専門看護師を目指して
「専門看護師ってコスパ悪く無いですか?」
何年も前、まだ認定看護師を目指してもいなかった頃、
院内のメンズナースの歓迎会で、私は酔っ払いながら
何十年も先輩の専門看護師さんに質問していました。
今から考えれば、とんでもなく失礼な質問です。
でも実際、専門看護師になるためには仕事を辞めて(または休んで)大学院に2年間通う必要があります。
看護師の年収が約500万円ほどあるとして、それを2年間放棄する。
つまり、1000万円ほど生涯年収が減ることになります。
そんなに苦労して専門看護師を取ったとしても、正直言って年収はほとんど上がりません。
2019年の日本看護協会の調査では、専門看護師として手当の支給があるのは全体の2〜3割程度、しかも月額1万円程度です。
ほとんどの病院では、専門看護師だからといって特別な手当や昇給は無いのが現状です。
仮に手当が出たとしても、1000万円を手当で取り返すには、80年以上かかってしまいます。
では、なぜそんな質問をしていた私が、今では大学院に通い、苦労しながら専門看護師を目指しているのか。
いくつか理由はありますが、認定看護師を取得して、見える世界が変わったということが大きな理由だと思います。
当時は病院が研修費用や研修期間(半年)の基本給を出してくれるというコスパの良さに惹かれて、数年前の私は認定看護師養成課程の門を叩きました。
救急看護認定看護師の学校は、当時は全国に2校しかなく、北海道から沖縄まで全国から研修生が集まってきていました。
新卒から大学病院の救命救急センターに配属され働いてきた「井の中の蛙」の私は大変なカルチャーショックを経験しました。
毎日朝から遅くまで授業があり、課題に追われる毎日。
学校までの片道2時間以上の通学。
そして看護学生時代をはるかに超える過酷な実習。
それでも、今振り返れば仲間と楽しく過ごした、いい思い出ばかりです。
そんなこんなで無事学校を卒業し、認定看護師の試験にも合格し、
私は救急看護認定看護師になりました。
でも、認定看護師の資格を取ったところで、思い描く認定看護師になれるわけではありませんでした。
学校にいる間は今まで知らなかった知識、技術、様々なことを勉強します。病院に戻ったら患者さんのために自分の思い描く素晴らしい看護を提供したい。私が学んだことを周りのスタッフにも伝えて、病棟の看護の質を向上させたい。病棟の仕組みを変えて、みんなの働きやすい職場に変えていきたい。
認定看護師の養成課程での「学び」は素晴らしい経験でした。
でも、半年間研修を受けただけで、人はそんな簡単に変わるものではありません。
周囲を巻き込んで変化を起こせる力なんてそう簡単に得られない。
資格を取得してからの1年は、「認定看護師としての理想の私」と「現実の私」の間にとても悩みました。自分自身の力不足を痛感しました。
それでも、もがき続ける中で、少しづつ希望も見えてきました。
「認定看護師」として院内の研修を任されたり、
RRSやRSTの活動を通して、他の病棟の人にも認識してもらえたり、
雑誌に活動を取り上げてもらえたり、
学会での仕事を任せてもらえる機会も徐々に増えてきました。
任せてもらった仕事はなるべく断らず、一つ一つを一生懸命取り組む。
一人一人の患者さんにより良いケアを考えて実践する。
その結果、仕事を評価してもらえる機会も多くなってきました。
その一方で、自分の理想とする「看護師」になるために足りない部分も多く感じるようになってきました。
生命を左右する重大な意思決定を迫られ、苦悩する患者や家族。
救急外来で子供が亡くなった家族。
ICUを退室後も身体・精神症状に悩まされる患者。
現状のまま認定看護師として活動しているだけでは解決できない問題にぶち当たる機会にも遭遇してきました。
COVID-19のパンデミックも自分自身の人生設計について改めて考えるきっかけになったと思います。
その結果、私は専門看護師の世界に飛び込んでみる決意をしました。
専門看護師になってどうするのか、何がしたいのか、自分の理想に近づくことができるのか。
大学院の受験のこと、お金のこと、家庭のこと、仕事のこと、いろいろ迷いや不安はありましたが、このまま迷って「あの時大学院に行けばよかった」と何十年も後悔して働き続けるよりも、「結果的に無駄な時間とお金だったかな〜」と後悔して働いていく方が、何倍もマシだと考えたからです。
だからもし今、少しでも興味があって認定看護師や専門看護師の受験を迷っている方がこのnoteを読んでいたとしたら、ぜひ挑戦してみてほしいと思います。
お金や仕事など、挑戦しない言い訳は色々浮かんできますが、大抵のことは何とかなります。大学院は大変ですが、今のところ後悔もしていません。進学して良かったと心から感じています。
最初にお話ししたメンズナースの歓迎会ですが、先輩の専門看護師はとても優しい方だったので、私の失礼な質問も笑って聞いていてくれていました。
もし今の私が後輩に同じ質問をされたら、なんて答えるだろうかと時々考えます。
その答えを見つけるためにも、毎日勉強に励んでいます。