第1 〔設問1〕
 1 小問(1)
 Fは、Aが甲土地をBとの売買契約(民法(以下省略)555条)により承継取得し、FがAを相続した(882条、887条、896条本文)ことを理由として、所有権(206条)が自己にあることを主張したい。そのためには、Bが甲土地の完全な処分権限を有していなければならない。
 甲土地は、Cが所有していたが、Cは死亡した。Cには、子としてD及びEがいた。BはDの唯一の相続人である。Cが死亡したことにより、甲土地はDEそれぞれが持分2分の1ずつの共有となる(898条、899条)。そして、BはDの有する甲土地の2分の1の持分を承継取得したにすぎず、Eの有する2分の1の持ち分については無権利である。
 したがって、AはBから甲土地の完全な所有権を取得したとはいえず、Fは、Eに対し、甲土地の所有権が自己にあることを主張できない。
 もっとも、2分の1の持分を有することは主張できる。
 2 小問(2)
  (1) 20年の取得時効(162条1項)の要件事実
 20年の取得時効の要件は、①20年間、②所有の意思をもって、③平穏に、かつ、公然と、④他人の物を、⑤占有することである。
 186条1項により、②、③は推定される。
 したがって、積極的に主張すべきなのは、①、④、⑤の事実である。
  (2) 下線の事実は法律上の意義を有するか
 下線の事実は、①、④、⑤の事実には該当しない。
 しかし、甲土地を、賃貸借などではなく、売買によって取得していることで、本権取得の意思がうかがえる。売買価格も相当であるから、偽装であるともいえない。
 そうであれば、下線の事実は、Eが、②所有の意思がないとの抗弁を主張してきたときに、その再抗弁としての法律上の意義を有する。
第2 〔設問2〕
 1 原則
 GH間には、「和風だし」1000箱の寄託契約(657条)が成立している。したがって、原則として、Hは、「和風だし」1000箱の返還に応じなければならない。
 2 特約
  (1) もっとも、本権寄託契約には特約がある。私的自治の原則から、公序良俗(90条)に反しない限り、特約の効力が優先する(91条)。
 本件特約3条によると、種類及び品質が同一である物を保管する場合において、受寄者は、その者と寄託物を区別することなく混合して保管することができるとある。これは、種類および品質が同一であれば、寄託者にとっては厳密に預けた物が返還されなくとも、同じ種類および品質の物が返還されれば足りる。混合して保管することにより、受託者にとって、保管場所を同一にしたり、返還の際にいずれが預かった物かを確認することなく返還が可能になる。このような趣旨で本件特約3条が付けられたと考えられる。
 そして、4条によれば、寄託者は、混合保管された物について、それぞれ寄託した物の数量に応じ、寄託物の共有持分権を有するとされている。そうであれば、丙建物に保管されていた「和風だし」2000箱のうち、1000箱が盗取されているため、Gは500箱の持分を失い、残りの500箱はFの持分であるから、Hの反論が認められるとも思える。
  (2) しかし、上述の通り、本件特約は、Hの「和風だし」の管理の便宜のためのものであるし、「和風だし」が特に滅失しやすい性質を有するものとはいえない。そうであれば、共有持分が減少したとしても、寄託契約に基づく返還請求権が減少するという免責的な効力を付与する趣旨ではない。
  (3) したがって、Hの反論は認められないから、Gの1000箱の支払請求の全部が認められると考える。
第3 〔設問3〕
 1 債務不履行の成否
 Fは、Hが「山菜おこわ」の返還を「履行することができなくなった」ことに「よって」、少なくとも「山菜おこわ」相当の「損害」が発生したことを理由に、415条後段の債務不履行責任を追及したい。
 これに対し、Hは、「山菜おこわ」は無償寄託659条であり、自己物と同一の注意義務で足りるところ、鍵の施錠忘れで盗取されたことはこの注意義務に反するとはいえないから、「責めに帰すべき事由」がないと反論することが考えられる。
 しかし、以下の理由でこの反論は認められない。
  (1) 実質的に有償契約であること
 Hは、既に「和風だし」の寄託を受けて丙建物が有効活用されていること、丙建物にはなお保管場所に余裕があることから、「山菜おこわ」を無償保管している。
 仮に「和風だし」について保管料を支払っていなければ、「山菜おこわ」が無償で寄託されなかったといえる。また、「和風だし」と「山菜おこわ」を共に丙建物において保管されている。そうであれば、「和風だし」と「山菜おこわ」の寄託契約は密接に関連しており、「和風だし」の保管料は、実質的には「山菜おこわ」の保管料にもなっているといえる。
 したがって、Hは善管注意義務を負い、施錠忘れは当該義務違反である。
  (2) 特約の効力が拡張されること
 上述の通り、「和風だし」の寄託契約と「山菜おこわ」の寄託契約は密接に関連する。そうであれば特約の効力が拡張し、Hは善管注意義務を負い、施錠忘れは当該義務違反である。
  (3) 結論
 以上により、Hに責めに帰すべき事由が認められるため、Hの反論は認められない。
 2 損害の範囲
 Q百貨店で取り扱ってもらえなくなったことは通常生ずべき損害とはいえないため、416条2項によって処理される。
  (1) 416条2項は、損害が契約の保護範囲に含まれるかという契約解釈の問題ではなく、予想不能な損害について、賠償責任を負わせないとする相当因果関係の規定である。
 そうであれば、債務者が、債務不履行時に、特別な事情について予見可能であれば、特別損害に含まれる。
  (2) たしかに、「山菜おこわ」の寄託契約が成立した当時、Q百貨店に取り扱ってもらえるという事情はFH共に認識していなかった。
 しかし、平成24年1月22日にたまたまHが料亭「和南」を訪れた際、「山菜おこわ」をQ百貨店で取り扱ってもらえることになった事情をFから聞いている。そうであれば、H(債務者)は、「山菜おこわ」が滅失した時点(債務不履行時)で、「山菜おこわ」がQ百貨店で取り扱われるという事情(特別な事情)について予見可能であった。
  (3) したがって、特別損害として、Q百貨店で取り扱ってもらえなくなったことについての損害賠償を請求することができる。  以上

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