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44.外国語から受ける印象

Netflixのドラマ『ストレンジャー・シングス』ファンの筆者に、YouTubeがこんな動画をおすすめしてきた。

↑  同じことを言っているのに、言語が違うだけで印象ががらりと変わることがわかる。

筆者が耳で聞くだけで意味を解せるのは日本語と英語だけだ。
この動画にコメントをつけている人のほとんども、登場する言語のすべてを解せるわけではないだろう。

それでも、「日本語吹き替えがいちばんおもしろい」というコメントが目立っている。
アニメのキャラクターみたいだから、だという。

意味がわからなくても誰もが感じる、言語の雰囲気ってなんだろう。 

特定の文化イメージ

日本語=アニメ

上の動画などに、日本語がアニメっぽい、実写の映画も日本語吹き替えだとアニメみたいになる、というコメントは一部で散見される。

こういったコメントは多くが日本のコンテンツを愛する外国人によるものだが、日本国内でさえ、アニメみたいな日本語、というイメージは無視できないものになっている。 

筆者がそう感じたのは、今年の初めに実写版『ゴールデンカムイ』を観たときだ。
鶴見中尉を演じる玉木宏が、話し方をアニメの大塚芳忠にすごく寄せていた。

漫画の実写化という特殊な立ち位置だからかもしれないけれど、日本語話者自身が「日本語はアニメっぽい」というグローバル・イメージを内面化しているのは興味深い。 

ドイツ語=第三帝国

最近はそうでもないけれど、一昔前のハリウッド映画でドイツが出てくるときはだいたい敵である

第二次大戦の終結から来年でもう80年になるというのに、いまだにドイツ語の怒ったような、アクセントの強い響きに、みんなナチスを思い出すらしい。

たとえば、アメリカのグミ「sour patch kids」のCMの、ドイツ語版パロディ(もちろん非公式)。

 
あるいは、『スター・ウォーズ フォースの覚醒(2015)』の、ファースト・オーダーの演説シーンのドイツ語吹き替え版。

↑  これの場合、もとの演技やいっせいに敬礼する流れ自体が明らかにナチスに寄せているため、ドイツ語がオリジナルなのかと思ってしまうレベルではまっている。

ヒトラーが演説の名手だったことが世に知れ渡っており、世界中でナチスの映像といえばヒトラーの演説、みたいなイメージがついてしまっているせいで、ドイツ語=ナチスみたいなミームは枚挙にいとまがない。特に欧米で。

ドイツ、損だなあ。

スペイン語=早口、強気

アメリカンジョークの笑いどころは、海外経験の乏しい日本人の筆者にとって結構理解しがたい。
それでも、有名俳優が時事ネタや風刺ネタでコントをするSNL(アメリカのコメディ番組、サタデー・ナイト・ライブ)のスキット(小芝居)はたまに笑えるものがある。
日本だと、NHKのLIFEがいちばん近いのかな。

好評すぎて第2弾もあった。

↑  無理がありすぎる女装は置いておいて、
このスキットはラテン系の過保護なママ、というテーマ。
実家に帰ってきた息子と、連れてきた非ラテン系の彼女に対し、マイペースな対応が笑える、というもの。

全然連絡をよこさない息子にキレたと思ったらハグしたり、
息子の彼女の持ってきたクッキーを笑顔で捨てて、缶を裁縫用具入れにしたり、
セリフ以前に色々クセがつよいのだが、
問題は、ほぼ全編にわたってスペイン語のセリフで進行する、というところ。

アメリカにいくらラテン系が多いといっても、アメリカ人全員がスペイン語を理解できるわけではないだろう。
もちろん、筆者もスペイン語を勉強したことは一度もない。

それでも、ほんとうに不思議なことに、
何となく、なにをまくし立てているのかわかるのだ。

息子がうつ病(depression)なことを絶対に認めない、早口で、気が強く、大げさで、感情の起伏の激しいラテン系。
たとえスペイン語はわからなくても、こういうざっくりしたパブリック・イメージさえ頭にあれば、笑えるスキットなのかも。

外国語ごちゃまぜ、という異国情緒

ここまで、特定の言語についてのイメージをみてきた。
しかし、ここまでそれぞれの印象がはっきりしていなくても、
色んな言語が登場する、というだけで、異国情緒はかなり感じられる。

映画『イングロリアス・バスターズ(2009)』

シネフィルでない筆者は、 ほとんどタランティーノ監督の映画を観たことがないのだが、この映画だけはすごく印象に残っているし、たまに見返している。

この作品は、ナチスに家族を殺されたフランスのユダヤ人女性の復讐計画と、ブラピ率いるアメリカのナチス狩り部隊(バスターズ)の活動が並行して描かれる、第二次大戦下を舞台にした歴史フィクションだ。
大戦下のヨーロッパの再現に凝った時代劇ではあるが、あくまでフィクションなので、とんでもない結末が待っている。

この、とんでもないストーリーも充分面白いのだが、この作品の白眉は、それぞれの登場人物がそれぞれの国のことばを話すことだと筆者は思う。

なにを当たり前のことを、と思われたかもしれないが、
たとえばハリウッド映画だと、舞台が日本だろうが古代ローマだろうがナチス政権下のドイツだろうが、登場人物が話すのはだいたい英語だけだ。
だから、背景の看板や手に取る新聞などに書かれた言語と齟齬が生じることも、割とある。

『イングロリアス・バスターズ』には、その齟齬がない。

バスターズのリーダーのアメリカ軍人こそアメリカ人のブラピが演じているものの、
ナチスに復讐を違うフランスのユダヤ人女性を演じるのは、フランス人女優のメラニー・ロラン。
連合国のスパイであるドイツ人女優を演じるのは、ドイツ人女優のダイアン・クルーガー。
ドイツの英雄として称えられるナチスの兵士を演じるのは、ドイツ人俳優のダニエル・ブリュール。
演じている人物の国籍と、俳優の国籍が一致しているのだ。

だから、アメリカ人のブラピが枢軸国のイタリア人を装ってドイツ人将校に接近しようとしたら、将校の方がブラピよりイタリア語が得意で焦る、みたいなシーンが撮れる。

↑  ちなみに、このいろんな言語がペラペラな恐ろしいナチス将校を演じたクリストフ・ヴァルツ(本作でアカデミー助演男優賞を獲得した)は、オーストリア人らしい。

ヨーロッパの人っていろんな言葉話せて、すごいなあ。

この作品は、話が荒唐無稽なぶん、話す言語でリアリティを出しているのかも。

ディズニーキャラのネイティブ言語

映画ではないのだが、こんな動画も面白い。 ↓

ディズニーアニメもアメリカで作られているので、オリジナル版はもちろん全編英語だ。
しかし、題材は世界中の童話や言い伝えなので、もし彼らが舞台となっている国のことばでしゃべったら…?というもの。

一気にリアリティが増し、おなじみのディズニー作品の新たな魅力が見えたと感じるのは、筆者だけではないだろう。
子ども向けの外国語教材によさそう。

マルチリンガルじゃないけれど

わかる言語がたったふたつの筆者でも、こんなに色んな印象を持って、3,000字近いブログが書けるのだから、外国語ってほんとに奥深い。

ある意味これは、言語として理解できないからこそ、響きや文化的背景だけで楽しめているのかもしれない。
あれ、また、ことばの勉強をしない言い訳を思いついちゃった。

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