~番外編No.4~ 子どもが育つ、地域をつくる ー20年続く遊佐町少年議会ー
番外編はCRENECTIONのメンバーが外部の団体で執筆をした記事を掲載します。今回は日本青年館の記事を掲載します。
1,青年団活動の経験が底流に
山形県最北の町、遊佐町。日本百名山のひとつ、鳥海山に抱かれるこの町はいま、若者によるまちづくりの取り組みで熱い視線が注がれている。遊佐町少年議会がそれだ。遊佐町の中高生が「少年町長」と「少年議員」に自ら立候補し、中高生全員が直接投票で選び、少年議会を構成する。少年町長と少年議員は、遊佐町の若者の代表として政策を審議、年45万円の予算で政策を立案、実行するというものだ。
遊佐町少年議会は、2003年に当時の町長である小野寺喜一郎さんの発案で設立。今年度で節目の20年目を迎える。少年議会設立には、喜一郎さん自身の経験と思いが大きく影響している。
「戦後、農業から半分以上の人が他産業に流れていったんです。そんな中、私は地域の青年団と出会い地域の在り方と、平和と、民主主義をどう築くか考えました」。戦後、農家に生まれた喜一郎さんは青年団とともに地域課題と向き合った。当時は地方自治が叫ばれた時代である。青年団の活動を通して地域をつくりあげていく経験を積み重ねていった。
青年活動の一環で西ドイツ(当時)を訪れた経験もあり、ヨーロッパと日本の違いを目の当たりにしたという。
「1975年ごろのドイツでは地方分権が進んでいました。ヨーロッパの若者は政治に不満を抱いたら行動して変える。地域の在り方は様々。日本とは全く違う。ただ、日本の若者にも一人の人間として行動する力はあると思っています」。
遊佐町少年議会設立の背景には青年団活動とヨーロッパの経験が流れていた。
現在、全国の自治体で「若者議会」など、中高生をはじめ若者による議会が設立されているが、遊佐町少年議会の特徴は①立候補制②マニフェストがあること③全員投票④予算⑤年に二回の政策提言である。地方議会と同等の重みを持たせ、中高生が主体的に活動する。喜一郎さんが大切にしている「自分たちで自分たちのことをする」考えが少年議会に反映されているのだ。町長を退任した今も少年議会の中高生たちに期待を寄せる。「『主権者として我々はこの地域を担っている一人だ』ということを実感してほしい。若者たちやるじゃないか!と大人たちに示してほしいと思います」若者たちは地域を担う主役である。地域の未来を見据え若者が活躍できる場を作りたい。喜一郎さんのそんな思いが受け継がれていく。
2,きっかけは好奇心
現在、遊佐町少年議会に携わる少年町長の佐藤塁さん、議長の鈴木詩乃さん、議員の池田花恋さんにもお話を伺った。少年議会に入ろうと思った理由は、皆さん口をそろえて「好奇心」。中学1年生から5年間も少年議会に参加している塁さんは、「ここまで続けられているのは活動の中で遊佐町のことを詳しくなっていったからで、もっと住み良い町にしたいと思っています」と話す。
地域に関心があるというよりも面白そうという理由で参加し、次第に遊佐町の魅力に惹かれていくのだろう。少年議会では大人たちと混じって意見交換する場がある。
「議会って政治みたいな堅いイメージがあったんですけど、実際は自分たちが感じたことを楽しく話し合っています。自分の意見を伝える機会が多く、意思をもって発言する姿勢が身につきました」と詩乃さん。
花恋さんは参加して間もないが、「私はかるたの政策で絵を描いたんですけど、かるたの読み札の案を募集したり、絵を描いたり広告を作ったりして自分のスキルアップに役立ちました。大人に頼らず自分の力でやり遂げる自立心もついたと思います」と成長を実感している。こうした中高生の主体性を大切にした取り組みは教材やメディアにも取り上げられており、注目が集まっている。
3,中高生の生き方を変えていく
少年議会に参加しているのはごく普通の中高生たち。少年議会で活躍し、現在は大学でまちづくりを学ぶ斎藤愛彩さんもその一人だった。
「当時は遊佐町の事が嫌いで(笑)遊佐町が都会的な街になればいい!とか、大きなイベントが出来ればいいなって気持ちで少年議会に入りました。でも、遊佐町の事を知っていくうちに遊佐の魅力に気づいたんです」。
好奇心から参加する生徒が多いというが、活動を通じてまちや暮らしに関心が高まる。もちろん、うまくいくことばかりではない。
「政策は全部うまくいったわけじゃなくて。JRへダイヤ変更の要望を出したんですけどダメで。でも失敗しても大人に責められることは無かったです。むしろ『良いチャレンジをした』『この経験を次に活かそう!』って励ましてくれました。だからとりあえずやってみようとか前向きな気持ちで少年議会に取り組めて、失敗は怖くなかったです」と愛彩さん。失敗すら挑戦ととらえる姿勢は、生徒たちの成長の成果でもあり、大人たちの見守る姿があってこそだ。
愛彩さんにとっての遊佐町少年議会とは何だろうか。
「何より遊佐町が好きになりました。色んな立場の人を理解しようとする姿勢が身についたし、子どもにも力はあるんだって気づけました。少年議会が立ち上がった20年前からそういう風土が遊佐町全体に根付いていると思います」。
遊佐町が嫌いだった一人の若者が、少年議会の活動を通して、遊佐町を愛し自身の成長も感じている。少年議会はもちろん、地域の人々の支えが背景にあるのだ。
そんな愛彩さんの将来像とは。
「教育コーディネーターとか地域留学生のハウスマスターや高校の教育にも携わっていくと思います。ただ、若者に携わる仕事は一生ものになるだろうなって。ふらっと遊佐から離れることはあるかもしれないですけど、やっぱり遊佐との関わりは消えないと思います」。
遊佐町少年議会の経験が若者の生き方すら変えていく、と言ったら、言い過ぎだろうか。
4,近すぎず、離れすぎず
遊佐町少年議会の取り組みは役場職員が支えている。少年議会には年間45万円の予算がつけられている。税金を活用する上での責任は金額の多寡にかかわらない。役場のサポートは生徒たちの企画立案、そして実行に至るまで、必要不可欠なことだ。役場の風間さんに、少年議会を支える上で意識している事を聞いてみた。
「大人の意見は子どもたちにとって絶対的に思えてしまう。なので、私たちは子どもたちが行き詰まった時に、意見にならない程度でアドバイスするように意識しています。まずは子どもたちが予算内で何ができるか考えて、私たちは子どもたちが考えたことを実行できるように支えていくことが第一ですね」。
近づきすぎず、でも、離れない。寄り添って支えていく姿勢が、子どもの主体性を育んでいる。
「私が小学6年生の時、少年議会の第一期が始まりました。当時も頑張っていたと思いますが、今の少年議会もしっかりしている。何かイベントがあったら大人から頼まれて一緒にPR活動しています。全国まちづくり若者サミットに呼ばれたり対外的に有名になってきていて凄いと思います」。
少年議会は町の議会と同等の重みがあるため、大人から何か頼まれることも珍しくない。子どもたちが大人と交わりながら成長し、地域をつくる。遊佐町少年議会の特色と言えるだろう。
5,責任感と視野の広さが成長を促す
遊佐町少年議会の取り組みはいかがだっただろうか。私が思うに、遊佐町少年議会の面白さの一つは予算があること。予算内で何が出来るのか、それを何のためにやるのか、を少年議員たちは考えなければならない。
そして、町の予算を使っているからこそ、町全体を俯瞰して考える力も身についている。普通の中高生は部活やクラスについて考えることはあるかもしれない。遊佐町の少年議員はどうだろう。彼らは遊佐町の中高生、そして地域の代表であるという責任をもって活動している。しかも、後輩たちの見本となる政策が出来ているか、地域の期待に応えているかなど、多角的な視野が求められる。これほどの責任と幅広い視野をもって意思決定する中で、子どもたちは成長していくのだ。
実は、幅広い視野は時として葛藤となって表れるときもある。少年議会の政策=自分たちのやりたいこと、では必ずしもないからだ。成長とは、葛藤の克服なのかもしれない。
何よりも、遊佐町少年議会は中高生による議会だ。中高生が主役であることは、大人と地域のサポートが必要不可欠であるということだ。子どもにも出来ることはあると地域と大人たちは信じている。その姿勢が子どもたちにも伝わり、自分たちが地域を変えていくのだという主体性が育まれていく。
大人、地域そして子どもが一体となる町、それが遊佐町だ。
この記事を書いた人
菅原 信弥:宮城県仙台市出身、在住。趣味は旅行で、旅先の神社や寺院で御朱印を集めるのにハマり中。大学では心理学、社会学、文化人類学など多岐にわたる学問を学ぶ。好きな四字熟語は「一期一会」。
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