第1 〔設問1〕
 1 処分(行政事件訴訟法(以下省略)3条2項)
 処分とは、公権力の主体たる国または公共団体の行為であって、国民の権利義務を形成し、その範囲を確定するものをいう。
 処分性については、対象行為の法的性質および、対象行為に対して抗告訴訟を提起することが適切かという観点から判断する。
 2 本件計画決定の法的効果
 本件計画決定がなされることにより、計画施設区域において建築物の建築をしようとする際に、都道府県知事の許可を取ることが必要になる。これは、本来自由である建築物の建築について、制限を与えるものであるといえる。
 しかし、その制限が現実化するのは、許可申請を行い、不許可処分がなされたときである。
 したがって、本件計画の法的効果は、計画区域内の者に、抽象的な建築制限を課すものにすぎない
 3 上記の性質が処分性の根拠となるか
 処分性が認められるには、具体的な法律効果の発生が必要である。そうであれば、本件計画決定は、抽象的な法律効果しか有しない以上、処分性が認められないとも思える。しかし、処分性の根拠は、法的性質のみではない。
 都市計画決定がなされると、次の段階として、都市計画事業認可(都市計画法(以下「法」とする。)59条)がなされる。これは、土地収用を伴う(法69条)ため、国民の権利義務に変動を加えるため、処分性が認められる。都市計画がなされれば、ほぼ確実に都市計画事業認可がなされる。そうであれば、都市計画がなされた時点で、事実上、計画区域内の土地所有者は、いずれその土地が収用される立場に立つことが決定されるといえる。この時点で、計画の適法性を争わなければ、事業認可の時点では、事情判決(31条1項)がなされるおそれがある。また、都市計画決定がなされると、告示がなされる(法20条)ため、土地収用を受ける立場にあることが明らかになるから、この時点で抗告訴訟の提起を要求することも不当とはいえない。
 以上より、本件計画決定の法的項は直接の根拠とはならず、抗告訴訟を提起することが適切であるという観点から、本件計画決定に処分性が認められると考える。
 4 大法廷判決の射程
 当該大法廷判決は、後に具体的な収用という処分を受けることが確実であるという理由で、土地区画整理事業の事業計画の決定に処分性を認めている。
 本件計画決定も、後に土地が収用されるという立場に立たされるという点において同様である。
 したがって、大法廷判決の射程は及ぶと考える。
 5 結論
 本件計画決定の処分性は認められる。
第2 〔設問2〕
 1 適法とする立論
 都市計画は、法6条1項および13条1項19号の調査により、必要性が生じた場合に変更が必要である(法21条1項)。
調査においては、「将来の見通し」も考慮に含めることができる。
 c地点の付近で営業する事業者の多くは、空洞化に歯止めをかけて街のにぎわいを取り戻すために、本件区間を整備する必要があると主張し続けている。Q県も、本件区間の整備を進めれば、交通需要が増えていくと予測している。このような事情は、「交通量」に関する将来の見通しとして考慮できる。また、本件区間を整備しないと、本件区間付近において道路密度が過小になることも理由となる。このような事情は、「産業」についての調査の結果として考慮できる。
 都市計画は、様々な事情の考慮が必要であるから、行政の裁量は広い。
 上記の事情が認められる下で計画を変更しなくとも裁量の逸脱とはいえない。
 したがって、計画を変更しなくとも適法である。
 2 違法とする立論
 本件計画決定がなされてから、事業を施行するための具体的な準備や検討も一切行われていない。Q県の財政事情も逼迫している。また、b地点とc地点の間の交通量は20年間に約20%減少する空洞化現象が生じている。このような事情は「人口」「交通量」に対する現況として考慮しなければならない。
 法21条1項は、必要性が認められる場合、「遅滞なく」「変更しなければならない」としており、裁量は狭い。
 そうであれば、以上の事情が認められる下で、本件計画を変更しないことは、裁量権の逸脱といえる。
 したがって、本件計画決定を変更しないことは違法である。
 3 私見
 本件計画決定を適法とするか違法とするかは、現況と将来の見通しのどちらを重視するかの問題であると考える。
 たしかに、違法とする立論の通り、法21条1項の文言によれば、効果および時についての裁量は狭いとも思える。
 しかし、考慮事情が多岐にわたること、都市計画は、本質的に政策的なものであることを鑑みると、要件該当性についての裁量は広いと考える。
 適法とする立論の示す将来の見通しは、不合理とまではいえない。
 そうであれば、本件の事情の下で本件計画決定を変更しなくとも適法であると考える。
第3 〔設問3〕
 1 根拠規定
 Pは、建築制限が適法とされる可能性があることを前提としているため、憲法29条3項に基づく損失補償を根拠に、本件支払請求をする。
 2 本件支払請求は認められるか
 憲法29条3項は、特定個人についての損失を、全体で補うという平等の観点から保障を認めるものである。そこで、損失補償が認められるためには、①特定個人に対する財産権の侵害であり、②財産権の本質の侵害があることが要件であると考える。
  (1) ①特定個人に対する財産権侵害
   ア Pが、建築制限を受けることによって、本件計画決定により利益が受ける企業等が存在することから、建築制限はP個人に対する財産権の侵害であるとも思える。
   イ しかし、計画区域内の不特定多数の者が抽象的な建築制限を受けているのであるから、特定個人に対する財産権侵害とはいえない。
  (2) ②財産権の本質の侵害
   ア Pは、持病が悪化して商店を休業することが多くなり、また、本件建物は、建築から45年以上を経過して老朽化し、一部が使用できない状態になっていた。Pは、あまり体を使わずに生活費を稼ぐ必要がり、本件建物は建てなおす必要がある。そうであれば、本件建物を8階建てのマンションに建て替え、マンション経営を行うことは、Pにとって本件土地の本質的な使用方法であるとも思える。
   イ 土地の通常の本質は、一般的な建物を建てることである。Pとしては、高層の建物でなければ、本件土地に建物を建てることは可能である。
 そうであれば、本件土地に本質的な侵害はない。
  (3) 結論
 本件支払請求は認められない。  以上

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