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事業承継対策が苦手な税理士さんのサポート記録➁ ~社長に事業承継の話を切り出す方法~

前回のnoteでは、自社株の承継よりも経営の承継が大切だということをご説明しました。

事業承継対策が苦手な税理士さんのサポート記録① ~経営の承継とは何か~

税理士の田中さんは、顧問先の社長に事業承継の話をする時には、まず株価算定とか贈与税・相続税の話をしていたので、『経営の承継が大切』と言われても、どのように話を切り出していいのかわからないようです。
今回は、経営の承継のディスカッションの前に、まず税理士さんが社長に事業承継の話を切り出すための方法について、ご説明します。

□■□■第2回のコンテンツ■□■□

  • 社長はなぜ事業承継対策の検討をしたくないのか

  • 社長に事業承継対策のスタートを決断させる方法

社長はなぜ事業承継対策の検討をしたくないのか

【解説】
一般的に、多くの社長は、50歳代半ばから60歳くらいになると事業承継対策をしなくてはならないのではないかと、漠然とした不安を感じるようになります。
これには、色々な要因があります。

  • メディアに事業承継対策の情報が溢れていること

  • 体力の衰えや健康状態への不安

  • 事業意欲の減退

  • 思うように会社の業績が伸ばせなくなった

  • 同世代の社長が後継者にバトンタッチした(同世代の社長が亡くなった)

  • 後継者を早く一人前にしたい

このような不安を抱くようになると、多くの社長は、事業承継対策のことを考えなくてはならない時期になったことを、頭ではわかっています。
しかし、それでも、気持ちの上では、事業承継については考えたくないという複雑な心境にあります。

気持ちの上では、事業承継については考えたくないとはどういうことでしょうか。
それは、次のような内容です。

①経営をしていることが一番楽しい
➁社長という肩書がなくなることの不安
③息子は半人前だから、まだまだ安心して会社をまかせられない
④自分が死んだ後のことは、みんなで考えてくれ

それでは、順番に説明しましょう。

①経営をしていることが一番楽しい

これは特に、創業社長には、強く見られる傾向です。
創業社長は自分がやりたいことをやるために会社をスタートさせたのですから、仕事が一番面白いのは当然です。仕事以上に面白い事はないと言ってもいいでしょう。
しかも、自分が興した事業が世の中に受け入れられ、良い反響を生み、さらに会社の収益につながっているという満足感は、他の何ものにも変えがたいものです。

例えば、後継者にバトンタッチをして、悠々自適にゴルフ三昧な暮らしをしたとしても、仕事以上の達成感や喜びを味わう事はできないということです。

2代目以降の経営者の場合には、創業者と全く同様とは言いませんが、業績の良い会社の社長は、創業者と同様な考え方にあると言って良いでしょう。

そんなに楽しい会社という場所を捨てて、ご隠居をすることは、経営者にとっては本当に退屈なことです。
さらに、これまで生活の大半を仕事に費やしてきた社長が、リタイアして家にいると、奥様から大切にされないものです。
世の中のサラリーマンも定年退職をして家にいると、奥さんの邪魔にされることが残念ながら多いといわれていますが(笑)、どんなに経営を成功させた社長でも同様の状況があるのです。

➁社長という肩書がなくなることの不安

社長の肩書きがある間は、取引先、銀行、同業者など、多くの人と関わり、関係者から尊敬されるものです。
また、商工会議所、同業社の組合の理事長といった名誉あるポジションにある方もいます。
そのような立場にある方は、特に多くの関係者の皆様から尊敬されます。
平たく言うと、ちやほやされる機会がとても多いということです。

しかし、会社を辞めて肩書がなくなってしまうと、仕事の関係者だけでなく、場合によっては、これまで愛想よくしてくれた飲み屋さんに行っても、社長であった時よりは、ちやほやしてもらえないこともあります。

すべてのケースでそうなるかどうかは分かりませんが、多くの社長は、そうなってしまうかもしれないと不安を抱いているのは事実です。

私の経験した事例ですが、後継者にバトンタッチして代表権のない会長に就任した経営者の場合、後継者の就任と同時に、取引先や銀行は後継者とだけ面談するようになり、代表権のない会長には、実際のビジネスの話をする事はなくなりました。
たまに会う機会があったとしても、年末年始の表敬訪問程度になってしまったということです。

もちろん、組織のあり方からすれば、取引先や銀行の対応は当然です。
経営者としても、このようになってしまうことは、あらかじめ予想はしつつも、寂しく感じるのです。
私は、そのような経営者に、何人もお会いしました。

③息子は半人前だから、まだまだ安心して会社をまかせられない

事業承継の準備をしなくてはいけない年齢になった社長は、このようなコメントをされる方が多いものです。
このコメントをされる社長は、2つに分類されます。

A.客観的に判断して、息子が半人前だと思っているケース
B.自分がリタイヤしたくないための言い訳であるケース

A.のように本当に息子の力不足と考えている場合には、後継者を計画的に育成しなくてはなりません。しかし、半人前と言いながら後継者育成をしないことは矛盾しています。
つまり、B.のようなケースが多いと考えられます。
これは、経営者としては、会社の将来に対する準備を怠っているという点で問題があるのですが、社長は、自分が経営したいという気持ちが優先してしまうものなのです。

④自分が死んだ後のことは、みんなで考えくれ

これも創業社長に多いケースです。

このように言われてしまうと、言われた方は、何もできなくなってしまいます。社長のお気持ちは理解できますが、これは、会社の存続を考えると、無責任な発言と言うしかありません。

社長に事業承継対策のスタートを決断させる方法

◆事業承継対策をしなかったらどうなるかということを説明する

これまで、ご説明をしてきた『事業承継対策の検討をしたくない』という社長のお気持ちは理解しつつも、事業承継対策をしないことが会社にとってマイナスであるということを、社長によく理解していただき、事業承継対策のスタートを決断していただくことが重要です。

それでは、事業承継対策をしなかった場合の問題点を説明します。
これを社長に説明して、事業承継対策のスタートを決断していただきましょう。

【事業承継対策をしなかった場合の問題点】

1.会社を託したいと考えている後継者にバトンタッチできない
2.後継者を育成することができない
3.株主構成や取締役会など後継者のための経営体制を整えることができない
4.自社株を渡す方法を検討できず、贈与・相続税などの負担が会社の資金繰  
 に影響を与える可能性がある
5.社長交代について、社内外の理解を得ることができない
6.自社株を含めた個人財産の承継対策ができない

いかがでしょうか。
これらのことを、ご説明して「事業承継対策の検討をしなければ大変だ!」と社長に感じていただくことが大切です。

会社を託したいと考えている後継者にバトンタッチできない

後継者候補は一人とは限りません。例えば、社長の息子が2人入社している場合、長男が後継者になるのが順当ですが、社長は次男を後継者にしたいと考えている場合もあります。
しかし、後継者候補として、次男を指名していない状況で、社長が突然亡くなった場合に、長男と次男の話し合いで、次男が社長になることは、一般的には難しいでしょう。

後継者を育成することができない

前回もご説明しましたが、事業承継で大切なことは、自社株を渡すことよりも、会社を担うことができる後継者を育成することです。
後継者が、一人前になるためには、社長から直接指導を受けることだけではなく、後継者の自覚をもって仕事をすることが必要で、これには一定期間、後継者候補として修業をすることが必要です。
何の準備もなく、社長に就任することになった後継者は、苦難の道を歩むことになり、これは後継者個人の問題のみならず、会社や社員にとっても不幸なことと言わざるを得ません。

株主構成や取締役会など後継者のための経営体制を整えることができない

後継者がスムーズに経営するためには、会社の意思決定をする取締役会や株主総会の運営において、できるだけ後継者の意思を反映しやすい体制にしておくことが大切です。
そのためには、できれば後継者が支配権を確保できるように株主構成を整え、また、後継者とともに会社の経営を担う、次世代の取締役を選定・育成する必要があります。
これは、事業承継の際に、完了しておかなければならず、後継者にバトンタッチしてから、経営体制を整えることは簡単ではありません。

自社株を渡す方法を検討できず、贈与・相続税などの負担が会社の資金繰に影響を与える可能性がある

自社株の評価額が高い場合、後継者には、自社株を取得する際の税金(贈与税・相続税)や買い取り資金等の負担が発生します。
事業承継対策をせずに、社長が突然亡くなった場合に、経営経験のない後継者が、資金捻出の検討をすることは簡単ではありません。
さらに、個人で相続税の納税資金を捻出できなければ、金庫株や融資等で会社が関節的に資金を負担することになるため、会社の資金繰に影響を与えることがあります。

社長交代について、社内外の理解を得ることができない

中小企業の場合、取引先や銀行は、社長の顔で取引が成り立っていることがあるものです。
したがって、取引先や銀行は、後継者の品定めを行うのが一般的です。
なぜなら、取引先からみれば、商取引の代金が支払いがきちんと行われること、また銀行からみれば、借入がきちんと返済されるかということが、最も重要で、中小企業の場合、これらのことは社長の手腕によることが大きいからです。
社長がリタイアする前に、後継者を取引先や銀行に認知させ、信頼関係を構築する期間が必要だということです。

自社株を含めた個人財産の承継対策ができない

中小企業の社長の財産における自社株のウエイトは高く、後継者が自社株を取得した場合、後継者以外の親族に、法定相続分での遺産分割は難しいものです。
社長が生前に、相続人に対して、このことを説明して理解を得ておけばよいのですが、それを怠った場合には、相続人の争いになる場合もあります。
これは、税理士さんはよくご存知の『争族』です。

いかがでしたでしょうか。私は、このような説明で、多くの社長に事業承継対策のスタートを決断していただきました。
親族が説明するよりも、第三者である私が説明したことで、社長が冷静な気持ちで判断できるということもあると思います。





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