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ムダ毛 【ショートショート】
「まるで俺らは雑草だな」
アゴヒゲの声には覇気がない。
「それはどういうことだい?」
その声にウデゲが訝し気な反応を示す。
アゴヒゲとウデゲの所在地は離れているのだがお互い人体の皮膚下で繋がっているから声は届く。
「俺らは生えてきては人間に刈り取られる毎日だろう?そういうところが雑草くさいんだよ。」
「だからって雑草とか言うなよ…。一応俺らにも存在意義ってもんがあるはずだぜ。」
ウデゲは悲観的なアゴヒゲとは対照的に明るい。
「存在意義?んなもんあるわけねえだろうよ。最近のテレビCMとか電車内の紙広告を見てないのか?観察力のないやつだぜ。」
「人間が厚着をしてなければ一応視界には入っているさ。」
「いいか、人間は俺たちムダ毛を刈り取るために皮膚にレーザーを当てて毛根もろとも俺らを死滅させようとしているんだ。
これほど俺たちの存在を否定する行為はない。」
アゴヒゲの発言はかなり食い気味で断定的ではあるものの、自分の発言への反論をウデゲに求めているようにも聞こえた。
「知ってるさそんなこと。俺もバカじゃない。
昔は俺たちの居場所がたくさんあってよかったよな。それこそ2000年前とかは今よりもたくさん仲間がいたさ。ムダ毛が繁茂していた時代が懐かしい。」
「だけど今は違う。」
アゴヒゲはウデゲの発言を遮るように入ってくる。
「違うけどなにかしら俺らの存在意義がまだ残っているはずだ。じゃなきゃ死滅しない俺らは生物学的におかしい。必要のないものは淘汰される、ダーウィンに言わせればそうだろ?」
「笑わせるな」
アゴヒゲは自嘲気味に口角を上げる。
「いいや!来るはずだ。現代人には必要とされなくともその先の未来、ムダ毛がファッションとして流行るか実用的になるかで必要とされる日がきっと来る。」
ウデゲの声は冷静でありながらそのなかに一本筋の通った強さを感じる。
「ありえないね、今の時代が俺らの最後かもしれない。平成から令和にかけて俺らの生物的淘汰は着々と進んでいると考えた方が俺は納得がいくね。」
アゴヒゲの考えは一貫して悲観的だ。