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永木 公(ながき きみや)
2022年4月18日 11:38
ある年の八月、東京は神保町の飯田橋駅前にさあっと一筋の風が吹き、軍服姿の青年が現れた。青白い顔で、目は血走り、日の丸に「報國」と書かれたはちまきを飛行帽の上に巻いている。あどけなさが残る青年にはあまりにもミスマッチな格好だった。時勢にまったくそぐわない、なんとも異様な格好だが、周囲の人々は彼を気にかける様子もない。青年は驚いたように大きく目を見開いたあと、不思議そうな顔をしながら、ゆっくりと人の