あれから二年 #11
2020年11月末。
なにげなく。本当になにげなく会社から差し入れされて持ち帰ってきた缶ジュースをカバンからだして横向きにして置いたら、コロコロと転がっていった。
・・・え?
は?
もう一度缶ジュースを取って、さっきの場所に置いた。
勢いが良かった。
別の部屋で同じようにやってみたら、その部屋でも勢いよく缶ジュースが転がっていった。
いつから?
そういえば夫が 「寝ていると、足より頭あのほうが低いように思うんだよね」 と言って、枕を高くして寝ていたことを思い出した。
12月4日 大工さんが来て、レーザーで傾きを測る。
二階寝室 1.6センチ
書斎 1.4センチ それぞれ同じ向きに下に下がって傾いていることが発覚。
真下の一階リビング 1センチ上に上がって傾いていることが発覚。
極端に書くと、「く」の字の状態。
大工さんは
「非常に珍しいケースです。1.6センチ下がっているのは、体になんらかの支障をきたしてもおかしくない」
と。
四方八方から暴風の直撃を受けたことで、家全体が一気に傾いたのでしょうか?と私が聞いたら
「台風の影響もありそうだけど、経年劣化も考えられます。」
と言ったあと、「これは大掛かりな工事になると思ったほうが良いです。」
とも付け足された。
柱がもしも腐食していたら、その大掛かりな工事と合わせて火災保険のお金で賄えますか?
と私が聞いたら「いや、間に合わないだろう」と。
大工さんが帰ったあと、ボーっとしながらいろんなことを考えて、ネットで検索した。
家の書類も見返して、瑕疵保証( かしほしょう→ 購入した物件に不具合が見つかった場合、売主が修繕費を支払ってくれるという保証。 ) がないか調べてみた。
後日、仲介してくれた不動産屋にあたって、なにか救済策はないか相談してみた。
家を購入して3年を迎えようとしていて、保証はないと言われてしまい、途方にくれた。
ひとまず大工さんに連絡し、話をする。
傾いてるところに1センチのくさびを下からあてて、高さを調整する。
それだと安く済ませられる。
工事日程は、2021年2月1日か2日から。
終了は、中を開けてみないとわからない。
なるべく火災保険の金額内で済ませられるようにします、と言われ、少しだけホッと安心した。
二月の工事の日を迎えるまで、夫とはたくさん段取りを話した。
一階の荷物や家具を、外の倉庫や義父の部屋に運ぶ。
夫と私は二階で生活。
義父は必然的にショートステイへ行ってもらうことに。
しかしここで問題が発生。
工事の終了日がわからないので、どのくらいの日数でショートステイの日を設定したらいいかわからない。
はやめに予約しておかないと、予約がいっぱいになってしまったら大変。
つねにそのことで私の頭のなかはいっぱいになっていた。
ある日、大工さんとの打ち合わせのときに思い切って話してみた。
「・・・あの、終わりの日がだいたいわかっていると助かります。父にショートステイの施設に行ってもらうのに、日にちがわからないと予約できなくて」
大工さん「うーん。こればっかりはなんともいえないんですよね。天気のこともあるし。とりあえず一週間、いや9日間で考えてもらって、もしも長引きそうならその時考えましょう。」
フレキシブルに対応してくれる大工さんで本当によかった。ありがたい、と心から思った瞬間だった。
工事は2021年2月2日に着工した。
大工さんが入る前に家具を移して、リビングを掃除し水拭き。
今まで私たち家族を守ってくれてありがとうございました。
と、天井に向かって丁寧にお礼を言った。
大工さんは2人。
午前中いっぱいで天井が剥がされ、中からかびた断熱材がむき出しになった。
すごいな。家の作りって、こんなふうになってるんだ。
実家を新築した時は、柱から作られていく様子を外から見てすごいなあ と思ったけれど、すでに建っているものを一部壊して中から観察するというのはなにか違った感覚ですごいな~って思うのと、改めて思うのは、日本のモノづくりって本当に目を見張るものがあって素晴らしいな、と思った。
2日午後3時のお茶の時。
不安げに 「あの・・・柱はかびていませんでしたか?」
と聞いてみた。
「今のところ大丈夫そうだよ」と言われ、ホッとする。
あああああ・・・良かった。
あとは義父のショートステイ中に工事が終わってくれることを祈るのみ。