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土星のあるハウス/山羊座カスプのハウス
占星術を学んできた中で、個人的にこれはなるべく若いうちから意味を知っておきたかったと思ったことについて1ハウスの記事の中で触れたのですが、今回はその一つである土星/山羊座が位置しているハウスについて書いていこうと思います。
なるべく若いうちから知っておきたかったという点では、土星/山羊座のハウスの場合は特にその意味が強いです。なぜなら、そのハウスに関することは「時間がかかる」からです。そして、ノー・ショートカット。近道がないからです。それだけではなく、「遅延」があったりします。「抑圧」「制限」「ハードル」があってスムーズに進みません。そして時には「罰を受ける」ようなことや「やり直し」があります。これらは全て土星のキーワードです。
遅延=delayというのは、牡牛座の意味するようなslowとは違い、自分がのんびりしていたり腰が重かったりというのではなく、電車が遅れるような不可抗力による、あるいはコロナ禍の待機のような、自分以外の者(とりわけ、権力などパワーを持った者)による制限やコントロールを受けた遅れのイメージです。むしろ、自分は「のんびり」とは逆のスタンスでシリアスに見ているので、土星や山羊座が位置する(=土星エネルギーのある)ハウスに関する事柄には貪欲で、かなり若い頃から手をつけていることが多いのです。
✴︎ 足りてなさがもたらす野心
それは焦燥感とかハングリー精神にも似ています。なぜ土星エネルギーのハウスにそういった思いがあるかというと、そのハウスの意味する事柄において「足りてない」という気持ちからスタートしているからです。例えば、パイプラインが止まったことを想像してみた時、木星がイメージするのは浴槽に水が満タンに貯められている状態です。一方、土星の場合は水が半分もありません。その中でやっていくのは必然的に制限や責任を伴い、「なくなったらどうしよう」という不安や恐怖心をもたらします。
足りてない、欠けているという思いを満たすような達成、成功を手にするには、既存の社会システムや価値観に沿ったやり方で地位やステータスを得ていくのが確実です。社会と違うやり方をして危険を犯して、バケツ半分の水さえなくなってしまったら困るからです。そうした思いが土星/山羊座の堅実さや我慢強さと繋がっています。そして、この社会がそう作られているように、家父長制や男性社会、社会階級なども土星が示すキーワードになります(土星は太陽と同じく「父親」のことも示します)。それが社会の伝統なのだから、それに沿ってやっていくのが当然であり最善だと考えるのです。一方、これが木星だと、バケツにはまだ水がたっぷりあるので、世界はもっと広いはずだ、可能性は無限にある、と考えます。
この土星と木星の性格は、どちらがいい/悪いではなく、相互に作用させることが不可欠なのです。臆病な土星には木星の広い視野やポジティヴさの助けが必要ですし、風来坊の木星には土星のディシプリンと現実感覚が必要です。土星だけでは狭い世界でずっと同じことばかりしている暗い人になってしまいますし、木星だけでは根拠なくポジティヴで大きすぎる夢を抱くだけのおめでたい人になってしまいます。この両者はどちらも説教くさいのですが、土星の説教は「プロになるまで何十年かかると思ってるんだ!」という下剋上を阻止し牽制するような説教で、木星は対照的にアップリフティングで意識高い系なのですが、やたらポジティヴで細部が見えていなくて本人の現実が伴っていなかったりします。
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では次に、土星/山羊座が入っているハウスの例を出して見ていきましょう。
✴︎ 例:2ハウスに土星/山羊座がある場合
例えば、土星/山羊座カスプが2ハウスにある場合、物質的、経済的な安心感が希薄だったり、心地よく安心して生活するための物や基盤が欠けている環境で育っていたりします。経済的な心配がなかったとしても、食べるものや暖かいブランケットがいつも用意されているわけではなかったり、家の中が荒れているなど、物質面での安心の供給という点において何か不安、不安定な部分があったかもしれません。
もしくはシンプルに、家に置いてある本や物、インテリアが自分の心に触れるものではなく、ただオーソドックスだったり、ビジネスライクに感じたり、高価なだけの物だったり、何か寛げない、心を貧しく限定的にするような物質的環境が挙げられます。伝統工芸など、クラッシーで高価な物に囲まれていることもありますが、それによって心がときめくことはなかったでしょう。「捨てればいいのに!」と思うような、古くからずっとずっと、ただ残したままの不必要な物が多くあって、断捨離していないが故に過去や古い価値観に囚われるような、その物によって現在や未来に制限を加えるような、物がそんな力を持っている場合もあります。
また、2ハウスの表す安心安定のもう一つの物質的(身体的)リアリティーである「社会的に安定した立場」とされる基盤、例えば両親の揃った家庭だったり、ライフステージごとに多くの人が得ていく肩書きなど、そいういった「一般的」とされるものを持っていることで得られる安心感が欠けた環境による大きな不安を経験しがちです。社会的に安心、安定であるという世間体としてのステータス、それは2ハウスや金星/牡牛座が示す見逃されがちな重大な点で、これは既存社会の世間という基盤にそのまま左右されますが、そこに何らかの足りてなさを感じるのは非常に大きな不安感につながり、自信が持てない要因にもなります。世間体に囚われるのは明らかに健康的ではありませんが、それが社会に病のように蔓延っている現実があり、2ハウスはその社会通念から得られる安心も表すということです。
2ハウスは元から与えられている、備わっているもの、生育家庭にある資源や自分の所有物「my〜」を意味します。そして、それは家柄のようなことだけでなく、自己資源として自分に備わっているもの、つまり、自分の素質や才能、魅力などへの認識も示し、self validation(自己認識/自己価値)につながります。前述した2つの安心安定(文字通り物質面における安心安定と、社会的な面による安心安定)に加えて、自分で自分を認められるような自己価値による安心安定も同時に表すのです。
土星/山羊座が入っていることにより、それが足りてないと自分に思わせるような環境、素質や才能を励まされることがなく、自らの魅力に気付かされることなく、どちらかというとむしろ貶されることが多かったため、自分でそれを認識できない、自分で自分を認めることが難しくなって、自己価値の認識が遅れるような環境が示唆されます。なので、そこをどう乗り越えていくかが課題になります。
この点においては、5ハウス土星/山羊座とも少し似ています。5ハウスの場合、例えば親の育て方が土星的で古い価値観やステータス志向だったりして、子供の自己表現の面が抑圧されがちです。その影響で、本来は自分のハートや個性から出てくるはずの自己表現が、権威やステータス志向が発端になることがあります。
土星の権威主義(家父長制や男尊含む)というのはこの社会において意味合いが強いので、欠けている、足りてないという思いをそちらで社会的に認められることで埋めようとする傾向があります。例えば、7ハウスや11ハウスに土星エネルギーがある場合、一対一の対人関係や、友人グループ、サークルやコミュニティにおける対人関係が、それを築くのが困難であった経験から、それらの人間関係がビジネスや人脈のためのものになり、ビジネスパートナー、成功者、エリート、権力者、年上男性などで周りを固める可能性もあります。それが目的となると、7ハウスや11ハウスの意味するパートナーシップやフラットな交流から学んだり得られるものが、ものすごく限定的で何か冷たいものになり、本来の楽しさや意義深さから離れていってしまいます。
話を2ハウスに戻して、前述した2つ(物質的、社会的安心安定)は外側から得られる安心安定で、自分ではどうにもできない部分もありますが、この自己認識/自己価値による安心安定は唯一、自分の内側から得られるものです。よって、足りてなさを払拭する場合、自分は価値のある人間だと自分で認められることが一番大切ではないでしょうか。
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土星の「どうせ」
では、土星エネルギーのハウスは貧しいのか、2ハウスだったら文字通り貧乏なのかというと、そういうわけではありません。ただ、お金がなくなることへの恐怖心から、使い方にしても稼ぎ方にしても土星的なアプローチになります。土星/山羊座のハウスでは抑圧、制限、試練を感じることが多いので、「こんなのいじめじゃん!」と言いたくなるようなことが続くと、ペシミスティックになって「どうせ・・」という気持ちが心の奥に染みつきます。これも土星の性格的特徴です。
本来、努力が促されるので忍耐強いのですが、「こんなことしたってどうせ・・」というシニカルな気持ちになりやすく、「どうせ・・」が心の奥に染みつくと、全てに投げやりになってしまうことさえあります。そうなると、足りてない思いに甘んじることになり、卑屈さや劣等感が残ります。それこそが乗り越えなければならない最大の課題かもしれません。土星/山羊座のハウスが示す事柄には劣等感を持ちやすいということは覚えておきましょう。
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“One time I almost finished knitting a sweater, then I realized it didn’t fit, so I unknitted it. And then I knitted it all over again.”
✴︎ 一流の品格
とはいえ、その試練を乗り越えて、間違っていたことをやり直して継続した先では、プロ級に何かをマスターしています。土星には自己鍛錬や独学の意味があり、誰かに教わってというよりも、自分の力でマスターする要素があります。その成長は唯一無二のものを生み出します。熟練していて、自分がその道の巨匠になっています。人の下にいるのではなく、自分が自分のボスになります。そこには時間をかけて積み上げてきた質があります。その仕事は一流であり、クラッシーな品格を備えます。
何かにおいて巨匠とか大御所と言われるような人が10ハウス(社会的ステータスやパブリックイメージ、職業などを表す)や1ハウス(自身のキャラクター)に土星を持っているのを多く見かけます。太陽山羊座にも多いですね。社会で認められやすい、玄人感のある星なのです。もちろん、プロやその道の巨匠のような存在になるには長い時間と鍛錬が必要ですが、人の下ではなく、自分がボスであることで大成する傾向があるので、2ハウス、6ハウス、10ハウスといった経済活動、仕事、職業につながるハウスに土星/山羊座カスプがある人は、人の下で働くよりも、自分が(特に自分にとっての)ボスとして、プロとしてやっていけるような道をなるべく早いうちから目指したり、視野に入れておいた方がいいかもしれません。プロとして働くか、能力を抑圧されたような仕事や最低限の立場で働くか、どちらかになりやすいからです。
土星エネルギーのハウスに関することは付け焼き刃ではなく時間をかけて築いていくもの。厳しい面の多い天体ですが、熟成したワインのようなものでもあります。長年の経験による品質、品格や審美眼を持っていて、上質好み、玄人好みでお目が高いのです。土星/山羊座の強い人はそのような玄人感や品の良さ、審美眼を持っていると思います。土星エネルギーのあるハウスは確かな質が求められるようなところがあって、チープなことをするとコケる感じがします。
一つ心に留めておきたいのは、「〜でなければならない」「〜しなければならない」というようなシリアスな考え方になりすぎると、元々制限された状況の中でさらに自分の可能性を限定することにもなり、間違ったことに時間を費やしていたとしたら、縛られているような息苦しい気持ちでその状況に閉じ込められてしまいます。好きなことでもディシプリンは必要で、それには我慢や忍耐も時に要しますが、自分の心が求めていること、やっている時に楽しさやパッションや充実感を感じられることでないと継続できません。ネガティヴな感情を引き起こすようなことではなく、充実した自由な気持ちで自己鍛錬できることに時間を費やしましょう。
足りてない思いに甘んじるか、その道を極めるかー。土星エネルギーのハウスに関する事柄は、そんな形で作り上げられる可能性が示されています。興味深いのは、やり直しになる「間違っていたこと」が、社会的な成功や失敗とはあまり関係がないことです。社会的成功を求めるビジネスライクな土星が下す失格ややり直しが、例えばその成功のために自分の心や高潔さに反することをしていたような、自分の品格を下げるような、魂を売っていたような時に起こるというのが、多くを物語っている気がします。integrityーそれも土星のキーワードなのです。
思うに、土星は私たち個々人に権威主義になんかなってほしくはないのです。ただ、自分が自らにとってのボスであれ、そう言っているようです。