Vtuberの「歌ってみた」の再生回数を決めるのは歌唱力じゃない
と思う。個人的には。
Vtuberの歌ってみたについて、なんとなく思ったことを書く。
※個人の意見です
1. Vtuberの”キャラクター”
まず、歌ってみたの話に入る前にVtuberの印象についての話をしておきたい。
私が思うに、Vtuberには、①ガワだけの「作られた」キャラクターと、②中身の人間の素のパーソナリティと混じり合って「活動とともに作り上げられていった」キャラクターの2種類がある。
声優とアニメキャラにはそれがない。
①だけ。声優個人のパーソナリティがキャラクターに影響することはないし、ファンも①と②を混同することはない。
だからこそ、アニメのキャラソンを聞いていても何も違和感はないけれど、Vtuberがキャラ設定のほうに寄せた曲を歌っているとなんだか不思議な感じがする。それは、併せ持つ②の性質と矛盾しうるからだ。
2. 2つのキャラクターの受け入れられ方
さらにいえば、Vtuberは②が優先されがちなのだと思う。
リスナーとコメントでコミュニケーションを取ったり、実況や雑談で感情を持って言葉を発したりしているのは②なのだから、確かにリスナーから見て親近感を覚えるのはどちらだと聞かれれば圧倒的に②になるだろう。
①はあくまで設定上の性格であり、形骸化しているVtuberも少なくない。
だから、①に寄っているとなんか違うな?と思い、②に寄った歌ってみたを聞くと魅力を感じるのだ。
月ノ美兎でいえば、①②の性質を表すと私の中では以下のようになる。
①設定で作られたキャラクター及び、そこから連想される楽曲のイメージ 清楚・真面目・ツンデレ・学級委員長・女子高校生・かわいい・元気・青春・ピュア・明るい・今時の流行りの曲・コーレスのある曲・パステルカラー
②活動を重ねるごとに出来上がった性格及び連想される楽曲のイメージ
シニカル・メタ・サブカル・マイナー調・少し昔の曲・無感情・不思議・独特・知名度が超高いわけではない曲・シュール・ちょっとくすんだ色・アナログ
委員長はその違いを理解しているのか、ソロの歌ってみたでは②に寄った選曲が多い気がしている。
(「人マニア」「around the world」「1000年生きてる」など。②の全てを満たさずとも、なんとなく曲の持つシニカルなイメージが類似している。)
そして、その曲の再生回数がしっかり多いのもさすがというべきか。
委員長の1番の強みと言われたら歌よりもトークになるんだろうけど、曲によって歌唱力で売っている他の人よりも再生回数が多くなるのは、その曲に「委員長っぽさブースト」がかかっているからじゃないだろうか。
多分、「その人っぽさ」は、時に歌唱力よりも効力を発揮するのだ(委員長が歌が下手だと言いたいわけでなく!)。
コラボの歌ってみたがそれらの①的な曲と比べて伸びづらいのは、複数人の②のベン図の共通項にあたる歌を見つけ出すのが至難の技だからなのかもしれない。
誰かに寄せると、誰かから外れる。かといって無難な曲にすると、全員から平等に遠ざかる。
そういう意味では、VACHSSの「DOGLAND」やVOLTACTIONの「怪獣の花唄」はうまく共通点をついた選曲ができているからあそこまで伸びているのではないだろうか。
3. 「いい選曲」の具体例とは
安直に「女子高生だから女子高生っぽい歌を歌う!」「流行ってるボカロを歌う!」ではなく、中身の自分と混ざり合った、いわば概念としての自分を俯瞰的に見る視点と、それに沿った曲を見つけてこられる知識量が彼女の強みだと思う。
瞬間的なバズを狙いに行くのではなく、自分の個性で勝負する自己プロデュース能力にじさんじ屈指の知名度を誇る月ノ美兎の真髄だろう。
そして、同時に私がタイトルにおいた「歌ってみたの評価に強く影響する、歌唱力以外の部分」の正体でもある。
最近出たぺこらちゃんとのコラボ「Easter Bunny」も、「ちょっと昔の、世間一般ではメジャーではないけれど界隈では有名な曲」という点でかなり委員長の選曲センスを感じる。
他に概念としてのキャラクター性とぴったりの選曲だなと思うのは、他にはこちら。
・剣持刀也「ANTI-HERO」「セカイ再信仰特区」
①の設定上のキャラ設定も、②の実際の性格も委員長と似てるかも。
でも、委員長の②がアナログっぽいのに対し剣持さんはデジタルって感じがする。委員長が経験の長さゆえの達観だとすれば、剣持さんは若さと知能ゆえの達観的な。
あと、メタ視点のあり方にも印象の違いがある。委員長は肯定も否定もせずにありのまま見てるけど、剣持さんはちょっと批判的なイメージ。
RADWINPSの強めの曲とか似合うんじゃないだろうか。「洗脳」とか。RADWINPは宇宙規模の達観した歌詞が多いから合いそう。あとは9mm Parabellum Bullet「Black Market Blues」。イメージと合ってるかは微妙だけど、声が似てる気がする。
・壱百満天原サロメ「きゅうくらりん」
①は元気!高笑い!お嬢様!って感じだけど、②は繊細で傷ついた過去を持つ1人の女の子、みたいな感じ。
例えばだけど学校皆勤賞!飲み会大好き!休日は友達とパーティ!みたいな子がきゅうくらりんを歌っても、サロメ嬢ほどのしっくり感はないんじゃないだろうか。
・宝鐘マリン「オトナブルー」「め組のひと」
オリジナル曲はガンガン①の元気な海賊っ子イメージ寄せで、カバーで②の昭和歌謡曲イメージ寄せをしているのがうまいと思う。次元性別問わず昭和歌謡が異様に似合う人ってたまにいるけど、どんな要素があるとそう思うんだろう、、?
歌謡曲は詳しくないからあれだけど、サカナクションの「ミュージック」とか歌ってほしいな。
番外編
ここからは、「そもそも設定上の性格が定められていない」「設定上の性格と実際の性格にあまり差がない」等、①②が同一で、さらにそれに合った選曲になっている曲を書いていきたい。
「私が設定上の性格・実際の性格を存じ上げない」も含む。ごめんなさい。
・渡会雲雀「嘘」
彼の性格をあまり存じ上げずなのだが、公式サイトの説明を見る限り性格に関する、もしくは性格を想像できそうな記述がなかった。これに関してはキャラクター云々ではなく声質にあった曲選ということで。
ボカロとかのネットミュージックでなく、ロックがバリバリに似合う声をしているのでそっち寄せの歌ってみたが伸びそう。
また、歌枠を聞く限りでは本人の好みもロック系なのかなとも思う。
歌ってほしいのはNICO Touches the Walls「手をたたけ」、flumpool「残像」、ELLEGARDEN「虹」「風の日」「ジターバグ」「高架線」、Green day「Holiday」、the pillows「funny bunny」。アジカンの「リライト」も良さそう。
というか、邦ロック全般どれを歌ってもいいのではないかと思うくらい”邦ロックの声”をしている。うまく形容できないけれど。
・星導ショウ「人間みたいね」
渡会さん同様に、自分の声質の理解がすごいと思う。
この人に関しては、①②がかなり近いところにある気がしている。
落ち着いた声のトーンが、超長寿の達観したイメージをうまく絡み合っていてあまりギャップがない。
おしゃれでちょっとアンダーグラウンドな曲が似合いそう。スピッツとポルノは絶対ぴったり。あとは米津玄師とか藤井風とか。(←歌ってくれました)
個人的に聞きたいのはスピッツ「小さな生き物」。
と、歌ってみた文化について思ったことを書き連ねてみた。
でも、伸びることが全てではないし、再生回数が多いからいい、あまり多くないから悪いでは絶対にない。
出した本人が、聴いた人が素敵だと思うのならその時点ですでに最高だ。
ここではあくまで「事実としての再生回数」に着目して、その共通点を考えてみただけで、何かを批判する意思はまったくない。
全ての歌ってみたがこの基準に沿って選曲されるべきだとも思わないし、むしろそうであってはつまらないと思う。
なので私からVtuberたちに言いたいことは一つ。
いつも素敵な歌ってみたをありがとう。
これからも楽しみにしています。