(4)合成品デアザフラビンの真実【論文のトリック?】
結論)ミトコンドリア活性がNMNの30倍、40倍、サーチュイン活性が数倍という根拠はみあたりません。
では続けてデアザフラビン(TND1128)の3つ目の論文を見てみましょう。
少し遡って2021年の論文です。Biochem Biophys Res Commun. 2021 Jun 30:560:146-151.
崇城大学のTomohisa Nagamatsu先生他のグループの共同研究となります。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0006291X21007580?via%3Dihub
デアザフラビン(TND1128)が培養マウス海馬神経細胞のミトコンドリアの形態学的成長を促進し、興奮性シナプスの数を増加させた。
といった内容です。実験としては、新生細胞にデアザフラビン(TND1128)もしくは、β-NMNを添加して、細胞の成長と形態を画像解析して統計処理したといった内容です。
いくつかのことを考察したいのですが、まず著者の一人のTomohisa Nagamatsu先生の所属が、崇城大学と共に、ケミテラス社とあります。なので、Tomohisa Nagamatsu先生はケミテラス社の研究員のようなポジションをお持ちです。それ自体は論文を執筆する上では問題はありません。
また、研究費は前に紹介した2つの論文と異なり、ケミテラス社の資金提供はありません。
また、この実験に使用したデアザフラビン(TND1128)ですが、
TND1128 was prepared as previously described [12].
とありまして、参考論文12を見てみますとTomohisa Nagamatsu先生の論文によってデアザフラビンの合成法が示されております。
よって、この実験で使用したデアザフラビン(TND1128)は、Tomohisa Nagamatsu先生が合成したと考えられます。
ここでも、β-NMNとの比較がされていますがそもそもβ-NMNもTND1128もモル濃度(1.0µM)などで調整されています。
研究としては問題ないのですが、サプリメント形態として考えると(サプリメントはあくまでもmg換算で配合していますので)分子量の異なる両物質の効果の比較が困難になるように思われます。
(グラフ上では、TND1128がβ-NMNよりも細胞の成長促進活性が強いことになっております)
この研究はミトコンドリア活性、サーチュイン活性を調べたものではなく「神経細胞にβ-NMNもしくはTND1128を添加したところ、細胞の成長を促した」という実験です。
ある販売動画では「デアザフラビンは認知症研究から開発された」とさかんにPRしていますが、この論文からだけですとそこまでのことを言うのは非常に困難です。
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ですが、この論文のタイトル、イントロダクション、ディスカッションが
「非常にトリッキーに書かれている」ように感じます。査読の通った論文なのでケチはつけたくないのですが。
具体的に指摘すると論文のタイトルが
The novel mitochondria activator, 10-ethyl-3-methylpyrimido[4,5-b] quinoline-2,4(3H,10H)-dione (TND1128), promotes the development of hippocampal neuronal morphology
となっており、新規なミトコンドリア活性化剤であるTND1128の、、、、となっています。
ではTND1128がどうして新規なミトコンドリア活性化剤なのかという点については、イントロダクションに
and are therefore expected to effectively ameliorate mito chondrial dysfunction [6].
(従って、ミトコンドリアの機能障害を改善させることが期待される[6])
とありますが、その[6]で引用している文献が、
[6]T. Nagamatsu, N. Akaike, Use of Coenzyme Factor for Activation of ATP Pro duction in Cell, 2019. PCT/JP2019003860 (WO2019/151516 A1; US2020/0246340 A1)
と論文ではなく、特許明細となっています。
つまり、「TND1128は新規なミトコンドリア活性剤であるが、その根拠はこの特許に示されていますよ。」となっています。
これには正直驚きました。査読者が見落としたと信じたいのですが、通常は論文で引用する参考文献はやはり査読付きの論文に限られるべきです。
後の項目で記述しますが、特許のデータがサイエンスとして科学的根拠(エビデンス)として扱うことができるかと言えば非常に弱いです。
またこの論文の考察においては、
「このTND1128の効果はサーチュイン遺伝子の誘導によるものだろう」
とかなり強調しておりますが、それを直接的に示す研究データは紙面上には存在しません。
なので、この論文をざっと読むと、デアザフラビンTND1128は強いミトコンドリア活性、サーチュイン活性を持つような印象がありますが、
それを示す実験データは一切紙面上には出てきません。
この論文を読んだ感想は、「どうしてそこまでしてデアザフラビンTND1128がサーチュイン活性、ミトコンドリア活性を有し、かつNMNより強いということを強調したいのだろう?」というものでした。
あとは脳神経細胞を成長させるといった研究はどこにでも見られるようなものですが、業者さんたちが「アルツハイマー、認知症に効くのでは?」と一生懸命宣伝に使っているのはどうかなと思います。
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以上、デアザフラビンTND1128に関する3つの論文を読んで分かった事実として
・デアザフラビンTND1228の基礎実験は細胞試験、マウス試験で実施されたが、マウスの試験は腹腔内投与、皮内投与である。
↓
最低でも経口投与実験でないと、ヒトにサプリメントとして応用した際の生体反応について考察は非常に難しいと思います。
・β-NMNとの比較試験は、神経細胞の成長、マウスの脳切片におけるミトコンドリアのカルシウムイオンの濃度を調節する点でにおいてデアザフラビンTND1128がβ-NMNよりも優れていると言うことはできそうである。
↓
しかし、この研究論文だけでは、健康食品分野において「NMNよりも数十倍ミトコンドリア活性がある」と言って販売業者さんが宣伝するのは相当無理がある(盛っている)と思わざるを得ません。
2021年の論文のディスカッション(考察)の項でデアザフラビンTND1128、ミトコンドリア、サーチュイン活性とのキーワードが多用されて書かれていますが、論文検索ベースでTND1128がサーチュイン活性を上げるとの根拠を見つけることが出来ませんでした。
・研究に使用されたデアザフラビンTND1128はTomohisa Nagamatsu先生が合成したものか、ケミテラス社がどこかに依頼して合成したものである。
・ケミテラス社は2つの論文の研究資金提供者であり、Tomohisa Nagamatsu先生はケミテラス所属としての立場で研究に参加したことがある。
本稿のタイトルを「論文のトリック?」としましたが、
「神経細胞増殖のデータを捏造している?」と疑っている訳ではありません。
のでお間違えのないように。
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以上、科学的根拠の拠り所であるPubMedの論文検索からは
健康食品としてデアザフラビンTND1128についてネット上で見かける宣伝文句である
「NMNよりもサーチュイン遺伝子を活性化させる力が数倍以上。さらにミトコンドリアを活性化させる力は数十倍以上であることが実験データから明らかになっています。」
という論拠を見つけることができませんでした。
【追記】
「デアザフラビンが細胞の過酸化水素ストレスを保護する」作用についての2024年の論文を見つけました。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2024.05.07.592882v1
PubMed検索に出てこなかったので、インパクトファクターはないのかも知れませんが、実験結果自体は分かりやすくまとめられています。
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(5) 合成品デアザフラビンの真実【カロリンスカ研究所】
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(1) 合成品デアザフラビンの真実