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65.実写洋画は衰退したのか?

2024年の現在(12/15)の年間ランキングは……

1)名探偵コナン100万ドルの五稜星 157.1億円
2)劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦 115.5億円
3)キングダム 大将軍の帰還 79.8億円
4)劇場版 SPY×FAMILY CODE: White 63.2億円
5)ラストマイル 58.9億円
6)機動戦士ガンダムSEED FREEDOM 53億円
7)インサイド・ヘッド2 52.7億円
8)変な家 50.5億円
9)怪盗グルーのミニオン超変身 45.3億円
10)あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら 45.2億円

ベスト10のうち8本が日本映画で2本が外国映画(=洋画)。しかもその2本『インサイド・ヘッド2』と『怪盗グルー』はアニメ作品。ベスト10に実写の洋画が1本もランクインしていない。こうした統計がとられてからこれは初めてのケースで、ちょっとした異常事態とも言える。

2024年の11位以下の洋画は、12位がアニメの『ウィッシュ』36億円、実写は17位の『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』23.7億円がトップで、18位デッドプール&ウルヴァリン』20.7億円、22位オッペンハイマー』18億円と続く。特大ヒット作が最後まで現れなかったことを示している。

過去5年、ベスト10内の洋画実写の本数を振り返ると、たしかに今年のゼロへと至る予感もうかがえた。

2023年:1本 7位『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
2022年:3本 3位『トップガン マーヴェリック』、6位『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』、9位『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』
2021年:1本 10位『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』
2020年:3本 2位『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』、4位『パラサイト 半地下の家族』、7位『TENET テネット』
2019年:3本 6位『ライオン・キング』(超実写)、7位『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』、8位『アベンジャーズ/エンドゲーム』

Yahoo!ニュース「2024年の映画年間ベスト10 なんと初めて『洋画実写ゼロ』…残念だが予想どおりの結果なのか?」


洋画好きの筆者には、このニュースが結構衝撃だった。

あれだけバーベンハイマー騒動とか騒がれてたのに、

けっきょく、その『オッペンハイマー』すら年間ベスト10に入らなかったのか…
唯一ランキングに食い込んだ外国資本の映画が『インサイド・ヘッド2』と『怪盗グルー』かあ…

以前も書いたが、筆者はあまりアニメ作品を見ない。

しかも、大きなスクリーンは予算のかかったスペクタクルを観るためにある、みたいなへんな思い込みがあるので、前作未履修でもシリーズ作品を見に行ってしまったりする。


そのため、アニメに関する経験値が平均以下の筆者が、決してアニメをこき下ろしたいわけではないと、最初に明言しておく。

ここまで実写洋画の人気がなくなってしまったのは一体なぜなのか、いち映画ファンとして純粋に気になるのだ。

ちなみに筆者が昨年一年間に映画館で観た新作映画は、

『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』
『哀れなるものたち』
『アーガイル』
『オッペンハイマー』
『フォールガイ』
『ビートルジュースビートルジュース』
『グラディエーターII』

あはは、笑っちゃうくらい実写洋画だらけ。偏りすぎ。

ハリウッド側の問題

洋画が大好きな筆者でも、そもそもハリウッド映画の魅力が低下しているのでは?と思ってしまうことがある。

続編だらけ

最近のハリウッドは、古い作品のリメイクだらけだ。
リメイクなら、俳優もスタッフも一新しているからまだ新作のふりができるものの、
最近増えているのは続編だ。

上の引用をもう一度見てほしい。
2019年から2023年にかけて年間ベスト10に入った作品は、2020年の『パラサイト』と『テネット』以外、なんとぜんぶ続編かリメイクだ。

特に、最近はあらゆる作品がドラマを増やして、世界観を広げまくるので、後から追いかけるのがどんどん大変になっている。

世界中から選りすぐりのクリエイターが、我こそは、と集ってくるはずのハリウッドなのに、もしや、ネタ切れ?
それとも、前作のヒットとか受賞歴みたいな「興収を担保できるもの」がないと、製作費が降りないのかなあ。
どちらにせよ、窮屈そうだ。

なんでも配信しすぎ

コロナ禍を挟み、月々高くても2000円くらいで映画やドラマが見放題のサブスクが普及しまくった。
そしたら、映画館の高画質・高音質に情熱がない層はそっちに流れて当然である。
どう考えても、経済的にお得だからね。

だからこそ、映画館は最新作が最速で観られる唯一の場所としての価値を何が何でも維持すべきなのに、
最近は、映画館で公開されて2ヶ月くらいですぐサブスクに流れてきちゃう。

U-NEXTの最新作コーナー。昨秋公開されたばかりの『ジョーカー』続編も、たったの399円で借りられる


そもそも配信サービスが細分化しすぎているのも問題だ。

↑ ここでも書いたが、そもそも映画館で公開するのを諦め、配信限定作にしちゃうものも最近は出てきた。

映画館で観てこそ映画だろ、映画を名乗るなら、配信に流す流さない以前に映画館でもすこしくらい公開しろよ…と思ってしまう筆者は古いのだろうか。

映画配信反対派の星、スピルバーグもいつのまにか翻意しちゃったしなあ。

一体、なぜスピルバーグは考えを変えたのか? ひとつには、コロナが関係しているだろう。日本ではコロナ禍でも映画館が開いていて『鬼滅の刃』のような大ヒットも出たりしたが、ロサンゼルスやニューヨークでは昨年3月から今年3月まで映画館は完全閉館。つまり、アメリカでは丸1年も「劇場用映画」は存在しなかったのである。

 劇場で上映したくてもできないのだからやむをえず、あくまで一時的な措置としてアカデミーも2021年のアカデミー賞についてルールを変更し、劇場公開されなかった作品も資格を得られるようにした。コロナをきっかけに「配信と劇場の境目」は以前よりもっと曖昧になったのだ。実際、今年のアカデミー賞では、近年と違って「配信作に作品賞を取らせてはダメだ」というような議論は一切聞かれなかった。

東洋経済オンライン「スピルバーグが『反Netflix』をやめた納得理由」(最終閲覧: 2025.1.6.)

うーん、やっぱりコロナのせいか…コロナ憎し。

ここまで読んで、「いや、配信ばっかりになったのは洋画邦画関係なくない?」と思った方。
いや、そうなんですよ。
そうなんですけど、
映画館の近くを通ったときにポスターが貼ってあるとか、
映画を観に行ったときにほかの映画の予告編が流れるとか、
そういう偶然の出会いがなくなる、ってことが、真に問題なんですよ。
だってサブスク限定の作品のポスターなんて、映画館に貼られないもの。

そもそもその作品が存在(公開・配信)していることすら知らない、なんてこと、
映画が映画館でしか流されていなかった時代にはありえなかったんじゃないか。

日本側の問題

コンテンツが豊富すぎる

日本好きの外国人は、往々にしてアニメ・漫画好きだと書いたことがある。

書店で漫画コーナーの広さに圧倒されたり、
サブスクの視聴ランキングが軒並みアニメだらけになっているのを見るたび、
そりゃそうだよなあ、と思う。

日本は、せまいせまい島国にひしめき合う1億2000万が、ほぼ全員おなじ言語と文化の中に生きているという、ちょっと特殊な国だ。
韓国は人口が少ないため、音楽や映画が外国でも売れないと元を取れないらしいが、日本でそんな話は聞いたことがない。
日本人だけでコンテンツが成り立ってしまうほどの人口と、民族の均一性
だから、一生かけても観きれないほどの独自のコンテンツが、日々つくり出されているし、その中に耽溺していれば、洋画に目を向ける暇などないのだろう。

日本のアニメファンが実写洋画に興味をもつとしたら、声優の吹き替えが入り口になるのかな?
でも、俳優やタレントが洋画の吹き替えをやることも多いしなあ。

「海外」が遠すぎる

たとえば、ハリウッド映画でよく舞台となる、欧米、と呼ばれる国に行くには、だいたい10時間以上かかる。
筆者はバンコクに行ったことがあるのだが、比較的近い東南アジアですら、直行便でも普通に7、8時間かかった
南米、中東、アフリカ、北欧などはもっと遠いので、もはや直行便すらない国だらけ。

この地理的な距離の遠さが日本文化の独自性を守ってきたともいえるのだけど、
近隣のアジア諸国以外の人と触れ合う機会が、やっぱり少なくなる。

加えてこの円安で、外国に行って直接己の目で世界を見るにはあまりにお金がかかりすぎるようになってしまった。

航空券とホテル代だけでも、こんなんだ。

出典: https://www.smbc-card.com/nyukai/magazine/tabisapo/choose/cost.jsp

これに加えて、現地での食事代やお土産代もかかる。

2桁万円をほいほい出せる人は、収入が相対的に低い若年層には特に少ないだろうし、それなら海外でギリギリ旅行するより、国内で豪遊した方がいいや、と考えてしまうのも当然だ。

なんで筆者が危機感をもつのか

先述の『グラディエーターII』を観に行ったとき、
あーお金かかってておもしろかったなあ、と劇場を出て、ふとあることに気づいた。
売店にパンフレットが、ない
調べたら、なんとこの作品のパンフレットは発行していないらしい。
映画館で買うパンフレットは日本独特の文化なので、海外版がネットで買えるわけでもない。

えぇ…?
日本でもたくさんのファンがいるリドリー・スコットの、アカデミー賞受賞作の続編でも?
キャストがわざわざ来日して宣伝してても、
パンフレットつくらないの?

この出来事は、筆者になにかが始まったと感じさせた。

実写洋画離れも、ここまできたか、と。

こんな調子だと、もうハリウッドスター、来日してくれないだろうなあ。

筆者が、映画関係者でもないのに、実写洋画離れにここまで危機感をもつのは、
ほかならぬ筆者自身が外国文化へのあこがれや外国語学習へのモチベーションを得たきっかけが、実写洋画だからである。

筆者は、家族が『スター・ウォーズ』や『ロード・オブ・ザ・リング』などの大作洋画好きであることも相まって、幼い頃から実写洋画ばかり観て育ってきた。

その中に出てくる外国人や外国の風景、文化に、
子どもが絵本の世界に夢中になるがごとく、「行ってみたい、自分の目で見てみたい」という好奇心を抱いた。

その経験は、英語を使う仕事に就いたり、教養として外国文化を身につけるなど、少なからず人生に影響したし、
大人になったいまも、非日常を楽しみたくて映画館に行き、洋画を観る。

日本人、特に若い世代の内向き志向が強まっていると叫ばれて久しい。

筆者は学生時代、借金してでも卒業旅行で海外に行きたいと言ったら、友だちの誰にも共感されなかったことがある。
いやまあ、借金してでも、は言い過ぎだったかもしれないけど、
社会人になる前の、時間があるうちに外国に行ってみたいと素直に願う感覚って、もう普通じゃないのか…と思い知った出来事だった。

もちろん、若者の海外離れは洋画を観ないことだけが理由ではないだろうが、ひとつの原因であることは確かだろう。
外国文化の窓口としての洋画に触れず、成長過程で外国に触れなかったら、この国の外にどんな世界が広がっているか知る機会すら失われてしまうのではないか。

観て、嫌いでも行きたくないでも好きに感想を持てばいので、
映画という手軽なコンテンツから世界の広さを感じてみるのは、割と大切な経験だと筆者は思うのだが…

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