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(20)合成品デアザフラビンの真実【上位互換とは?】

結論)デアザフラビン(TND1128)がNMNに代わって(もしくは上位になって)ミトコンドリア系の機能を活性化するといった根拠は特許や論文中にはありません。

このnoteもいつの間にか20ページ目になりました。
これまでデアザフラビン(TND1128)のことを調べてきて、あることに気が付きました。

それは、デアザフラビン(TND1128)の説明について「ストーリーがある」ということです。あくまでのネット上ですが販売業者さんからの情報も、専門家からの情報も、まるで定型文があるかのように似たようなストーリーを読み取ることができます。

このストーリーは誰かが意図的にリードしているのか、自然とネット上で形成されたものかは分かりませんが。

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大雑把に書きますと以下のような流れになります。

5-デアザフラビン(F420)は、NAD+、NDAP+に次ぐ、三番目の存在として 自然界での存在が報告されている。
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さまざまな構造活性シュミレーション(カスタマイズ)の結果、最も強い活性のあるデアザフラビン(TND1128)が特定された。
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サーチュイン活性、ミトコンドリア活性はNMNの数倍~数十倍である。
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そのため、5-デアザフラビンはNMNの上位互換である。

あとは、「ワシントン大今井教授」、「菌類から見つかった」、「ビタミンBに構造が類似」、「カロリンスカ研究所」、「ナノ化」、「GMP製造」、「世界最強」、「国際特許」、「夢の抗老化素材」といった単語で味付けされている感じです。

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まず、デアザフラビンの合成ですが、この構造式(基本骨格)にいろいろと手を加えて最適な薬理活性を探すことは創薬の世界では一般的です。薬学の世界では「構造活性相関」と言って、それだけでも一つの学問になっています。

薬物の基本骨格にほんの少しの手を加えて(化学構造を変化させて)、薬理活性を強くしたり、毒性を強くしたり、もしくは軽減させるような例は山ほどあります。

例えば、青カビから見つかった抗生物質のペニシリンはベータラクタムという基本骨格があり、それから長い年月をかけて、構造活性相関の研究によりさまざまなタイプの抗生物質に進化を遂げています。しかし、なかなか世界最強の抗生物質にはたどりつけません。

でも、このことを「カスタマイズ」とは表現しません。

「カスタマイズ」というと良いものと良いものをいろいろと組み合わせて、自分にあった一番良いものを作る。といった印象があります

もしかすると一般の方に分かりやすく説明するための言い回しかも知れません。

しかし、そもそも論文情報では、デアザフラビンの構造活性相関の研究は、PKC活性阻害による抗腫瘍活性をターゲットにしたもので、ミトコンドリア活性、サーチュイン活性のスクリーニングを実施した情報は見当たりません。

さらに、「5-デアザフラビンはNMNの上位互換」というフレーズですが、これも医薬学では聞きなれない言葉です。おそらく、「NMNよりも優れてとって代わるもの」というニュアンスがあるのだと思います

本当にデアザフラビンTND1128はNMNより優秀で、その働きを代わることができるのでしょうか?

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そもそも人間(真核細胞)と細菌(原核細胞)では、代謝系や機能がかなり異なります。

例えば細胞内小器官のリポソーム(mRNAから蛋白を合成する大事な器官です)の分子は真核細胞が80S、原核細胞が70Sと異なるユニットを持っています。

また、細菌類は葉酸を生合成するのに対して、ヒトは葉酸を生合成できません。

またDNA合成の際にヒトはチミジンキナーゼという酵素を利用しますが、細菌にはチミジンキナーゼがありません。

このようにヒトと細菌の細胞内にある代謝系、酵素の違いを利用してたくさんの抗生物質や抗ウイルス剤、抗がん剤が開発されています。

なので、「デアザフラビンは細菌中で補酵素(F420)として働いているから、ヒトの細胞でも同様に働く」とは限りませんし、ましてや科学的根拠をベースとして学術的に

「5-デアザフラビンはNMN(TND1128)の上位互換」と言うことはまだできない

と思います。

※ちなみに1985年頃から京都大学のグループがデアザフラビンと生体内の酸化還元に寄与する構造活性相関の研究を開始していますが、NMNの代わりになるようなスーパーデアザフラビンは見つかっていません。

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結局NMNとの比較においては、

「こうなったらいいなぁ」


という願望のように聞こえます。

そもそもデアザフラビン類(F420)は、メタン産生菌の中で「補酵素」として発見されています。なので、「デアザフラビン(TND1128)も補酵素のような働きがあるのでは?」というのであれば「ミトコンドリアにダイレクトに効いてないよね」とツッコミたくなります。
補酵素は酵素反応の際の「脇役的な存在」なので、もしデアザフラビン(TND1128)がミトコンドリア内でF420のように働いていると仮定しても「ミトコンドリアにダイレクトに効いてる」とは言い難いです。

いずれにしても、デアザフラビン(TND1128)の宣伝の中で「カスタマイズ」、「上位互換」という言い回しを強調しすぎると消費者、患者さんに対して大きな情報のミスリードを与えてしまう可能性がありますので、細心の注意が必要です。

たとえ専門家がこのような言葉を使っていたとしても、それは一般の方に分かりやすく説明しようとしているだけで、販売者がこの言葉を使うと消費者に大きな誤解を与えかねないと思います。

それにしても、どうしてデアザフラビン(TND1128)の宣伝文句にはこのような定型文のようなものが多いのでしょうか。

【追記】
業者さんが宣伝している

「NMNがNAD代謝されてから効果を発揮するのに対して、デアザフラビンTND1128はミトコンドリアエネルギー産生に直接働く」

といった科学的根拠を私は見つけることができません。

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(21)合成品デアザフラビンの真実【試薬としてのTND1128】

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(1) 合成品デアザフラビンの真実


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