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hamahouse
【ライフハック】ヘビの編み目をくぐりぬけてカレーパンが落下してきたとき、あなたがするべきたったひとつのこと
幸いなるかな
町中を等間隔にならぶ無人塔と
無人塔とのあいだを
格子状にいれちがうヘビで編まれた、
迷える衆生を救わずにはいない包囲網をまぬがれて
幸いなるかな
銀河の果てから飛来した
カレーパン
それはひゅーんとあっけなく
わたしのもとへ
ちょうど、腹減ったなあと声にだしていたわたしの
その口元へスポン、と
わたしはしめしめと思いながらも
(ここで油断してはならない)
あたまのハットをふかくかぶりなおし
左右交互に点滅するヘビどもの目から隠れつつ
いそいでカレーパンをやっつけた
宇宙空間をはてしなく飛来してきたカレーパン
表面はすっかり冷えて、すこしオゾンのにおいがしたけど
なかはまだホカホカで、とろっとしたルーは
熱いといってもいいくらいのものである
幸いなるかな
世界とおなじサイズにひろがったヘビの不空羂索は
ごくまれにこうした「おとしもの」をとりのがす
ふふふ
わたしは空想した
まっくらな宇宙のなか、青く輝くちいさな星にむかって、
ちいさなちいさなカレーパンが音もなく、いくつもいくつも降りそそいでいく様子を
そしてそれにありつけた世界中の、わたしと同じくらい幸運なひとびとを
あるいはうれしい落とし物をみつけた犬を、虫を、粘菌を
かれらの満腹を
満たされた腹をなでて
わたしはハットのつばをちょっとあげて
ヘビをぬすみ見た
ヘビはいつもと変わらず一所懸命、夜闇のなかではひときわ目立つ
交互にぴかぴかする両目で
世界をみわたしていた
わたしは家路をゆっくりと歩いた