかじりついてみたんだけど、「忙しい」って目も合わせてもらえなくなった。二人とも自分で作品書ける先生でしたし、先生やコーチが昔書いた台本も過去に賞を取ったり、レベルが高いものだから。みんなそっちがいいんだ。それでも、そんな、台本に固執するのは自分ぐらい。
他のみんなは嬉しそうだった。役者担当のみんなは特に喜んでたよ。だって大会、でれるからね。裏方のみんなも喜んでた。その先生とコーチはいろんなとこにツテがあったから、ワークショップや臨時で学べる機会ももらえていたから。
だから、自分だけが、いらなかったんだ。
でも、しかたないよ。それが事実だったんだ。
それにその一つで結果が決まってくる。きっと、自分が書いたら、いつもの、有名な先生のとこがいつもどおり、県大会に行くんだ。せっかくみんなが喜んでいるし、自分だって、自分の学校の、好きだった演劇部が、大会に行けるチャンスが、出来たのは、嬉しかったから。よほどたぐいまれなる才能があれば特例的に生徒創作が選ばれることもあるらしいけど、自分はみたことない。熟練の専門技術と大道具の派手さに対して生徒の努力じゃどうにもならないもの。
まだ若いなら未来があるだろうって…。
…進学、しないんだ。したいけど。だから、演劇が出来るのは、もう、学生の間だけだと思ってる。
芸術系は学費が0がひとつ多いし、勉強も、得意じゃないし。自分が芸術系なんていったら、下の兄弟が、進学、出来なくなるからさ。親だって、そんな、確実に稼げるようになるかわからない進学先を選んだり、行きたいなんて言ったら、もっと心配かけちゃうから。
もっと、自分が、要領よければ、よかったんだけど。やっぱり、どう考えても、演劇を捨てるしか…。
努力じゃどうにかなるのかなって思った。でも、やっぱり、まず【そこ】にいける環境がないと、どうにもならない。なんないんだと思いながらも「もしかしたら努力で賄えるんじゃないか」と色々見に行ったり、本を読み漁ったり。でも、もう地上じゃ無理なんだ。
地上には空も夢もないから。
でも、ここはちがう!
危ないし、怖いし、部活の時間の代わりにここを出入りしてるなんて親にはいえないけど。ここは、頑張り次第でいくらでも作品をだせる。作品を読んで感想くれる人がいる。ずっと怒られっぱなしだったけど、でも、でも、表現のコツをもらったり、やっと、自分で1つ書ききった作品、褒めてもらえたこともあるんだ。
それに、ここの地下アトリエの人は、あなたみたいに、ちゃんと、目を見て、自分の話を聞いてくれる。
人を安易に信じるなって、ボスや学芸員さんはいうけど、でも、でも、あなたは、悪い人だとは思えません。
まだまだだけど、でも、ここの、地下の方が、よっぽど夢がもてるんです。