SaaS投資のプロが、サラダ専門店に投資した理由。
食市場の中でも、特に加速しているのがテクノロジーで外食の課題を解決するレストランテック領域です。2019年にはフードテック全体への投資額は世界で2兆円を超え、また2025年にはセルフサービスレストランにおいてデジタル経由の売上が50%を超えると予測されています。
そんな中、SaaSスタートアップへの投資に特化した独立系ベンチャーキャピタル「One Capital」代表の浅田慎二氏が、2021年6月にCRISPへ約5億円の出資を発表しました。 浅田氏には今回の投資の背景や、投資家として考えるCRISPの今後の成長可能性について話を聞きました。
──まず、One Capitalについて簡単に教えてもらえますか?
One Capitalは運用総額が165億円(2021年9月時点)の独立系ベンチャーキャピタルファンドです。私は創業者CEOで、2020年の4月に創業して約1年間かけて運用資金を集めました。私の前職は時価総額が27兆円・世界No.1のSaaS企業と言われているセールスフォースで、そこで日本のSaaS企業に投資をする責任者をしていました。
基本的にOne Capitalもテクノロジー企業、特にSaaS企業に特化して出資するファンドなんですね。その中で20%は消費者向けのサブスクリプションをやっている会社に投資資金を割り当てようと考えていた中で、CRISPにぜひ出資させてほしいという話をして、宮野さん(CRISP代表取締役)もタイミング的に僕たちのようなSaaS企業の経営に詳しい人にジョインして欲しいということだったので相思相愛で資本提携できたという経緯があります。
衝撃的だったCRISPのおいしさ
──CRISPをどんなきっかけで知ったのでしょうか?
最初は広尾の店舗にひとりのユーザーとして行ったんですよね。自分の子供を週末に広尾の英語学校に行かせていたので、その近くにCRISPのお店があって。ブルーボトルコーヒーみたいな外資系のおしゃれなサラダ屋さんなのかなと思っていました。
それで、はじめて食べたら「なんじゃこれ!うまい!」と、なったんですね。僕はアメリカに住んでいたこともあって元々サラダをよく食べるし好きなんですけど、日本はサラダ専門店ってあんまりないし、コンビニには貧相なサラダしかないですよね。ちっちゃいし、おなかいっぱいにならないし、ドレッシングで無理矢理味をごまかしているみたいなイメージ。本当にサラダ文化がなくて、あったらいいなと思っていた時にCRISPに出会って、とにかく衝撃でしたね。
──サラダの固定概念をひっくり返すというか、衝撃の美味しさですよね。
こんなうまいサラダがあるんだ。しかもスプーン1本で食べられる。普通はレタスとかデカくて食べにくかったりするんですけど、もうサクサク食べやすいし、サラダでお腹いっぱいになった体験ってなかったので。なんでこんなおいしいサラダがあるんだろうってすぐにネットで調べたら、日本の会社じゃないかと。
それで代表の宮野さんの名前をインターネットで検索しまくって、それで、僕はよくやるんですけど、興味があるサービスとか起業家をFacebookで調べるんですね。そうしたら、共通の知り合いにトレタの中村社長がいたので、中村さんにお願いして宮野さんを紹介してもらいました。
──最初に会った時はどんな話をしたんですか?
宮野さんからすると最初は多分「何が目的なんだろう?」とは思ったはずなんですけど、結局1時間のアポの予定がいつの間にか2時間以上もお互い話し込んでいました。
飲食店の経営者って何人か知り合いはいるんですけど、宮野さんはどちらかというとテック系スタートアップの社長みたいだなという印象でした。やっていることはバリバリの飲食店なのに、データドリブンで顧客体験を上げていこうとしている所とか行動基準や価値観はSaaS起業家と共通してて、外食企業をソフトウェアカンパニーのように経営しようとしている、面白いハイブリッドな人だなと思いましたね。
データドリブンな新しい外食企業が世界中で成長している
──やはり投資をする上では、日本の外食市場への可能性を感じていたのでしょうか?
そうですね。美味しいレストランというのは世の中にたくさんあると思うんですけども、それらを食べるたびに投資対象になるわけではありません。
ただ、CRISPは2020年に三菱商事さんからも5億円の出資を受けていて、外部資本を受け入れる会社だということは知っていました。また、僕はなんでもアメリカの先進事例を調べるようにしていて、Sweetgreenっていうサラダチェーンで500億円くらいの資金調達をしている、いわゆるユニコーン企業があるんですね。しかも、私のようなテック系ベンチャーキャピタルから。そして、今年か来年の前半に上場するっていう記事も出ていて、アメリカでもそういう事例があるので日本でもそのモデルはありえるなとか、そういった前提知識のもとに投資判断をしました。
──その中でも、CRISPに投資を決めた一番の理由はなんでしょう?
やっぱり僕はBtoB・BtoCのサブスクっていう切り口で投資選別をしているんですよ。だから一言でいうとサブスクの可能性が高かったからですね。
サブスクって消費者向けにはデジタル商品の方が先に立ち上がっているんです。映画のNetflix、音楽のSpotify、ゲームのApple Arcadeとか、いっぱいありますよね。ただ、徐々に物理的な商品、たとえば車のサブスクとかも増えてきてるわけです。ポルシェだと月20万円くらい払えば期間内で6台くらい乗り換えられるとか。
ということは飲食のサブスクもありえるなと思って、僕がスタートアップの視点で調べたものだと、国内だと法人向けの「オフィスおかん」とか、お菓子だと「スナックミー」とか。でも、それ以外の食のサブスクでピンと来るものってそんなにないと思ったんです。
また、食べ物によってはサブスクのように定期的に食べることが必ずしも健康に良くなかったり、同じものばかりだとどうしても飽きてしまいます。でも、サラダではそんなこと絶対ありないんですよね。だからサラダとサブスクは相性がいいなと思っていて。
──と、言うと?
CRISPのサラダは美味しいだけじゃなくて、食べれば食べるほど健康に良いし、カスタムすればいろんな種類があるから飽きない。それでその考えを宮野さんにぶつけたら宮野さんはとっくにそういうことは考えていて、「サブスク始めたいんですよ」と。それが形になったのが今年の7月にリリースされたサラダのサブスクアプリ「CRISP REPLENISH」です。今はまだ売上の中の限定的なポーションですけども、もっともっと増やせると思っています。
サブスクリプションの売上比率が増えると経営の安定度・予測度が飛躍的に高まるので、それはVCとしても願ったり叶ったりだし、経営者も毎回ゼロから売上を作らないといけない状態を避けられる。たとえば、特にレストランって今月は梅雨だとか、お盆だとか、そういう季節的なものがあると思うんですよね。ビジネスモデルの強化にもなるし、お客さまもより健康になれるので、ウィンウィンだと考えています。
外食企業をソフトウェアカンパニーのように経営する
──サブスクの売上比率が高まると、会社としての重要な経営指標も通常の外食企業とは変わってくるのでしょうか?
僕の知見はソフトウェア企業の経営なので、それを提供したいと思っています。具体的にはSaaS企業ってすごく単純にいえば月間売上ドリブンなんですよ。それがわかりやすい最重要指標なんです。これはNetflixみたいなサブスクでもそうなんですね。そして、月間売上の構成要素は「単価と優良顧客と解約率」の3つしかないんです。この3つを徹底的にデータドリブンで明確にターゲット設定して行動・改善をする。
この3つの構成要素に基づいて、CRISPとしては2022年6月末までに月間売上2億円というのを目標にしています。今は月間売上が1億円ちょっとなので2倍弱になります。いまは山登りで言うと1合目とか2合目くらいでしょうか。
──成長のために挑戦できることはいくらでもありますね。
そうですね。僕もCRISP REPLENISHアプリを使ってサラダをサブスクしていますけど、例えば新しいトッピングやドレッシングの組み合わせを試そうとすると、大成功の時と、逆に、あれ?これはいまいちだな、とかあるわけです。そこら辺をユーザーフィードバックでパーソナライズできたりすると、よりリピート意欲が高まって、もっともっと月間売上が大きくなっていくんじゃないかなと思いますね。
今は目の前の月間売上をターゲットにしつつ、山の頂上まで達してきたなと思ったら、宮野さんが以前から考えている「AWS構想」で CRISP PLATFORM(CRISPが開発するデジタルレストランプラットフォーム)をいよいよ本格的に展開するフェーズになると考えていて、その一つひとつのステップを一緒に実現していくのが楽しみです。