技術が追い付かないなら、課税するという発想【伊藤隆敏さん・コロンビア大学教授】
STOP温暖化のCMを見なくなった
2011年の東日本大震災の後からめっきり見なくなったのが「STOP温暖化」みたいなCMである。
数多ある環境問題の中でも、その根源として扱われやすいのが地球温暖化である。これが二酸化炭素の排出が原因であるということは小学生でも知っている。この二酸化炭素の排出を抑えたエコなエネルギーというのが原子力だった。
しかし、あの地震でフクイチが爆発してから…原子力に対する世論は一気に変わった。福島第一原発事故は未だ収束することを知らず、わたしたちの情報ソースの触れられないところで実際は何が起こっているのか、わからない。
原子力に代わるエネルギー
せっかく見つけた火力に代わる新しいエネルギーだったはずなのに、原子力は人命、環境、社会を脅かす凶器のように扱われることになってしまった。
そのほかの再生可能なエネルギーに太陽光、地熱、波力、風力などの発電方法があるが、そのエネルギーは火力や原子力には及ばない。原子力発電は事故前には日本の総発電量の30パーセントのシェアを占めていたのに、今では6パーセントにも及ばない。また再燃している石炭火力発電が30パーセント、LNG(Liquefied Natural Gas=液化天然ガス)火力発電は40パーセント。この発電は比較的二酸化炭素の排出量を抑えられるそうである。
再生可能エネルギーは18パーセントにとどまる。
世界規模でのチェンジを
京都議定書やパリ協定で世界の二酸化炭素の排出量について一定の取り決めがあった。1997年採択、2005年発行の京都議定書では世界最大の温室効果ガス排出国であるアメリカが脱退し、その頃は途上国だった中国には削減義務が課されなかったため、実効性自体が疑問だったが、2015年のパリ協定はアメリカも、中国をはじめとした途上国も含む地球規模の協定となった。
日本はその中で2013年から、2030年までの間に26パーセントの削減を宣言。様々な取り組みをふまえると、30年までに26パーセントというのは達成できない数字ではないらしい。菅首相は所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする」と宣言し、達成手法は、「革新的なイノベーション」としたらしい。しかし、ゼロにする、というのはやはり難しい。
排出量削減のために、技術で実現できないなら、今ある技術のままで実質の排出量を減らすために「炭素税」を課すことはどうか、と伊藤さんは提言している。実質の排出量そのものを減らしていく、という手法だ。
学び
新しくつくることができないのなら、今あるものをさらに新しい感覚や視点で見て考えること。ちょっとした逆転の発想が、問題の解決につながること。