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「眠ること」の不思議

「〇〇の秋」シリーズ。
第3回の本日は「睡眠の秋」がテーマです。

夜になるとほんの少し秋の空気が感じられる。
若干の涼しさに、これまでは無意識に蹴飛ばしていた布団が恋しく思えてくる…

そんな今宵、「眠ること」についてちょっと考えてみませんか?

1. 評価される睡眠


最近のCMか何かで、「睡眠の点数をつけてくれるベッド」というものを見かけました。関係があるところいえば例えばこんな記事とかでしょうか。

眠りを点数化するのは、睡眠の質を可視化することによってよりよい睡眠へと改善するためなのだ…。それはそうなのでしょうが、なんとも言えないモヤモヤが付きまといます。

それは一方では自分の唯一の安心できる時間である睡眠さえもが評価されてしまうのかという怖さでもあり、また他方では睡眠を仕事で最高のパフォーマンスを発揮するための道具として軽んじていないかという懸念でもあるかもしれません。

このことは子どもにとっても切実な問題です。
睡眠の質を求めるあまり、「安心」して眠ることができなくなってしまってはいないでしょうか?
また「寝る子は育つ」という言葉もあるように、寝ることを学校に行くための役割とだけ見なして、寝ることそのものの大切さを見失ってしまってはいないでしょうか?

もちろん、睡眠の実態について科学的に探求し、確実な事実を明らかにしていくことは、私たちの睡眠をより良くする上で重要な役割を担っています。

他方でこれらの問いは、科学的研究のみでは解決できないものでもあるでしょう。

そのような科学的研究の抜け穴を補うように、睡眠を「文化」という視点から研究する分野が登場してきました。

今回はそのような「睡眠」を「文化」として捉えるとどういう世界が見えてくるのかということに焦点を当てることで、私たちや子どもにとっての眠りのもう一度じっくり考えてみるきっかけが生まれる時間になればと思います。

2. 睡眠文化の世界


睡眠を文化として捉えたものとして「睡眠文化」と呼ばれる領域があります。

睡眠それ自体はほとんどの動物に共通する先天的な生理的現象であるのに対して、「睡眠文化」とは環境の変化等に応じて後天的に身に付けられる睡眠についての多様な制度や価値観であり、それらはおおよそ人間に特有のものと考えられています。

そんな睡眠文化についてどんなことが議論されたりしているのか。その世界をちょっと覗いてみましょう。

(1)クオリアAGORA2013「2030 年の未来をつくる」
第1回テーマ「人はなぜ、眠るのか?~睡眠を科学と文化から考える」


●スピーチ1 「人はなぜ、眠るのか?」 角谷 寛(滋賀医科大学特任教授)
●スピーチ2 「人は、何故眠るのか?~『睡眠文化論』という考え方」
高田 公理(佛教大学社会学部教授)
●ディスカッション<堀場 雅夫(堀場製作所最高顧問)、篠原 総一(同志社大学大学院経済学研究科教授)、堤 正和(オムロンヘルスケア学術技術部技術探索グループ主事)、角谷 寛(滋賀医科大学特任教授)、高田 公理(佛教大学社会学部教授)>
●ワールドカフェ

「クオリアAGORA」とは、クオリア京都主催の活動で、「自然科学や人文科学などの垣根を越えて研究者と企業人・学生らが膝を交えて対話し、京都人が育んだ目利きの機能も加味させた異質性の出会い」の場となっています。

その第1回のテーマになったのが睡眠であり、それを自然科学と人文科学、あるいは科学と文化を超えて論じようということで、その上で「睡眠文化」が話題になっています。

さて、ちょっとだけ内容に入ってみましょう。
スピーチ2「人は、何故眠るのか?~『睡眠文化論』という考え方」では、睡眠における科学と文化の関係性がこのように図に表されています。

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ここでは、睡眠を取り巻く文化として「寝るための装置(寝具、ベッド、布団、枕、眠り着、眠り小物、など)」と「眠りに関連する制度や価値観(暦や時間の計り方、眠りの価値づけ、など)」がある一方で、科学的に解明されるところの「生理的現象」や「眠る環境のあり方」から様々な影響を被っている、という関係性が示されているかと思います。

例えば…

・夏には明るい白夜が続く北極圏に近い高緯度地方では7 時間も眠ることはない。
・熱帯のジャングルなどでは昼間は暑すぎて仕事にならないので、仕事は朝夕の涼しいうちに済ませ、昼間に睡眠時間を確保する。
・湿気も気温も高いジャングルでは、地べたに寝ると毒虫や蛇に襲われたりする可能性があることも踏まえ、ハンモックという寝具が発明された。
・工業社会では早寝早起きという「けじめ」が尊重されたが、情報社会になるといつ寝ていつ起きてもちゃんと仕事ができるので余りけじめが問題にされなくなった。

といったことが挙げられており、「睡眠」がいかに多様なものから影響を受けているのかが分かるかと思います。

別の紹介にはなりますが、同じ方がこんな本も執筆編集しています。
睡眠文化論そのものに興味のある方はぜひ見てみてください!

序章 睡眠文化とは何か  高田公理

第I部 夢と睡眠行動
 1章 フロイトの夢分析と脳科学  北浜邦夫
 2章 夢の民族誌  豊田由貴夫
 3章 眠りの〈プレイ〉モデルと寝室地図  藤本憲一
 4章 相互浸透する眠りと覚醒  堀忠雄

第II部 眠りの時空間
 5章 眠りの時間と寝る空間 ― 歴史的考察  高田公理・鍛治恵
 6章 眠りを誘う音・光・香り  鳥居鎮夫
 7章 眠具 ― 眠りにまつわるモノの世界  松浦倫子

第III部 睡眠文化学の未来へ
 8章 人類学からのアプローチ  豊田由貴夫
 9章 社会学からのアプローチ  重田眞義
 10章 心理学・行動科学からのアプローチ  堀忠雄
 11章 睡眠諸科学の基礎づけ ― 哲学的考察  藤本憲一
 12章 睡眠文化を学ぶ人へ  重田眞義

終章 人はなぜ眠るのか(座談会)
 高田公理・堀忠雄・重田眞義・鳥居鎮夫・豊田由貴夫・藤本憲一


(2)眠りは、本能?それとも文化? | 眠りは、はじまり | 無印良品

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続いて企業のサイトをいくつかご紹介します。
まずは無印良品の企画「眠りは、はじまり」に収録されている対談「眠りは、本能?それとも文化?」です。

対談者は京都大学アフリカ地域研究資料センター研究員で霊長類研究をしている座馬耕一郎さん、東南西北デザイン研究所のデザイナーで石川新一さん、NPO睡眠文化研究会の鍛治恵さんのお三方。2016年に京都大学博物館で開催されていた「ねむり展」の実行委員の方々でもあります。

対談の中では、霊長類の睡眠の話を起点としながら、本能や生理的現象としての睡眠が如何に人類の文化の形成に関与してきたかなどが、それぞれの専門の立場から興味深く語られています。

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ねむりのコラム | 朝のひかり 夜のあかり | ヘーベルハウス

こちらはヘーベルハウスが特集している「ねむりのコラム」です。

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「都市における住まいとは」という問いと向き合うヘーベルハウス。
単に建築物としての住宅を考えるだけではなく、その中で営まれる「生活」を、とりわけここでは都市における「眠り」をデザインする役割も担っています。

こちらの「ねむりのコラム」では、主に「住居」や「間取り」というハウスメーカーにちなんだ観点から眠りを論じたコラムがたくさん掲載されています。

何気ない住環境が眠りとどのように関わり合っているのか、各コラムぜひじっくりご覧ください。

3. おわりに


いかがだったでしょうか?

眠りを評価・分析し改善して行くことが現代においては主流となっているようにも見えますが、それも時代の変化を反映した一つの文化としての現れなのかもしれません。

今この場所に生きる私たち、そして子どもたちにとっての「睡眠」とは、どんな特徴があってどんな役割を担っているのか。
そんなことについて考えてみても面白いのではないでしょうか。

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