売れなかった商品を分析して、販売職が自ら成長。アパレルDXの新潮流と原点
「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が来た」と国連事務総長が述べた2023年7月、もう時代が変わったのだからと思い切って夏服の断捨離をしました。風通しの良いゆるふわな服を買うために、UV加工の無い長袖や厚手のパンツには感謝しつつ、リサイクルです。
コロナ禍でネットでポチっとばかりしていましたが、久々にお店に行っておススメ商品を聞きながら買い物する楽しさを思い出しました。EC以外でアパレルのDX*って進んだのかな?と気になっていたところに、「売れなかった商品のデータで、Z世代の販売職の接客力を向上させる」という仕組みをグループ会社が始めたと聞いて、早速取材です。
アパレル業界のDXは
クリーク・アンド・リバー社(C&R社)はクリエイターにプロジェクトを紹介したり、ゲームや番組などを制作する会社ですが、ファッション分野のグループ会社で販売職やラウンダー(売り場作りやプロモーションを担当)のエージェンシーやECサポートなどを行っているインター・ベルがあります。そのインター・ベルで新しい仕組みに取り組み始めたのです。
専門知識がない私は、まずはインター・ベルで人材開発教育セクションに所属する仁見晴香(ひとみはるか)さんに、アパレル業界のDXについて概況を伺いました。
「まだまだDXが進んでいないと言われるアパレル業界ですが、一部企業では、顧客に合わせたパーソナライズドマーケティングを行っています。購買履歴や行動データを活用し、特定のお客さんをターゲティングしたプロモーションやオファーを提供することで、エンゲージメントとロイヤルティ(信頼・愛着心)を高めているブランドもあります」
マーケティング(商品を売る仕組み)やブランディング(共感・信頼感の醸成)において、DX活用はどんどん進化しているようです。
JAN8のシステムとは
そんな中、販売職の教育や研修で定評のあるインター・ベルが実店舗での接客力向上のために取り入れたシステムが、JAN8が提供するJANコード**を活用した販売管理アプリケーション「JAN8 CS(ジャンエイト シーエス)」だそうです。
JAN8 CSは商品のJANコードと、お客さんと販売職が会話した記録を結び付けて登録し、販売管理につなげるアパレル分野専門のアプリケーションサービスです。店舗とECの商品情報を一括管理して接客することができるので、販売ロス削減などサステナブルにも貢献する仕組みのようです。
インター・ベルは人の能力アップに注目
インター・ベルでは、2023年4月中旬からまず運営を任されている一部店舗でJAN8 CSのテスト運用を開始しました。「試着したのに購入しなかった」「勧めたけど興味を持ってもらえなかった」など、来店したお客さんが商品に対してどんな反応を示したか、各々の販売職がJANコードをスキャンした後、アプリに会話の記録を選択記入や自由記入で入力していきます。
売れる商品を置いて売るという商品視点が、このシステムの1つの狙いなのでしょうが、インター・ベルは販売職の成長という視点からこのアプリを活用しています。
お客さんの特性と商品を購入しなかった記録をデータとして可視化できるので、次の機会に向けての提案方法やコミュニケーションの取り方を、個人としても、お店全体でも確認できます。
実際に販売職の方に話を聞いてみた
実際にお店でどんな風に使っているのか、インター・ベルの販売職が働いているスポーツメーカー直営店を訪ねました。ここでは店長をはじめ全スタッフがインター・ベルの方々で、計5名が働いています。その中で、今年4月に入社したばかりの中河航暉(なかがわこうき)さんにお話を伺いました。
「平日は25組、休日は80組くらいのお客様がいらっしゃいます。アパレルの経験は社会人になるまでなく、毎日仕事をする中で、販売には提案力が重要だと思いました。接客は店長に教えてもらったり他の方のコミュニケーション術を学んでいます。自分で接客した際に、お客様が買わなかった理由を掘り下げてJAN8 CSに記録しています。それらのおかげで実力がついて、お客様がお店に入ってきた時の視線を確認してスポーツウェアの機能面を説明したり、新作商品を勧めたり、女性のお客様にはセール品や色使いを提案するなどして徐々に購入していただけることが増えてきました」
「JAN8 CSの登録は1回あたり3分ほどですが、忙しくて記録が間に合わない時でも、お店全体のミーティングでお客様の属性や雰囲気とともに次にどうやったら購入してもらえるか、ブランドをどのように印象づけるかを話し合って後から記録しています」
JAN8 CSは販売提案方法の改善という当初の狙いを十分果たしていました。
そしてインタビューの最後、自律的な成長に自然とつながっていることを実感させられるコメントが中河さんから発せられました。
「僕がお店で働いて結果を残すことが、インター・ベルのおおもとを支えることにつながると思うので、緊張感を持って働いています!」
お店の方々の教育とJAN8で課題を自分で毎日記録することで、わずか4カ月間で、自分の成長を感じながら責任感も育つのだと感心しました。
導入担当者の想いを尋ねてみると
インター・ベルでのJAN8 CSの導入を社長と一緒に進めている導入担当者が、冒頭でアパレル業界のDXについて話をしてくれた仁見さんです。このシステムの本部・教育部門での目的を伺ってみました。
「購入に至らなかった理由に着目して、教育セクションが記録データを分析して販売職各人の販売力の傾向を把握し、各特性を活かした販売力の向上を目的とした指導を行います。具体的には、本社・教育がスーパーバイザー・店長との週1回のミーティングを通してデータに準じた販売指導法を提示したり、数あるインター・ベルオリジナルの動画教材の中から販売職の特性に合った教材をお薦めしています。これによって、的を射た指導が可能になり、最短距離での販売力改善が見込めます」
各店舗内だけでなく、インター・ベル本部もこのシステムを使って一緒に人を育てようという意識をバシバシと感じました。
総合的な視点、そして今後の活用を聞いた
最後にインター・ベルの代表取締役社長 田中克典さんに、総合的な視点から話を伺いました。
「JAN8 CSは売れない理由を可視化して振り返り、自分で次の販売改善につなげられるので、若手ほど成長実感を持つことができます。人材不足に悩むアパレル業界で、達成感を分かりやすく感じられるので、離職を防ぐ意味でも効果的です。さらに、接客の質を現場に行かなくても本部が確認できるので、1店舗に1人体制で運営をすることも将来的には可能になるでしょう」
さらに、「データをどんどん集めて、自社の教育・研修の質を高めていくことはもちろん、アパレル業界全体の接客レベル向上のために他社にも広げていくことも考えています」と田中社長は将来像を語ってくれました。
そして、田中社長と仁見さんから、人材育成の面だけでないマーケティングやサステナブル面のメリットが語られました。
「どの商品が顧客によく受け入れられているかを把握することで、その情報を基に新しい商品の開発やマーケティング戦略を立てることができたり、在庫の過不足を予測し、適切な補充計画を立てることが可能になります。将来のプロモーション戦略を洗練させることもできたりと様々な可能性があります」
販売職の視点からこのシステムを導入することから始まり、もう一つの狙いである商品の販売管理の観点もしっかりと見据えていました。
それでもシステムは道具。働く人の根源とは
システム活用のインタビューをしているうちに、仁見さん、中河さんの二人ともイキイキと働いているなあ、と感じて最後にちょっと別の質問をしてみました。
――――インター・ベルで働いていて楽しそうですね?
仁見さん:「風通しがよくて尊敬できる方が多いところが好きです。
自分の考えを実現できるかは状況やタイミングもありますが、特性を活かそうとしてくれる環境があると感じてます」
中河さん:「分からないことを聞きやすい雰囲気です。いいことは褒めてくれますし、悪いことはきっちり叱ってくれます。メリハリが効いていて働きやすい職場です」
技術的発展でDXはどんどん進みますが、大前提は自分の能力を発揮しやすい職場環境や仲間がいること。それがあって初めてシステムや仕組みが活かせるということがズドン!と腹落ちした取材でした。■CR
CREEK & RIVER note編集部 TK
【この件に関するプレスリリースはこちら】
https://www.cri.co.jp/news/004402