放課後にて(失恋した後輩、池田瑛紗)
─美術部 部室─
瑛「ふわぁぁん…」
○「・・・」
瑛「ふわぁぁぁん…」
○「・・・・」
瑛「ふわぁぁぁぁぁぁぁん」
○「池田」
瑛「ふぇい」
○「話したいことあるならさっさと言え。今聞いてやるから」
瑛「あれ手塚先輩珍しいですね。いっつも『黙って作業しろ』って言うのに」
○「普段の5倍はお前がうるさいからだよ。それにほとんどの連中は今日部活サボってて、ここにいるの俺とお前だけだからな。別に喋ってても対して迷惑かかんないってだけだ」
瑛「合理的な判断すぎて草です」
○「…あれ?サボると言えば…」
○「池田お前、今日彼氏とデートって言ってなかった?」
瑛「ギク」
○「…え、何お前別れたの?バスケ部の吉田くんと?付き合ったの先月とかじゃなかったっけ?」
瑛「…いや、吉田君とは前に別れたんで。デートの約束してたのは帰宅部の遠藤くんです」
○「…一応聞くんだけどさ、4月になってから今日までで、お前彼氏何人目?」
瑛「・・・」
○「恋愛価値観いかついなお前。まだ6月だぞ」
○「…で、その遠藤君とは何週間もったんだ?」
瑛「3日です」
○「付き合って別れたうちに入るのかそれ」
○「お前なー、どんだけ男を取っ替え引っ替え楽しむつもりだよこのアバズレ女が」
瑛「いや、まだ膜は誰にも捧げてないんで問題ないです」
○「問題ないことないだろ。より問題が可視化された可能性が高いだろうが、お前の人格という解決困難な問題が」
○「あと膜とか言うな。生々しいんだよ」
瑛「まあ一回野球部の長谷部君に破られかけましたけどね」
○「別にいらんわ補足情報。ってか何でお前の歴代彼氏サッカー日本代表でキャプテン務めてそうな名前してんだよ」
○「…で?何で別れたんだ」
瑛「はあー?先輩を慕う数少ない後輩が失恋で憔悴し切っているというのにかける言葉がそれですかぁー?いくらアバズレでも聞いて欲しくないアレコレくらいあるんですけどぉー?童貞丸出しやめてくださいぃー」
○「どこが憔悴し切ってんだよレスバキレキレじゃねぇかお前。傷心を自明した上で俺の精神抉る発言してんじゃねぇか」
○「…まあ別に言いたくねぇならいいよ」
瑛「あれは初デートのことでした」
○「ギアチェンジの速度いかつぅ」
瑛「映画館で映画を観た後、彼の家に行ったんですけど…」
○「待て待て待て」
瑛「え?」
○「お前それデート初日だよな?展開早くね?新人が書いた漫画の話してる?」
瑛「今時のカップルなら家くらいすぐ行くでしょ。出会って4秒で合体する世の中ですよ」
○「ああいうのに映るカップルはカップルじゃねぇんだよ」
瑛「それに家行った理由もしっかりあるんです。映画見終わった後で感想話し合った時、彼がスマブラのオンライン対戦が強い話になったんです」
○「何の映画見たら感想言い合う場でその自慢話漂流してくるんだよ」
瑛「映画版『変な家』でした」
○「映画もっとちゃんと観ろお前ら。いや別に観なくていいけどあんな映画」
瑛「で、そしたら遠藤君がガチ部屋?ってのに潜るとかなんとか言い出して、そのまま相手とタイマン決め込み出したんです」
瑛「私としては遠藤君に頑張って欲しかったんです。でも近所迷惑になるのは避けたかったので、彼の耳元で応援の声を囁いてあげたんです」
○「…応援の声?」
瑛「はい。『がんばれ♡がんばれ♡』って感じの」
瑛「それでも試合のテンションが上がる感じがなかったので」
瑛「仕方なく今度は白組がカッコ良すぎると評判の運動会の歌を歌ってあげたんです」
瑛「クソダサパートこと赤組が終わって白組に差し掛かるところで、
『うっせー!帰れ!』
って逆ギレされて追い出されたんですよ」
○「・・・」
瑛「そっから連絡つかずですよ!酷くないですか!?理不尽の極致ですよこらぁ!正に『理不』の神、理不じ…」
○「…あのな池田」
「お前が悪い」
瑛「ええええええええええええ嘘でしょおおおおおおおおおいやおかしいでしょおおおおおおおおおお小見出し使ってまで言うなら普通共感のカードを切るでしょおおおおお」
瑛「『うんうん、池田は悪くないよ』って一回全肯定のクッション置いてからおまーこに挿入するところでしょおおおおおコロコロコミック定番の流れでしょおおおおおおおおおおおおお」
○「コロコロコミックにそんな過激な内容入ってねぇよ。てか聞け池田、いいか?」
○「お前が宇多田ヒカルを聞く隣でお経を突然唱えられてみろ。お前どうする?」
瑛「一度お経に耳を傾けてから般若心経の成り立ちについて一考するとします」
○「大喜利やってんじゃねえんだよ」
瑛「般若心経とは、中国の僧侶玄奘がインドへ渡った際に…」
○「NHKの番組やってんじゃねえんだよ」
瑛「いやいや先輩応援だべ?応援の声が大きいホームスタジアムの方が勝率高いってもっぱらの噂ですぜ?」
○「ゲームは違うだろゲームは。それにお前がやっているのは応援ではない」
瑛「応援じゃないなら何だって言うんですか?」
○「前半はソフトM向けのASMR、後半はただの妨害だろ。何お前、一丁前に要所要所で運動会の歌への不満ぶちまけてんだよ。もうあれで何十年もやってきてんだよ、白組だけが優越感に満たされるシステムで通ってきてるんだよ、ほっとけよ」
○「いいか、オンライン対戦をしている人間にとっては一戦一戦が大事なんだよ。その集中を乱されたんだ、無傷で帰って来れただけありがたいと思えよ」
瑛「ゲーマーって暴力に訴えるの!?ゲーマーなのに!?コントローラーの申し子なのに!?」
○「だから彼がしたことは何ら逆ギレではない。別れた側に同情を禁じ得ないな俺は」
瑛「いやいやおかしいでしょぉぉぉ!あれが逆ギレじゃないって言うなら、どんなのが逆ギレだって言うんですか!?ああぁぁん!?」
○「多分今そっちがやってんのが逆ギレだと思うよ」
瑛「じゃあ百歩譲って私が悪いとしても、交際を終わらせて関係を断絶させる理由にはならんでしょう!」
○「なら、な、なるねー!」
瑛「ちょいちょい、理性が漏れてますよぉー!先走りが見えてますよぉー童貞の我慢汁がなぁぁー!」
瑛「そもそもたかがゲームでしょうがぁぁぁぁぁぁそれが私のような天才美少女を放り出す理由にはならんでしょぉぉぉぉ」
瑛「ゲームがいくら競技になると言えどやってたのは結局大会でもなんでもなくガチ部屋とは名ばかりの暇人と暇人の対戦でしょうが夕方からNintendo Switch(税込 37,979円)イジくりやがってこんちくしょーめ!」
○「…うん、そうだね」
瑛「おおっとぉぉー!?これは飽きられてる感じかぁわーーん!?」
○「なんかしつこく話しちゃってごめんね池田…いや、池田さん」
瑛「あああさっきまで軽口を叩く仲だったと言うのにどんどん先輩との距離が開いていくぅぅぅぅぅ」
瑛「先輩いいいいやだよぉぉぉぉ私先輩とは関係断絶されたくにゃいにょぉぉぉ」
瑛「てかもう付き合いましょう私たち!私が先輩を今年度5人目の彼氏に任命いたしましょうううっ」
○「別にいいけど」
瑛「さっきまで私に貞操観念を説いていた人間とは思えぬスピード交際ぃぃぃぃ!では手塚先輩改め、○○さんよろしくお願いします。じゃあ今度のデートどこ行きましょうか、先輩の家にしますか?」
○「別にいいけど」
瑛「いいんかああいとツッコミつつも内心跳ね飛びる私」
○「いいけどお前の前でスマブラはやらんからな。キンハーしかやらんから、ソラくんとしか冒険に出ないからな俺は」
瑛「キンハーなら先輩と肩組んで運動会の歌を歌ってもいいですよね!?」
○「別にいいけどそれやったら遠藤くんがしなかったことに俺は遠慮なく手を染めるからな」
瑛「ケアル系の魔法は…」
○「あるわけねーだろそんなもん」
瑛「デスヨネ−」
fin.
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