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GTMの落とし穴:効果的なマーケティングには深いコンテキスト理解が必須

こんにちは、Ron@CrossBayです。シリコンバレーで日本のスタートアップのUS Go-To-Market(GTM)支援をやってます。
日本のスタートアップがUS進出に失敗するケースは良くありますが、原因を少しずつ解説して行きます。今回はマーケティング領域、特にメッセージングの話です。


コンテキストとは

市場が変わるとコンテキストが変わるのでマーケティングは柔軟に対応しないといけません。コンテキストは文脈や背景という意味ですが、ここでは実際の商材やマーケメッセージである「コンテンツ」を取り巻く周辺環境・文脈という意味で使います。消費者の意思決定は企業からのコミュニケーションに触れたタイミングで行われるのではなく、消費者の人格形成に至った歴史や広告に触れる前に見ていた記事の内容など、大小様々なインプットがあった上で行われるものです。自分のコンテンツをターゲットに刺すためにはコンテキストを深く理解する必要があり、そこはマーケターの腕の見せ所なのです。

「文化祭」ではなく「Cheersのバー」

私は前職ではソーシャルライブストリーミングサービスPocochaのUSマーケティングもやっていました。Pocochaのライブ配信枠を日本だと「ライバー・リスナー皆で作り上げる文化祭のようなもの」と説明します。参加者が一丸となって一つのことに向かうことで絆が深まる様子が「文化祭」という一言で伝わりますよね。日本の学校にほとんど通ったことがない私でさえも「文化祭」のニュアンス、淡い青春感は伝わります。しかし海外のユーザーには同様の共通体験が存在しないので「School Festival」と言っても伝わらないのです。

ではUSだとどう伝えたのか?私はライブ配信枠は80年代のシットコム「Cheers」のバーみたいなものと説明します。「Friendsのカフェ」でも良いのですが、少しニュアンスが異なってきます。Cheersはボストンにあるバーで、バーテンを中心に様々な職業の常連客が日々集まり、取り留めもない話をするという設定です。40代以上のアメリカ人にとってはブラウン管のテレビで見ていた懐かしさや疲れた時に横になってぼーっと見ていた癒される感覚を想起させます。「Pocochaは『Cheers』のバーだ」という比喩はバーテン(=ライバー)と常連客(=リスナー)が毎日集って雑談するという形式だけでなく、想起される感情も類似しているのです。サービスや価値を理解してもらう取っ掛かりとして、ユーザーの得られる感情まで伝えられるのはコンテキストの深い理解があるからです。

言語力と語学力は違う

新市場進出の典型的な失敗は、メッセージングが「School Festival」になっているパターンです。日本で面白いように刺さるメッセージが市場が異なると全く伝わらなく、どんなに素晴らしいプロダクトであっても響かないことはよくあります。

日本からUS進出する際に語学力の壁に目が行き、通訳を雇うという解決策を取りがちです。でもそこには「日本の成功を正確に訳すれば市場に伝わるはず・成功するはず」という潜在的な思い込みがあるのではないでしょうか?市場に価値を正しく伝えるために必要なのは「語学力」ではなく、コンテキストを理解した上での「言語力」なのです。

日本の優秀なマーケターが完璧な通訳と組んでGTMに臨んでも「文化祭」を「School Festival」と訳してしまいます。逆にUSでローカルの優秀なマーケターや代理店を使うと「文化祭」が伝わらないので「Cheersのバー」に行き着かないのです。

コンテキスト理解は先回りできない

USはアホみたいに広いですし、人種・宗教・政治的思想・価値観・生活水準・学歴など多種多様な人がいます。私はUSに31年住んでますが、見えている部分は本当に氷山の一角ですし、自分の知っているUSはかなりバイアスがかかっています。市場内の多様性がすごくあるので、私のように基礎的なコンテキストを理解している人がいれば成功できるという短略的なものでは残念ながらありません

プロダクトのターゲットにはそのセグメント特有のコンテキストがあります。そしてプロダクトの価値を感じてくれる人たちが日本の客層に類似していることもあれば、全く異なる属性を持つこともあるのです。価値を感じてくれる顧客像も市場との対話の中で段々と見えてくるものなので、最初からターゲットセグメントのことを深く理解している人を用意することはできないのです。

コンテキスト解像度を高めるには

ではどうするべきなのか。必要な要素は3つあります。

1. 基礎コンテキストの理解

ターゲットセグメントにドンピシャな人を見つけることはなかなか難しいですが、できるだけ近しい人の支援は必須です。アメリカのスタートアップが日本進出する際に、日本の商文化を理解していない、日本語を話せない人、業界を理解していない人たちだけでは成功できるはずがないですよね。少なくとも土地勘のある案内人は必要です。

2. プロダクト価値の理解

現地でコンテキスト解像度を高める役割の人はプロダクトが提供する価値を深く理解する必要があります。スタートアップの世界では「Eat your own dog food」という言葉があります。ドッグフードを売るならまずは自分で食べなさい、つまりまずは自らユーザーとして価値を実感しなさい、ということです。私は転職してからPocochaを使い、課金し、コアユーザーの行動を模して初めてサービスの価値を実感できました。それでやっと「文化祭」がしっくりきたのです。

3. 一次情報を集め試行錯誤する

基礎コンテキストが理解でき、「文化祭」がしっくりきて初めて市場と直接話ができます。その際にターゲットだけではなく、パートナー、業界人、競合、投資家など、周辺の関係者に広げて対話することでより多角的にコンテキストを把握することができます。そしてプロダクトの価値を伝え、反応を見て、メッセージを精査し続けることで、刺さる伝え方が見えてくるのです。ユーザーが感じている価値、ライバーが意識していること、代理店から見た競合比較、投資家のサービスへの困惑、そういった一次情報を総合して初めて「Cheersのバー」という伝え方に行き着くわけです。

今回はマーケティングの中でもメッセージングに着目してみました。B2Cよりの話にはなりましたが、B2Bでも本質的には同じです。刺さるマーケティングメッセージは伝えたいターゲットによって変えていかないといけないのです。それはコンテキストが異なるからであり、コンテキストは一朝一夕で理解できるものではありません。市場と対話し、仮説をぶつけ続けることで解像度が高まっていくものなのです。

現場で仮説検証サイクルをグルグル回すところから支援するので、US進出を検討しているスタートアップはウェブサイトからお問い合わせください!


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