キリンキャラの語尾ってどうすればいいと思いますか?
序論 動物キャラの語尾について
犬のキャラがいて「〜だワン!」と喋っているのを、ヒューマンの皆さんはよく見かけるだろう。猫なら「〜だニャン!」だ。「〜だにゃん!」とひらがなにすると可愛らしさが増す。ネフェルピトーからヤニネコにいたるまで津々浦々こんな感じだ。
……では、キリンは?
キリンは? ねえキリンは? キリンさんは喋ったらどんな語尾になるの? みんなの人気者のキリンさんは!? キリンは!? 語尾!! キリンの!!! キリンの喋った時の語尾!!!!!!
本論 動物キャラの語尾の類型と限界
本章では、動物が擬人化した際の語尾について類型を示してみよう。そして、キリンキャラの語尾の可能性、いくつかの候補について考えてみよう。
まずこのことについては先行研究がある。松樟太郎さんがウェブサイト「みんなのミシマガジン」で連載している「語尾砂漠」というコラムがある。
その連載の一つ「イカ語尾という発明」で、イカ娘への言及の中で動物系語尾の類型を試みている。
大きく分けると、「鳴き声系」と「名前系」とがあり、後者はやや問題でありつつもいくつかのパターンがあることが触れられる。本稿でもこの分類を参考にしつつ、キリンに当てはめながら考究を進める。
1-1 鳴き声が語尾になる例とキリンへの援用可能性
冒頭の犬や猫がそうだ。わかりやすい。ワン、ニャンが語尾になる。ヒヨコや鳥なんかもそうだろう。あと牛もこのパターンで、語尾がモーになる。
さてキリンさんはこれが可能だろうか。結論的に述べるとかなり難しい。
まず、キリンの鳴き声ってわかるだろうか? わかる人もいらっしゃると思う。ところが、キリンの鳴き声って、例えば子供が直感的にわかるものまでには至っていないのではなかろうか。実はキリンは鳴き声があまり知られておらず、わかりやすい語尾として成立させにくいと言う問題を孕んでいるのである。
しかもです。キリンさんの鳴き声なんですが……「モー」なんです。偶蹄類繋がりなのか、牛とそっくりなんです。相手が牛。厳しいって。
キリン「ボクはタンザニアに住んでるキリンだモー。よろしくモー」
これはおかしい。キリンが牛の真似をしているように見えるし、矛盾塊(殺伐としたスレに〇〇が)みたいな冗談のようにも聞こえてしまう。
このように、キリンの鳴き声の認知度、鳴き声が牛に似過ぎていることから、鳴き声を語尾に用いることは極めて困難であると言わざるをいえないだろう。
1-2 名前を語尾にする例とキリンへの援用可能性
若干おかしいのだが、世の中にはその動物名が語尾になるやつがいる。代表的? なのがワニだ。「こんにちワニ!」「それってとっても素敵だワニ!」みたいな。結構無茶苦茶なんだが、結構人口に膾炙している印象もある。
さてキリンではこれは可能だろうか。「こんにちわキリン!」「それってとっても素敵だキリン!」
どうだろうか。あなたは現代社会の一個人としてこれを許せるか。私は許せない。日本語話者として違和感がある。英語にしても同断だ。「こんにちわジラフ!」「それってとっても素敵だジラフ!」若干、いや、かなりおかしい。
折衷案? として語尾を「リン」にするのはアリな気がする。「これを食べるリン!」「キリンは首も長いけど意外と足も長いリン!」みたいな。これなら良い。
本論2 そもそも語尾に頼るな
そもそも語尾を変えることでキャラを出す安直さがよくない。
2-1 桃太郎
この有名な日本の物語において、イヌやサルやキジは語尾でキャラ作りしてたか? ちげーだろ。キビダンゴをもらう際のリアクションの均質さは物語をリズミカルにし、鬼ヶ島攻略選にてそれぞれの特長を活かした戦術を見せた。ここに彼らの「キャラ」がある。語尾でキャラをつけようとする安直さは微塵もなかった。
2-2 さるかに合戦
この物語の主人公側のラインナップは若干おかしい。復讐に燃えるカニ。この時点で若干怪しいのだが、味方がクリ・ハチ・牛糞・臼だ。擬人化の極北かつ、お手本のような面白さだ。当時twitterあったらバズってたはず。ハチも出てくるし。そんな連中は、語尾に全く頼らない。それぞれのキャラクターを生かして敵役のサルを誅殺する。
2-3 おむすびころりん(ねずみ浄土)
不思議の国のアリスでは、異界へと少女を誘ったのは白ウサギだった。ひるがえって本邦では、じーさんが落としたおむすびを追いかけ異世界転生する。
おむすびは一切しゃべらない。
無言を貫く。そしてねずみたちの世界へとじーさんを誘う。自分の役割がどんなものか、はっきりわかっている振る舞いだ。「大変だおにぎり〜〜!」「穴に落ちるおにぎり〜〜!!」みたいな雑な味付けがない。完全に鰹節や梅干が中に入ったタイプのおにぎりとしての振る舞いだ。
2-4 小結
このように、時の洗練を経た擬人化キャラは、安直な語尾によるキャラ付けを一切退けている。
まとめ
以上の事柄をまとめると、次のような結論を見いだせるだろう。
キリンはその構造から語尾でキャラ付けを行うのが極めて困難な生物と考えられる。一方で、そうした安直なキャラ付けは、古来からの擬人化の超先輩たち、擬人化の兄貴たちには見られない現象であることも論じた。
このことから、キリンは物語の中でしっかりとキリンらしさや、あるいはキリンらしさから得たギャップなどでキャラ付けするべきと筆者は考える。そして、読者をワクワクさせたり、物語の駆動を担う存在として活躍することがキリンがキリンとして役割を果たすために大切なのだろう。
キリンには今後も首が長いことなどを理由にぜひ頑張りを続けてほしいと思っている。