5/9夏休みの思い出
田舎のじいちゃんちに帰って川で遊んでいる時にふと現れて一緒に遊んでくれる茶髪のお姉さん。名前は知らない。でも田舎に帰るとそこにいて、歌を歌っている。ぼくがくると一緒になって魚を釣ってくれるし河原の石で遊んでくれるんだ。少し大人びていて、それでもってどこかしら幼い、でも何か不安を抱えてそうな、そんなお姉さんだった。
時は経ち、ぼくは高校生になった。部活に精を出していたぼくだったが、受験とともに引退し、今年の夏休みは久々に田舎に帰る。あの頃のことをふと思い出し川遊びに耽ることにした。今年もお姉さんはいるのだろうか、そんなことを想いながら少年の気持ちに戻って川で魚を取って全力で遊ぶことにしよう。何時間遊んだだろうか。やっぱりもうお姉さんはいないのかな、彼女は現れることはなかった。
郷愁に駆られながら、河辺を下る。今日は勉強をせずに遊んでいた、そんな罪悪感はあったが息抜きも大事だ。久しぶりに入った川は夏なのにそれを感じさせないほどで、非常に良い休息になった。でも部活やめて体力無くなってきたな、日頃の疲れに今日の疲れが相まってとても眠い。脚も重くなってきた。今にも眠ってしまいそうだ。そんな事を考えながら歩いていたが、ついには家の姿はぼくには映らなかった。
「起きて。」少し低い女性の声が聞こえる。誰だろう、母親でも姉でもない。瞼は思いが少しずつ目を開ける。そこにいたのはあの時のお姉さんだった。その事実に感動する暇もなく、ぼくの目が開いたのを確認するとお姉さんは口を開く。「お腹、空いてるの?」お姉さんはそう告げると服の中からなにか取り出す。食べ物かな?そう思って受け取ると、そこから出てきたのは喫茶店のカード。「私、ここで働いてるんだ。来なよ。」そういって案内されたのは大人の雰囲気の漂うお店ではなく、ファンシーグッズのならぶ、可愛らしいお店だった。
「モーニングセット、飲み物はコーヒーでいいかな、それともオレンジジュースが良い?」「コーヒーでお願いします。」本当はブラックコーヒーなんて飲んだことないが、少し見栄を張ってコーヒーにすることにした。やはり少し苦い。でもせっかく淹れてもらったものだ。残すわけにはいかない。少しずつ飲みながら、談笑することにした。
「どうして助けてくれたんですか。」
「倒れてたから。ほっとけなくて。」
僕のことをおぼえてくれていたからってわけじゃないのか。少し気を落としたが会話は続く。他愛もない雑談の中、ぼくは店内に流れる音楽が耳に止まり、ふと
「音楽、いいですね」
と発してしまった。
ぼくは音楽は全く知らない。でもなにかかっこよく、そしてその中に見える可憐さに惹かれ、つい言ってしまった。
「…」
お姉さんは黙ってしまった。気に障ることでも言ったかな、そう思ったが、表情は不機嫌そうではない。むしろ微笑みがあった。
コーヒーも飲み終わったのでお姉さんに礼をし、お店を後にした。またお姉さんの名前、聞けなかったな、そう思ったがもう一度このお店に来ればまた出会えるのだ。もらったカードにはちゃんと住所も書いてある。また来よう。
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