
菓子男異邦箱由来 4
「
冒険とは家にしばられたものの言葉ですわな
家を持たんものに冒険なんてあらしまへん
そうでっしゃろ?
どうせこの世に仮住まい
広いひろいウィルダネスに
あわれな、か細い棒杭でもって
あっちを仕切り、こっちを仕切り
それを家だのふるさとだのと
大空の下で
なんともさもしいと思いまへんか
わたいらはこう考えております
あわれな被造物であるわたいらが
この地表面をうろうろとしておる
たとえばそのわたいらの軌跡を
空高う飛ぶ大鷲の視点で上からとらえ
細い線でなぞっていくとして
線がごしゃごしゃと重なりあうところがあるはずです
その線のかたまりのことを
わたいらは家と呼ぶわけですな
そうです、そうです
いわゆるおうちが家というわけやおまへん
それはご本人がそう思いたい、というだけのマインドで
ほんとうの家というもんは線の重なりあうところですわ
そうでっしゃろ
大事なところというのは与えられたライフタイムのなかで一番長いことおるところなわけですからな
せやから
たいがいの人にとっての家というのは
じつは
いや
これ以上いうのは野暮というもんですな
せんないことです
(
それはそうと、わたいらの家についての考え方をつきつめていきますとな
いきおい、わたいらのこの五体の影こそがわが家ということにもなるではないかと
ォケィショネリーそう思います
)
ともかくわたいらにとって旅とは家で
そのときも大した驚きはおまへんでした
いつもどおり
必死にくらいついて
とにかく生き延びるのやと
そしてチルドレンを育てあげるのやと
そうそう
わたいらはチルドレンを抱えておりました
こんなんいうとかっこつけとると
軽蔑されるやわかりまへんけど
わたいらそないあれほしいこれほしいいうことは
ありまへんねや
ジェラスを抱くこともおまへん
そのなかでほしいもんいうたら
まあ
チルドレンのすこやかな未来ぐらいなもんで
ええかっこいうてるみたいでんなあ
恥ずかし
恥ずかし
まあ、そんなこんなで
新天地にたどりついて
そこで新し生活のはじまりですわな
とはいえ
これもいつものこと
黙々と仕事をして
黙々と食べて、寝て
そして笑う
そんな風にして
チルドレンを育てて
チルドレンがチルドレンを産んで
産めや殖やせや
わたいらはいつも
こないして生命を謳歌させてもろてます
これからどないなるか?
わかりまへん
大いなる御方がお望みの通りに
」
と、アリさんは言った。