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連載【14】刺繍教室クロスマァムのひよこ時代ー学びと出会いとそれから…

 2ヶ月ほど過ぎた頃だろうか、皆少し自信がついた事もあり、作りたい作品のリクエストが寄せられるようになった。その全ては家にある私の作品からだったが、スマホもインスタもない時代である、目の前にあるものに気持ちが向くのは当然のことだった。そして、私も皆が作りたいものを作るのが1番いいと考え、全ての材料をそろえて「はいどうぞ」と手渡した。今思えば中級〜上級者向けのデザインなのだが、その頃の私は何もわかっていなかった。少しコツを教えれば皆すぐにできるだろうと簡単に考えていたのである。しかしそれは大きな間違いだった。
 「初心者さんたち」は思うようにいかず苦戦した。何故なら私は皆が何を解らないのかを分かっていなかった。そして進度の違いや刺繍への関心度など、それぞれの向き合い方にも変化が現れてくると、あの楽しかった刺繍の時間が微妙に歪んできたのである。

 私は本当に何も分かっていなかったのだ。伝えることの難しさを。そして習得度も関心度も習い事に求めているものも、一人一人違うのだということにも、このとき初めて本当の意味で気がついたのかもしれなかった。刺繍の技術とそれを伝えることとは全く別次元のことだったのだ。教えることへの責任を強く感じた私は、程なくプレ刺繍教室を閉じた。リセットしていつか必ず正式にスタートする約束をして。

 当時を振り返って改めて、生徒役として付き合ってくれた幼稚園ママたちには深い感謝を伝えたい。「作りたい」「教えて」「習いたい」と言ってくれる人がいたからこそ私の刺繍人生がスタートした。刺繍の先生になるという閃きも、潜在意識からの目覚めも、求めてくれる人がいなければ沈んだままだったかもしれない。

 以上で【連載】刺繍教室クロスマァムのひよこ時代は終わる。「クロスマァム」という名前もまだ存在しておらず、本当に無名のひよこ時代(もしかして卵?)、1995年の冬の事である。

内堀久美子

 


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