感染対策 P282

A 感染予防策と感染防御
1 感染予防策の変遷

・1980年代に医療従事者のB型肝炎ウイルス感染による、劇症肝炎の死亡が多発
■よって、消防庁の通知によりB型肝炎ワクチンの接種や感染防止などの教育に努めることが示された

2 標準予防策(スタンダードプリコーション)
・標準予防策
①疫学的に根拠があること
②感染症にかかわらず,汗を除く唾液・鼻汁 ・喀痰 ・尿・便・腹 水・胸水などすべての湿性体液には感染性があるものとして取り扱うこと
③空気・飛沫・接触伝播による感染 予防策を含んでいること
④単純で実施しやすいこと
⑤経済的であることに重点を置いて定められている
3 感染経路の種類と代表的な感染症および予防策

感染経路別予防策,「接触感染予防策」「飛沫感染予防策」「空気感染予防策」からなり,標準予防策と併せて実施する感染予防策

①接触感染

・感染源に接触することで成立する経路

・直接接触感染と間接接触感染がある

・直接接触感染:観察・処置中に病原微生物に汚染された皮膚や粘膜または体液などに直接触れて感染

・間接接触感染:病原微生物が付着した手袋や資器材,救急自動車のハンドルやドアノブなどを介して間接的に感染

※医療関連感染の経路でもっとも頻度が高い

②飛沫感染

・咳,くしゃみ,会話などに際して飛び散る飛沫(痰,鼻汁,唾液のしぶき)に含まれる病原微生物が,他人の口や鼻の粘膜,結膜などに触れて成立する経路

・飛沫は毎秒30〜80cmの速さで落下し,感染するのは通常1〜2m以内

飛沫と飛沫核の違い

出典:へるす出版 救急救命士標準テキスト 改訂第10版
https://www.herusu-shuppan.co.jp/997-2/

③空気感染

・飛沫の水分が蒸発し,径5μm以下の軽い粒子となったもの(飛沫核)を吸入して感染

・飛沫核は小さいため,末梢気道まで到達する

・長時間空気中に浮遊する

・塵埃感染:空気中の塵に付着した病原体の粘膜への付着や吸入によって感染する経路

④経口感染

・病原微生物で汚染された食品や水を摂取して感染する経路

・A型肝炎をはじめ,多くの食中毒や腸管感染症がこの経路で伝播する

⑤節足動物媒介感染

・蚊,ハエ,ダニなどの節足動物による刺し咬や機械的な接触で成立

・ヒトかヒトへ直接感染することはない

感染経路と代表的な感染症および個人防護具

出典:へるす出版 救急救命士標準テキスト 改訂第10版
https://www.herusu-shuppan.co.jp/997-2/

B 救急活動での感染防御
1 手指衛生

手指衛生:感染予防策でもっとも基本となる手技

手洗いの手順

出典:へるす出版 救急救命士標準テキスト 改訂第10版
https://www.herusu-shuppan.co.jp/997-2/

・一傷病者ごとの手袋交換と手指衛生の実施を原則

・エタノールを含有する速乾性手指消毒剤:効果的で手荒れの問題が少なく,医療従事者による手指消毒の遵守を高めやすい手洗い方法

・手指衛生は次の状況で行う:■傷病者への接触前後 ,■手袋の装着前後,■血液や体液などに曝露した可能性のある作業の後,■傷病者周辺の物品に触れた後,■傷病者を医師に引き継いだ後,■車両や資器材を整備した後

①手指の汚染が認められない場合

・速乾性手指消毒剤による手指消毒を第一選択

・速乾性手指消毒剤を手に取り,「手掌」「爪・指先」「手背」「指の間」「第1指」「手首」に消毒薬が乾くまで十分に擦り込む。速乾性手指消毒剤による手指消毒に代えて,流水と石けんで手洗いを行ってもよい

②指に汚染が認められる場合(血液・体液等に直接触れた場合など)

①指輪や時計を外す ②流水で手指の表面を洗い流す ③液体石けん(市販のものでよい)をつける ④15秒以上かけて「手掌」「爪・指先」「手背」「指の間」 「第1指」「手首」を洗う ⑤流水で石けんを洗い流す ⑥ペーパータオルや手指乾燥器で乾燥させる。共有の タオルは使用しない ⑦水道の蛇口は手を拭いたペーパータオルで閉める ⑧手洗い後,手が乾燥した状態で,エタノール含有の 速乾性手指消毒薬を手に取り消毒剤が乾くまで十分 に擦り込む
引用:へるす出版 救急救命士標準テキスト 改訂第10版
https://www.herusu-shuppan.co.jp/997-2/


2 感染防止用個人防護具

・PPE:医療従事者が身に付ける資器材を個人防護具

・救急現場活動で傷病者の血液や湿性生体物質から救急隊員を守るために,個人防護具の着用を徹底:手袋,マスク,感染防止衣,ゴーグル,シューズカバーなど

①手袋

・手袋は以下の状況で着脱,交換する
■着用:活動開始前,車内にて着用
■交換:血液・体液などで汚染した,または血液・体液などに触れる可能性のある処置を行った後

・手袋着脱時の注意点

①自分の手にフィットするサイズを選ぶ ②長時間着用して手に汗をかいた場合は交換する ③傷病者間の交差感染を防止するために,傷病者ごと に手袋の交換と手指衛生を行う ④交通事故などで傷病者を救出するときには,手の損 傷を防ぐため手袋を二重にするか,皮やケブラーⓇ 製の手袋を着用する ⑤汚染された手袋をしたまま,ドアノブなどには触れ ない。触れた場合は,搬送終了後,拭き取り消毒す る ⑥手袋を外すときは,汚染の可能性がある外側に触れ ないように手袋の表裏を逆にし,汚染面を内側に巻 き込んで外す(写真Ⅲ-1-10) ⑦使用後の手袋は,感染性廃棄物専用容器に廃棄し, 手指衛生する
引用:へるす出版 救急救命士標準テキスト 改訂第10版
https://www.herusu-shuppan.co.jp/997-2/

手袋の外し方の手順

出典:へるす出版 救急救命士標準テキスト 改訂第10版
https://www.herusu-shuppan.co.jp/997-2/

②マスク

・マスクの種類にはサージカルマスクとN95マスクがある

・出血や嘔吐,吐血(喀血)が認められた場合などに着用

・不織布製のディスポーザブル(使い捨て)

装着手順

出典:へるす出版 救急救命士標準テキスト 改訂第10版
https://www.herusu-shuppan.co.jp/997-2/

N95
・0.3の粒子を95%以上遮断できる
・空気感染を引き起こす結核・水痘・麻疹が疑われる傷病者に対して着用
※マスクを長時間使用すると湿気を含みフィルター性を損なうので、適宜交換
・あらかじめフィットテストを行る

装着手順

出典:へるす出版 救急救命士標準テキスト 改訂第10版
https://www.herusu-shuppan.co.jp/997-2/

③感染防止衣

・感染防止衣は吐血や喀血,嘔吐,出血を伴う外傷傷病者など血液や体液が飛散するような場合に着用する

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