指先から伝わるもの(BL)
時々触れる指先にドキッとするのは、きっと僕が君に恋をしているから――。
隣に座って何となくお互いに片手を自分の体の後ろにつきながら話をしていると、夢中になって距離が縮まっていることに気づかずに、ふと触れてしまった瞬間にささっと避けてしまう。
嫌がっている訳じゃないけれど、あからさますぎて嫌がっていると勘違いされていたらどうしようと不安に思いながらも何も聞けない。
自分だけが意識して、相手が特に何も思っていなければ、結局墓穴を掘ることになってしまうからだ。
「なおや、昨日のお笑い観た?」
「観た、観た」
「あれってさ……」
昼休憩にいつも集合するベンチに座っていると、昨日放送されていたお笑い番組の話題をしながら隣に腰を下ろしてぐっと近づいてくる。
その瞬間にさっと後ろについていた手を自分の膝の上に移動させていた。
「あれって……、なに?」
「あっ、いや……別に。おっ、今日も卵焼き旨そうじゃん。もらっていい?」
「もちろん」
お弁当に必ず入っている二切れの卵焼き。今日のはだし巻き玉子だった。取りやすいように置いていたお弁当箱を差し出すと「サンキュ」と言って、一切れ取ってすぐに口の中へ放り込むとぐもぐと食べている。
「やっぱ、なおやの母ちゃんの卵焼きは最高だな。よし、じゃあ俺からは……はい。焼きそばパン、半分こ」
「えっ、ゆうじが食べるのなくなる」
「いいから、いいから」
「ありがと」
持っていた焼きそばパンを半分にし、片方を差し出してくるから、それを素直に受け取る。
ゆうじは自分の手元にある焼きそばパンにパクッとかぶりつくと、もぐもぐと頬を膨らませて食べている。
僕も真似するようにお弁当箱を再びベンチへ置くと、焼きそばパンを頬張った。
「焼きそばパン、美味しいね」
「売店で一番だと俺は思ってる。なかなか売り切れてて買えないんだから、味わって食べるように」
「はーい」
共働きのゆうじは、お弁当の日もあれば、こうして購買でパンを買って食べていることもある。貴重な焼きそばパンがせっかく手に入ったというのに半分こなんて――大切に食べなきゃとしっかり味わう。
二人で顔を見合わせながら、美味しいねと言わずとも頷くだけで言葉が通じ合ってしまう。
「帰りは?」
「今日は、やりたいゲームがある」
「じゃあ、なおやん家寄っていい?」
「あっ、うん。いいよ」
「よし、決まり。楽しみ」
昨日のゲームの続きをしたくて正直に答えると、そのままの流れでゆうじが家に来ることになった。
今日は母さんが友達と出掛けていることもあり、家には二人きりだ。
別に何かあるわけじゃないのに変に意識してしまい、つい咳払いをしてしまう。
心臓がドキドキしていることに気づかれたりしたら絶対に駄目だとわかっているから、必死に平然を装っていた。
「適当に座ってて」
「わかった」
昼の約束通りに僕の家までやってくると、自分の部屋へ通し声をかけて鞄を置き、飲み物を用意するためにキッチンへと向かった。
トレイにガラスのコップを二つ乗せ、冷蔵庫から2Lのペットボトルのカルピスを取り出すと、コップに注ぐ。いつもお菓子の置いてある棚からチョコパイを四つくすねて部屋へと運んだ。
「どうぞ」
「サンキュ」
いつもと同じようにベッドを背にしてTVと対面になるように座っている目の前のテーブルにゆっくりとトレイを乗せると、ゲームの準備をして僕もゆうじの隣に拳一個分の距離を空けて座った。
二人でコントローラーを持ち、ゲームを始める。
しばらく二人で楽しくゲームをしていたのに、飽きてしまったのかゆうじは部屋にあるマンガの本を読み始めていた。
「なあ、なおや」
「ん?」
「ずっと聞きたかったことがあるんだけど……」「なに?」
ちょうどキリのいいところまで終わり、セーブしたところでゆうじが話しかけてきたから、僕はコントローラーを置いて手をカーペットの上にちょこんと乗せた。
すると、指先に触れるものを感じて無意識にさっと引っ込めようとしてしまう。
「ほらっ、それ」
「な、なに?」
「なんでそんなあからさまに嫌がるの?」
「嫌だなんて……ちがっ……」
違うと言おうと顔を上げた先に見つけた悲しそうなゆうじの表情に、言葉が詰まってしまった。
「俺だって、理由もわからず避けられたら、傷つく……」
「ゆうじ?」
「わかんない? この指先から……俺の気持ち」
そう言って、引っ込めたはずの手をそっと握りしめられる。
その指先が微かに震えているのが伝わってきた。
「震えてる……」
「それだけ?」
今度は、反対の手が頬に触れる。
その指先もまた震えていた。
「好き……って伝わってる?」
「うん……だって僕も……」
僕も同じようにゆうじの頬に触れる。
きっと伝わっているはずだ。僕の好きも君に。
Fin.