設問1
 Cは、BをAの代理人(民法(以下略)99条1項)としてAに100万円を貸し付けた(587条)として、本人であるAに対して消費貸借契約に基づき100万円の返還請求がしたい。しかし、BはAから代理権の授与を受けておらずAの追認がなければ本件消費貸借契約の効力は生じない(113条1項)。もっとも、BがAの後見人に選任(843条1項)されており追認権を有する(122条、120条)ことを理由に、Cは、Bが追認を拒絶することは信義則に反すると主張できないか。
 1 規範
 後見人は、本人の利益のために職務を行うのであるから、無権代理行為の追認により本人に不利益が及ぶのであれば追認を拒絶してもよい。もっとも、追認の拒絶が信義(1条2項)に反するような場合にまで本人を保護する必要はない。そこで、無権代理行為の性質、追認により本人に生じる不利益、相手方の認識等の事情から信義に反すると認められる場合、後見人が追認拒絶することはできないと考える。
 2 あてはめ
 本件消費貸借契約はAの入院費用を捻出するために行われBは実際に入院費用に充てており正当な目的でなされたものであるから悪質な無権代理行為ではない。消費貸借契約は受け取った物と同種の物を返還するにすぎずさらに本件消費貸借契約は無利息であるからAとしてはAのために使用された100万円と同価値の金額を返還すれば済むから、追認によってAに著しい不利益は生じない。
 一方、Cは、Aの意識が戻らないとBから説明を受けた上でBを代理人として本件消費貸借契約を締結しており、意識のないAが代理権を授与できないことは認識可能であったといえる。しかし、本件消費貸借契約はAの入院費用の捻出という切迫した状況で締結されたものであり、Cが代理権授与の事実を調査しなかったことに不当な目的があったわけではない。
以上により、Bが追認を拒絶することは信義に反する。
 3 結論
 よって、Bの無権代理行為は追認されるため、Cは、Aに対して本件消費貸借契約に基づいて100万円の返還請求ができる。
設問2
第1 詐害行為取消権
 Dは、Aが本件不動産には3000円相当の価値があるにもかかわらずその10分の1である300万円でEに売却していることから、詐害行為を理由に本件売買契約を取り消し(424条1項)抹消登記手続きを請求したい。
 DはAに500万円を貸し付け(587条)ているためDはAに貸金債権を有している(「債権者」)。当該債権の「原因」行為である当該消費貸借契約は令和4年5月1日に締結され、本件売買契約が締結された令和5年6月20日より「前」に生じている(424条3項)。
 しかし、Aは、本件不動産の価値は300万円を超えないと信じて本件売買契約を締結しており廉価で販売した認識がない上に、売却代金は債務の弁済に充てるというむしろDのためにする目的を有していたため「害することを知ってした」(同条1項)とはいえない。
 よって、詐害行為取消しはできない。
第2 債権者代位権
 Dは、上記貸金債権を被保全債権とし、AがEに対して詐欺取消権(96条1項)を有しているとしてそれを代位行使(423条1項)することによって抹消登記手続きを請求したい。
 Eは、Aをだまして本件不動産を不当に安く買い受けようと考え(二重の故意)、虚偽の事実を並べ立て(欺罔行為)たことによりAはその価値は300万円をこえないものであると信じ(錯誤)本件不動産を売却(意思表示)している。したがって、AはEに対して詐欺取消権を有している。
 上述のとおり、DはAの「債権者」である。Aには本件不動産以外にめぼしい財産がなく、債権保全の必要性がある。また、上記貸金債権の弁済期である令和5年4月末日は到来している(同条2項本文)。
 1 一身専属権
 詐欺取消権が一身専属権である場合、代位行使は認められない(同条1項但書)ため、詐欺取消権が一身専属権に該当するか問題になる。
 (1)規範
 一身専属権とは、権利行使が個人の人格や身分と密接に関わることからその者のみが行使することを相当とするものをいう。
 (2)あてはめ
 Aが言うように、詐欺取り消しにより紛争が発生するおそれもあることから取消権の行使はその者のみに行使の有無をゆだねるべきものとも思える。
しかし、詐欺取消しは、法律行為を遡及的に無効にする(121条)ことにより当事者を当該法律行為がなされる前の経済状態に回復させるものであり財産行為に過ぎない。
 そうであれば、詐欺取消しはその行使が個人の人格や身分と密接に関わるものとはいえない。
 (3)小括
 したがって、詐欺取消権は一身専属権ではない。
 2 結論
 よって、DはEに対し、詐欺取消権を代位行使することにより抹消登記手続きを請求できる。   以上

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