【海外登山ネパール】Naar Phu渓谷とアンナプルナ山域テント泊21日間の旅⑤
Kangla Phedi(4530m) - NNMGA Trainig Camp Site(5200m)
テントを片付け、荷造りをし、NNMGA (Nepal National Mountain Guide Association ネパール山岳協会)のトレーニング地として指定されているキャンプ地へと出発。
出発してからすぐに緩やかな登りが始まり、それはだんだん険しくなり、やがて果てしなく続く登りへ。
「あぁ…ほんまにキツイ…」
何度も一人、呟きながらゆっくり歩を進めます。
もうこの時点で前を歩いていたピーターの姿はとっくに私の視界から消え去っていました。
ポーターのテンディとチェワンが、休憩している岩の上から手を振ってくれています。
彼らまで追いつくと、日本語の勉強をしているチェワンが「せんせい、すこし休んでください」と言ってくれます。
彼が私のことを「せんせい」という度に、私は「せんせい、ちがうよ。私はあなたの と・も・だ・ち」と言うと、照れたようにはにかみながら、うつむき加減でにっこり。
私の長男と同い年のチェワンの仕草がなんとも純粋で、母親の心境で2人を比べてしまうのでした。
疲れ果ててキャンプ地に到着
ここまで荷を運んでくれたロバたちは食べる草がないため、Naarまで下り、再び2日後の荷運びのためにここまで上がって来てくれるとのこと。
道のりを考えただけでもロバに対する尊敬と感謝の気持ちが湧いてくると同時に「ロバでなくてよかった...」と不謹慎なことを考えながら7頭のロバを見送りました。
ピーター、パサン、私の3人は少しの休憩後、湖対岸の山へ高所順応へ。
身体は疲れきってはいたものの、周囲の山の美しさに圧倒され、早く高い所から山の景色を見てみたいという気持ちのほうが強く、2人に少し遅れて出発しました。
山の頂上は風が強く、曇り空。
しばらくすると、強い風で雲がちぎれ、その隙間からアンナプルナ2峰が見えます。そして360度見渡す限りの山々。
私たちはしばらく話すことも忘れて、圧倒されるほどの美しさで聳える山々を見つめていました。
ピーターは明るい色がお好き
高所順応に出発したのが午後3時すぎ。
テントに帰ってくると、日もすっかり暮れ、気温もマイナスとなり身体の芯まで冷えるのを感じました。
ダウンジャケットは2枚持参しており、だいたい標高5000mぐらいから着用する圧縮袋に入れておいた分厚い〈黒のダウンジャケット〉をダッフルバッグから取り出しました。
そして下半身はモンベルの〈黒のダウンパンツ〉。
頭には紺色の〈黒に近い〉毛糸の帽子を着用。
「むちゃくちゃ冷えるなぁ!」と黒い手袋をはいた手をこすりながらダイニングテントに入って行くと、村田沙耶香のコンビニ人間の英訳版を読んでいたピーターが本から顔を上げたと同時に「スージー!ちょっと!頭のてっぺんから足の先まで黒やないの!」
「どうしてそんな黒ばっかり…暗いやん!」と立て続けに心底、いやよっぽど暗い色に嫌悪感を抱いているような、少しばかりぷんぷんした口調で私の全身黒っぽい姿を苦い表情で見ています。
今日もピーターは真っ赤なジャケット、オレンジ色のズボン、オレンジ色の毛糸の帽子。
私はピーターを笑わそうと「今からお通夜があってな」とうまくもない冗談を言いながら自分で笑っていると、彼は「ふぅん」と冷たく一言。
彼はそのまま視線をコンビニ人間に戻しました。
深夜、あまりの寒さと頭痛で目が覚めました。
風邪を引き込んでからは、毎夜軽い頭痛があり、高山病の症状も出ていると考えられたので頭痛の本当の原因が結局どちらなのかわからないままでした。
あまりにも痛さが増してきたので、いつもは飲まないイブプロフェンを飲み、我慢していたトイレに行こうとテントを出るとそこには満点の星空と綺麗な月が。
その瞬間―こんなに美しい場所に来ることができて「生きててよかった」
という気持ちが自然と湧き上がってきました。