連載【4】 5歳と1歳の育児中の専業主婦が刺繍教室を始めることになった閃きとは?
1980年代のはじめ、私が新卒入社したのは大手の旅行会社だった。横浜の関内にある支店に配属された私は、少し歩いて元町商店街を歩くのが楽しみだった。当時の元町は個人経営の昔なじみな風情が心地よかったし、Unionで缶目当てでお菓子を買ったりした。欲しいものがあると「あの店のあの辺りに置いてあるはず」と、ほぼ全体を把握していたと思う。
ある日の昼休み、職場の先輩が外国人のボーイフレンドへのクリスマスプレゼントにするのだと制作途中の刺繍を見せてくれた。それは、美しいブルーグレーの雪空に白く浮かぶ教会で、初めて見る世界観に私は一瞬で魅せられた。聞くと元町のあの店で買えるというので、早速その日のうちに足を運んだ。
その店は、どの街にもあるような手芸店だが、当時にしては珍しい輸入物が多く置いてあるところがいかにも元町らしいと思った。初めて見る花糸につい手が伸びて、糸用の箱にびっしり二箱分も購入してしまった。その時の箱は古びてしまったけれど、生涯の私の宝物である。(この記事の表紙画像)
少し話が逸れてしまったので元に戻すと、幼稚園ママが私の刺繍額を見た時と、私が先輩の作品を見た時と、もしかすると同じような感覚だったのかもしれない。布1cmに×が5個も入る細かい目のクロスステッチは、当時はまだまだ新しい文化だったのだ。
明日に続く…
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