2018.12.26 作曲メモ・後日談
【作曲する時に考えたこと】
★プロローグ「復活」
・冒頭の低音は「階段を上る」様子。これは、革命や何か運命が近付く足音として使おう。
・ローリーのアリア「なぜ、閉じ込めなければならないのだ」
・ドアを開けるシーン:暗闇と、合図のドアを叩く音(特徴的なリズム×2回)、暗闇に光が細く差し込む様子を音楽で。
→小説や台本からは、ドアを叩く音などは「合図」としか書かれていないので、リアルに表現する必要がある。
・Dr.マネットの境遇:疑問、不安、自分の妻を思う気持ち性をだけで自分を保とうとしているなど。
→倚音を使う和音を多用しよう。悩ましい感じ。不安がうごめいている感じ。
そこにたまに差し色的に妻を思う気持ち(希望など明るいイメージ)。
・名前:「名前」はこのオペラのテーマでもある。
→「北塔105番」という名前を音楽に乗せるのは難しい。物語を知っている人は変換できるから大丈夫。
・ローリーの気持ち:ジレンマ。「救済」のテーマ=ルーシー(=光)が見える。ルーシーを連れてきたのはローリー。
・名前を尋ねるリレー。
・ルーシーの気持ち:ジレンマ。「救済」のテーマ=ルーシー(=光)が見える。
・時計の音:「時」のテーマ。ロンドンといえば時計台。ビック・ベンが建設されたのは1856年。フランス革命後。
→時計は「時」を刻む。「時」は人の人生を左右することもある(例:時間になったら刑を執行、時間差で運命が分かれるなど)
だから「時」は運命でもある。「時」はこの物語のテーマ。
→この「二都物語」は、フランス革命時代(=過去)と現代を結ぶ作品と考える。
生活は豊かになっても手段は違っても人は同じことを繰り返している。ただの「昔話」ではなく現代とリンクさせたい。
∴その当時にビッグ・ベンはなかったが、教会は時を知らせていただろうし、
時を告げる時計の鐘の音を「運命」の音にしよう。
・プロローグ(物語のはじまり)と、第1幕@イギリスの間に、移動時間を作るため、前奏曲をプロローグの後ろに置く。
★前奏曲
・この曲の副題を「Le Rondeau de la lumière - The Rondeau of light」は「光のロンドー」とする。
・この曲の冒頭の部分は、オペラ全体としては最初に書いたが、最後から2番目に完成した。
・「二都物語」といえば、「編み物」。テレーズが作る暗号が記されている編み物。重要なメッセージ。
編み物は1本の糸を絡めながら長い物を作っていく。長い物、織りなす模様、歴史、思い、描かれる運命、そこには生と死…。
・「ʅʃʅʃʅʃʅʃ」こういう糸が上下に並んで編み物ができる。(簡単な棒編みのマフラーとか。)
→そのまま音型として使用([E]-E-E, [D]-E-D, [C]-E-C, [D]-E-D, [E]-E-E, [F]-E-F, [E])
→[E]-[D]-[C]-[D]-[E]-[F]-[E]も音型。
→小学4年か5年の時、編み物クラブ(!)で経験したことが役立った。かぎ針編みが多かったけど、棒編みも一応やった。
いろいろ作ったなぁ。棒編みなんてやっている間ずっと不思議だった。
「どうして1本の糸からこんな風に面を作れるんだろう?」
「どうしてちょっと編む順番を変えるだけで模様ができたりするんだろう?」って。
(まさか、こんなところで生きてくるなんて。何事も経験!)
・以下に書き終わった際に関係者に送ったメールを転記。
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・副題の「Le Rondeau de la lumière - The Rondeau of light」は「光のロンドー」という意味です。
・フランスからイギリスへ行く→フランス語から英語へ
・光はルーシー(Luce)のこと。
光があるということは闇があるということ。
時代の闇と光のこと。
こっちの世界(現実:イギリスもフランスも同じ)とあっちの世界(天国)のこと。
・ロンドーは「まわる」「循環」のこと。
曲の形式がロンド形式なこと(A-(B+d)-A-(C+d)-A)。
・フランス革命の人間社会を、実は現代社会でも繰り返していること。
・最初のゆっくりとしたAの部分(=お針子のアリアと同一)は、
テレーズの編む「編み物」の音型。
そして、物語の全ての話は、編み物のように1本の糸が
同じ糸なのに、縦や横になって繋がっている。
(例:カートンとダーネイは同じ顔なのに、運命は違っている。)
なので、お針子のテーマという訳ではありません。
カートン(Act1-S2)「あなたは俺の全て」「今が最高の時」も同じです。編み物=運命?宿命?…ちょっとまだ言葉になりません。
・前奏曲のBやCの部分はその編み物が形を変えて舞曲のように踊り出すイメージ。(ねねさま、3度奏ありがとうございます!)
・オペラで使われているカートン(Act1-S2)「俺はただ知って欲しかった」のメロディや、ルーシー(Act1-S2)「もっと身体を大事に」とか、マネット父(Act1-S2)「おくろう」とかが、断片的に出てきますが、直接誰かをイメージしている訳ではありません。
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今まで書いてきたオペラと違って、この作品に関しては、
書いている間中、ずっと何だか現代のフランスやイギリスの風景が
すごく見えるんです。
エッフェル搭やコンコルド広場(=断頭台があった場所)で、
観光客が写真を撮ったり、ロンドンの赤いバスが見えたり…。
そういう現代の(表面上の)平和は、二都物語のような昔の上に
成り立っているような気がして、平和ってなんだろう?と
思ったんです。
なので、あまりオペラの説明的な前奏曲ではなく、
「現代の私が二都物語の世界に入っていく」ようなイメージです。
何か…「古い物語を楽しむ作品」なのではなく、
「今の自分とリンクして忘れられない作品」ということが
言いたかったのかもしれません。
∴なので、あまりここは誰のテーマが出てきますとかではなく、
モダンな感じを出したくて作りました。
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★第1幕・第1場「裁判」
・「裁判」もこの物語のキーワード。
・イギリスでの裁判、第2幕のフランスでの裁判との対比が必要。
イギリスの作家ディケンズが見た、フランス革命。
対比を見せるために、あえてイギリスは秩序が保たれて、フランスが狂気なように見えるようにしよう。
でも実は、この時代イギリスも野蛮な死刑を行なっている。(四つ裂きの刑など。)
天の国から見たらフランスもイギリスも同じこと。
・全体的に暗い曲調になりがちな物語なので、ここはまだ明るい調をあえて使っていく。
・冒頭の時計の音は、外の時計の音と裁判が閉廷した音をリンクさせる。
・人がざわざわしている感じ。好奇心旺盛な民衆のざわざわ。(無意識に誰かが不幸になるのを楽しみに来ている。)
・ダーネイに「それより、判決はどうなると思う?」:カートンのいたずら心。カートンは優秀なので、無罪を確信しているのに、そのように意地悪をする。
・ルーシーとの出会い。「ルーシー」のテーマ。6度で下行する音形。
本来は、証言台に立って倒れそうなルーシーにカートンが気づくシーンがある。そのシーンがあったとしてルーシーがカートンを意識して話しかけた最初の感じを大事に。
・ローリーが「家」の話題を出す:Dr.マネットが得た「家」。ルーシーが得た「家」。あったかいシチューを思い浮かべて書く。
・ルーシーがいなくなると、雰囲気が変わる。
・アリア「酒の歌」。G.VerdiのBrindisiをイメージ。
・2番からは、カートンの嫉妬からくる意地悪を入れて。(「それより、判決はどうなると思う?」とリンクさせて)
・カートンはダーネイに自分を重ねている。(オペラでは語れないが)顔は一緒。好青年。どうして彼にはルーシーがいるのか。
「自分はどうなんだ?」という問いかけ。
★第1幕・第2場「告白」
・「家」のテーマ。あったかいシチューを思って。みんなが得た「家」=幸せの象徴。
・ダブル・デュオ。(A:ダーネイとDr.マネット、B:ルーシーとカートン)
・2人の対話が2つ同時進行で、たまに言葉をリンクとして行ったり来たりする。
→「話を聞いてもらえますか?」、「僕はルーシーを愛しています(=愛していることについて)」、「何でもする」、「助けることができないでしょうか?(=自分に何ができるか?)」、「もう十分だ」
・どちらも話題は「ルーシー」「そのルーシーを愛している」ということを伝える。
・カートン「あなたは俺の全て」でピアノに聴こえてくる音型は、前奏曲の冒頭「編み物(=運命)」のテーマ。
カートンはルーシーを愛したことにより、ダーネイに代わりギロチンの刑を選ぶ。
・「名前」は特別。
・最後には、第3幕で完全形として歌われるアリア「たまには思い出してください」を控えめにシンプルに見せる。
・最後のコーダに入る前の終止:主和音の倚音から入って、次の小節で主音に解決&和音IVで。良い。
★第1幕・第3場「予兆」
・ルーシーのアリア。《カルメン》のミカエラのアリアのようなお祈りのアリアにしよう!
・第3幕の手紙のアリアとリンクさせよう。
・アリア後、革命の足音。
・「貴族エヴレモンド」の音型。キーワードとなる「名前」を象徴的に。このテーマは革命裁判のシーンで使う。
・プロローグで出て来た「救済」のテーマ。父と娘の救済の交換。
・最後には運命の「時計」の音。Dr.マネットが18年前に捕らえられたこと、それは運命となってダーネイ、ルーシー、そしてカートンに。
★第2幕への前奏曲
・小太鼓だけで演奏される。小太鼓は革命でも使われた。戦いの音。
・台本にいくつかイメージとなる言葉があった。
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暗闇からの小太鼓の音が聴こえる。
ギロチンに向かう音。1つ1つ死に向かう音。
小太鼓の音が鳴る度に血に染まっていく。
“ギロチンの落ちる音”
“歩き回って1つずつ確かめるように”
“憎悪と告発”
“秩序の崩壊”
“誰かが死ぬことによって得られる安らぎ”
“と…悲しみ、虚しさ”
“革命(自由と死への)行進”
———
・革命によって、明日の友が訴えられて犯罪者となって死刑になることも多い。
・命のコントロール。生も死も誰か次第。
★第2幕「告発」
・市民たちによる貴族たちの「告発」、テレーズによる「告発」、Dr.マネットによる「告発」のこと。
・革命の歌。レミゼにならないように。書き終わるまではレミゼは聴かないように。
・「貴族エヴレモンド」は「名前」。その人自身ではなく「名前」によって「地位」によって、運命が決まる。
・フランスの革命裁判の描写。(イギリスの秩序ある裁判との対比。)
・冒頭のアカペラによる革命の歌の後、プロローグに出て来た「革命の足音」により裁判開始。
・ダーネイのアリア、Dr.マネットのアリア、テレーズのアリアと続くため、時間のコントロールに注意すること。
(ただ羅列しただけのアリア大会にならないように)
・主要キャストのアリアとしての感情の描写より、それを聴いている市民たちの感情の移り変わりを中心に。そこにキャストの感情を旋律に乗せる。
(例:ダーネイのアリアを聴いている時の市民たちの感情を強く思うこと、どの時点から思考的に味方になるか、
Dr.マネットのアリアは、初めからその声を聞く市民たちの姿勢の違い、など)
・第2幕へ入ってからの小太鼓の役割は、市民の憎悪、攻撃性などをエッセンス的に。
・テレーズは悪役のように見えるが、テレーズも革命の被害者でありその訴えは正義。
・「バスティーユ監獄」は、甘美な音型で。恐ろしい存在こそ甘い旋律を割り当てる。「月」のイメージは、禍々しく。しかし美しく。
→あえて言葉とは反対のイメージを割り当てるようにしよう。そこから何か深みが生まれてくる気がする。
・「そう言って少年は死んだ」にも、「時計=運命」の音。その姉と弟が死んだことによって「運命」が決定していく要素。
・「私の名前は…アレクサンドル・マネット」で、テレーズとDr.マネットがリンクする。リンクすることにより、その手紙がマネットの意志によって書かれたことを証明する。
・クライマックスに向かう時間を先に決めてから、全てのキャストの感情を重ねていくこと。
・死刑が決定してからは、市民たちは嬉しそうに。(感情とは逆の音楽を乗せていく。例:歓喜に満ちた絶叫ではなくて、鼻歌など)
・長調(D-dur)の革命の歌と、同主短調(d-moll)のルーシー&ダーネイの別れ。
次に長調(D-dur)の革命の歌と、平行調で短調の(h-moll)のカートンの決意。同時に演奏しても違和感が少ないように。
・カートンの決意のピアノには6度の跳躍。ルーシーのテーマ。ルーシーを愛してからのカートンの行動はルーシーが原動力。
・曲の終わりに「時計=運命」の音。
★第3幕への前奏曲
・再び捕らえられて明日死刑になるダーネイが、何を思うか。まず、ルーシー。そして娘やDr.マネットのいる「家」のこと。
死への不安と、きっと断頭台に上がる自分を見ているだろうから、泣き叫んだりせず立派な背中を見せて死にたいと
自分を奮い立たせる気持ち、交互に訪れる気持ち。
・やっとルーシーへの手紙を書こうという気持ちになって、第3幕へ。
★第3幕・第1場「手紙」
・Act1-S3のルーシーの子守唄を引用。(ただし、こっちの方が先にできた。)
・G.Pucciniの《トスカ》の〈星はひかりぬ〉のような手紙のアリアにしよう!
・ダーネイだけではアリアは完成せず、カートンが歌って完成するアリア。(贅沢だ!)
・2番に当たる部分をカートンに。
・「時が来た」は特別に。
・「あなたの声が」のピアノ部分には、「編み物=運命」の音型。
・「たまには思い出してください」6度の音型はルーシーの音型。旋律に出てくる「C-Des-C-Des-C-B」は「編み物=運命」の音型。
・ダーネイが連れ出されてからは、カートンにダーネイの要素を重ねる。
・カートンは、おそらく「死」への恐怖を、ルーシーのことを想う一心だけ(=ルーシーの音型)でかき消していたに違いない。
・曲の終わりに静かに「時計=運命」の音。
★第3幕・第2場「永遠」
・冒頭は前奏曲で使われた「編み物=運命」のテーマ。
・お針子のアリア。天国、天使、天から遣わされた無垢な魂、若さ、をイメージ。
このお針子と出会うことにより、カートンは死からの恐怖より自分を保てる。神様から最後に与えられた心のよりどころ。
・処刑は午後の3時開始。「時計=運命」の音。
・ギロチンのカウントダウン。実質にかかる時間より体感時間、2人のドラマの中での聴こえ方を大事に。
・お針子が歌っている間は、2人にはカウントダウンが聴こえない。カートンが歌っている時にはカウントダウンが聴こえる。
お針子はカートンの存在によって「死」へのカウントダウンが聴こえなくなっている。(カートンには聴こえている=お針子ほどの安心感はない。)
・「編み物=運命」「時計=運命」の音も重なる。
・とうとうお針子が去ってから、カートンにもカウントダウンは聴こえなくなる。もう「二都(ロンドンとパリ)」ではなく、「二都(地上と天国)」の天国が見える。
・「はるかに素晴らしい安らぎの地だ」は、下行する音型。第2幕革命のクライマックス「死を与えろ」と同じく下行する音型。
地獄へ落ちろ!という思いからくる音型と、天国(カートン的には何か素晴らしい地)へ向かう音型をリンクさせる。
最後には天国の時計の音。
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【書いてみた後に思ったこと】
(1) 第3幕・第2場の処刑が始まってからが、筆が進まなかった。
→オペラの結末として何をお客様に届けたいのかが、わからなくなった。
→いったん、リアルな処刑にかかる時間を引いてしまったからかも?
→2人に流れる時間を考えて、ゆっくり流れるところ、リアルタイムに流れるところ、思う以上に早く流れるところを
決めてからは、早かった。
→処刑や時代の暗さより、とにかく最後はカートンが見た「天国」を見せて終わろう!と思ってからは早かった。
◉リアルに流れる時間は、あくまでも突破口なだけで、決して捕らわれ過ぎないこと!
(2) 前奏曲のAは一番最初に聴こえてきたが、Bの部分以降が、筆が進まなかった。
→書けるまでずっと支配していた気持ち:
よくある登場人物紹介的な前奏曲も合わない。ただ移動するための時間(その間の情景描写)も合わない。
→なんか…コンコルド広場のメリーゴーランドとか、観覧車が見える=モダンな感じにしたい!=「過去」と「現代」をリンクさせよう!と思ってからは、早かった。
◉時間を超える発想は、書く前には全くなかった。次からは、その可能性も視野に入れておこう。
(3) 第1幕・第1場の「家」のテーマからが筆が進まなかった。
→「家=あったかいシチュー」が見えてからは、早かった。
→物語の説明の部分は、どうしてもそのセリフの意味だけに捕らわれてしまって、自分の場合、音楽にならないことが多い。
◉セリフそのものの意味だけに捕らわれると、筆が進まない現象。セリフはある意味無視して。その背景などセリフ以外のことからキーワードを探すこと!(説明部分をどうやって音楽にするかは今後も検討課題。)
(4) 第3幕・第2場ラストの違う形。
→書いたときはカートンが達観して、市民たちの声が聞こえなくなったイメージでカートンのアリアのように書いた。今なら市民たちの怒号の中、カートンの歌が勝利の歌のように聴こえるように書くかも。
◉思ったものを形にすることはできるようになってきたけれど、効果的に心に届く手法は何かをもっともっと考えて、アイデアで練られるようにしたい。
(5) ルーシーとダーネイへの共感
→物語がカートンに集中したので、ルーシーとダーネイの心が動くところがあまり言葉になかった。そのため、2人には感情移入しにくい?またカートンと2人の関係性もオペラでは描かれていないため、どれくらいの親密度だったのかが分かるには困難。(物語を知っている人は問題ない現象…だと思う。)
◉オペラでは辻褄があっていることより、音楽を優先させること。