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女児向けアイドルアニメは、何を「強さ」として見せて来たのか?(Bパート)――『クリィミーマミ』から『プリチャン』まで

前回からスタートした女児アイドルアニメ評論。
前半では、黎明期~90年代にかけての状況を論じました。
クリィミーマミ』が「あこがれのアイドル界」像を呈示し、その神秘性こそが作品の「強さ」として機能していたことはお話しした通りです。

それでは続きを始める前に、前回(前半)のキーワードを振り返ってみましょう。

●女児向けアイドルアニメの重要なポイントは次の3点。
①主人公は視聴者に近い普通の少女
②不思議な力を行使して容姿が変身
③主人公がアイドルとして成長する

(今回も適宜参照します。文中の丸数字①~③は以上を示します)
●80年代以前は「手の届かないアイドル世界への『あこがれ』」こそがアイドルの強さだったが、90年代においては①②が独自に伸長し、③の退潮を招いた。

以上を押さえた上で、今回は00年代から10年代初頭におけるアイドルアニメ界の分析へ移りたいと思います。あれ、どうして「前半」の次なのに「後半」じゃなくて「Bパート」なんだろうか?(アバン終わり、OPとCMの後本編へ)

視聴者数の減少とコンテンツが目指す方向性の変化――ゼロ年代の試行錯誤

ノストラダムスの大予言が無事外れ、00年代を迎えた日本。ですが女児向けアイドルアニメ、いや子供向けコンテンツ全体の未来は明るいものではありませんでした。
少子化」です。

1990年、「1.57ショック(1966年「ひのえうま」の合計特殊出生率1.58を自然減少で下回る)」によって、日本は本格的な少子化社会に入ったと認識されるようになりました。(参照・「平成23年版厚生労働白書」p18
その結果、そもそもの視聴ターゲット層の数が減少を始めます。その影響が顕著に表れたのは、アニメの放送時間帯です。
1991年の『きんぎょ注意報!』以降、東映動画(現・東映アニメーション)制作の女児・少女向けアニメが放送されてきたテレビ朝日系列土曜19時枠は、1997年秋の『キューティーハニーF』枠移動により(00年代初頭の数年間は復活しますが)廃止となります。
また、テレビ東京においても(もともと少女向けアニメは18時台に編成されることが多かったとはいえ)、2003年からの『わがまま☆フェアリー ミルモでポン!』シリーズを除いて、19時台では女児・少女向けアニメが編成されなくなっていました。
主戦場が週末の朝と17・18時台となる時代の到来です。

女児向けアニメがゴールデンタイムの家族団欒に別れを告げ、明確に数少ないターゲット層のツボ(=関連商品の物欲)を突く精鋭の集まりへと変貌を遂げる激流のなか、新世紀は幕を開けたのです。

『プリキュア』の出現、対抗馬としてのアイドル復活――00年代『きらりん☆レボリューション』の登場

とはいえ、女児向けアニメの作品傾向はすぐには変わりませんでした。
①②に軸足を置いた『おジャ魔女どれみ』シリーズは新キャラを投入しつつ継続し、2001年には「不思議な力を使うのは妖精」という要素があるものの、①も重視した『わがまま☆フェアリー ミルモでポン!』がスタートします。

③に伴う「手の届かないアイドル世界への『あこがれ』」は欠くものの、「身近な日常」と「不思議な力」で女児の需要に応えていった00年代前半の作品たち。
ですがこの女児向けアニメ安定期は、2004年に開始した作品によって打ち破られることになります。
ふたりはプリキュア』から始まる『プリキュア』シリーズの登場です。

主人公はターゲット層よりちょっと年齢高めの中学生。
背伸びしたい年頃の女児にとって「自分の延長線上にある女の子」が主人公となるのは自然なことでしたが、
彼女たちが「不思議な力を行使して変身」するのは、
「日常」と「手の届かない『あこがれ』」の間隙を派手なアクションでぶち破る
「プリキュア」という全く新しいヒロインでした。

同作は③要素を単に矮小化したわけではありません。
「主人公がアイドルとして成長する」というポイントの「アイドル」部分を「ヒーロー」に置き換えることで、
「あこがれ」の対象で高嶺の花だった「アイドルの『強さ』」を「ヒーローの『強さ』」として画面上に可視化することに成功したのです。

その成果は、「同じブランドを継続しつつ、設定を完全に一新する」という女児向けアニメ界では異例の挑戦を敢行しながら、
04~13年まで(06年を除く)「関連商品売上100億円」を安定して達成していたことからも伺えます。
①②③(③は上記の置き換え後)が「型」として、特定の一作品に依存しない構図が早々に完成してしまいました。

毎年人気No.1の作品が生まれ、また翌年には別の人気No.1作品が生まれる。
女児向けアニメ界は、00年代中盤~10年代序盤にかけて「『プリキュア』シリーズ」VS「対抗馬」という構図に否応なく放り込まれることとなりました。

そんな中、「対抗馬」として再びアイドルを主軸に据えた『きらりん☆レボリューション(2006年)』が登場します。
ですが、③「主人公がアイドルとして(「強さ」へのあこがれとして)成長する」という構造は既にプリキュアに書き換えられてしまったため、別のアプローチを取らなければなりません。
そこで同作品は、「主人公が(身近な存在でありつつ)アイドルとして成長する」という方針で③を再構築することを画策します。「アイドル」が持つ神秘性を敢えて失わせたのです。
それと同時に②の「容姿が変身」も、アイドルとしてのコーディネートにその機能を代替させることになります。
この要素は、04年の『オシャレ魔女♥ラブandベリー』に端を発するトレーディングカードゲーム筐体の展開により補完されます。「なりきり」とも違う、「あこがれ」のリアルな追体験が作品への没入感を高めました。
プリキュアを卒業し、ファッションに興味を持った世代をアニメとアーケードゲームの両輪で引き込む。このポリシーが、この後の作品においても基本戦略となっていることは言うまでもありません。

その一方で『きらりん☆レボリューション』は、正統な少女漫画としての文脈を色濃く反映した作品でした。主人公・月島きらりは日常とラブコメという少女漫画のヒロイン役をこなしつつ、同時にアイドルとして成長しなければならない、というポジションに就くことになります。
ライバル・友達との対立、挫折と再起…。少女漫画におけるアイドルとしての成長は、しかし超然的なアイドル界というより主人公の日々の悩みに寄り添う形で遂げられます。
このことから、本作においては「アイドルとしての主人公」にあこがれを抱く向きは主眼から外され、もとよりアイドルの『強さ』を可視化する余地は限られたものとなっていました。

ですが、先述したように同作の貢献は絶大なものでした。アニメの技術面で顕著だったのが、「3DCG作画」の本格的な導入です。
当時は技術的な限界もありました。それでも「ステージを最大限に魅せる」という点において優れていたCG作画は、『フレッシュプリキュア!(2009年)』がEDにCGダンスを本格的に採用したことを皮切りに、女児向けアニメにおいて大きな立ち位置を占めることになります。
とりもなおさず、アイドルの強さが、純粋にキャラクターの「実力」描写に裏打ちされることが、来る10年代コンテンツの特徴となります。

しかしあらゆるステージを流麗に描く3DCGは、ともすればアイドルの「強さ」の平準化を招き、逆に成長過程の分かりにくさを招く可能性がありました。
その解決策として「アイドル」に独自のα要素を付与することで、視聴者に成長と実力のほどを印象付ける試みが始まります。
さて、この時点で現在に至る土台は整いました。いよいよアイドルアニメ界は、2010年代へと歩を進めます。

『プリティーリズム』は跳躍した――10年代「競技としてのアイドル」像の発明

2010年より筐体が稼働、翌2011年よりアニメ『プリティーリズム・オーロラドリーム』が放映され開始した『プリティーリズム』シリーズは、「アニメとアーケードゲームの両輪」を主としつつ、漫画を含むメディアミックスは両者に倣うという構図で制作されました。
主役であるアーケードゲームとのバランスを取りつつ、より「アニメならではの売り」を主導して展開できる環境にあったわけです。

同作は久々に①②③を良く満たした作品となりました。
②においては「プリズムストーンと呼ばれる小さなアイテムによって、コーデが形作られる」という設定をゲーム筐体とアニメで共有したことにより、アイテムが可愛いファッションとなる「不思議な力」が、視聴者とアニメのキャラクターを橋渡しする役割を果たしました。

そして特筆すべきは③です。『プリティーリズム』はアイドルとしての成長を描く際、「相対的なヒエラルキーやステータス」といった身近で無く実感しにくい要素を直接的に描くことを敢えて放棄しました。
そして、より直感的に「強さ」を感じられるものとして、女児にも身近であり、華麗さと優劣競技の両面を併せ持つ「フィギュアスケート」との融合に活路を見出したのです。

フィギュアスケートは厳密な採点競技。より高難度の技をミスなく成功させた者が勝利します。『プリティーリズム』はその概念を「プリズムジャンプ」というステージ最大の見せ場に援用しました。

「プリズムジャンプ」という一瞬のアピールを、成熟した3DCG作画で分かりやすく魅せる。「アイドルの『強さ』」が画面上に可視化された瞬間です。

しかも、主人公のアイドルとしての成長は「フィギュアスケートを頑張る普通の女の子」とリンクし、③「主人公が(身近な存在でありつつ)アイドルとして成長する」という難しい描写を見事に成功させました。

女児向けアニメには不可欠でありながら、その不定性さがウィークポイントでもあった、視聴者の「あこがれ」という感情。その対象を「アイドルの競技性=明確な『強さ』」に強く結びつけることで、『プリティーリズム』は将来的な③の永続性をも保証した作品である、といっても過言ではないと思います。

事実、同シリーズは2作目の『ディアマイフューチャー』において後輩キャラクターをメインに据え、3作目の『レインボーライブ』では世界観とキャラを一新します。
先行するプリキュアシリーズと同様に、①②③を「型」としたシリーズ展開を開始するのです。

プリキュアより上の、ファッションに興味を持ち始めた視聴者層に訴求することで、俄かに息を吹き返したアイドルアニメ界。しかし大人のファンが中心の業界とは違い、彼女たちは常に入れ替わり新しいものを求めていきます。
そして『プリティーリズム』開始の翌2012年、新しい「アイドル+α」像を提示したシリーズが業界を席巻しました。それは3年間安定していた『プリティーリズム』シリーズにも更なる変化と脱皮を促すこととなります。

ということで、前回「前半」と銘打っておきながら今回は「Bパート」という、タイトル詐欺のような事態になってしまいました。Bパートの後もCパートがまだ少し続きます。
次回Cパートでは(本文の〆では意味ありげに伏せましたが)『アイカツ!』と『プリパラ』、そして『キラッとプリ☆チャン』に至る現況までについて記述します。今しばらくお付き合いください。

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