設問1
第1 課題(1)
 1 Yの解釈
 本件定めは「本件契約に関する一切の紛争は、B地方裁判所を・・・管轄・・・とする」と記載されており、管轄裁判所をB地方裁判所に絞る一方で他の裁判所を管轄にできるとは書かれていない。そのため、B地方裁判所に専属的合意管轄があり、A地方裁判所は管轄裁判所から排除されるとYは解釈している。
 2 別の解釈
 本件定めはたしかにB地方裁判所のみを管轄裁判所にするようにも読めるが、本件契約の契約書はYが用意したものであることからすれば、Yとしては専属的合意管轄であることを明確にするために「B地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする。」と定めておけばよかったのであり、そのような記載をしていない以上、他方当事者に不利益となる専属的合意管轄と解釈すべきではない。
 そうであれば本件定めは付加的合意管轄と解釈すべきである。
第2 課題(2)
 本件訴訟は、審理の負担等を理由に民事訴訟法(以下省略)17条を類推適用してA地方裁判所で審理されるべきではないか。
 1 規範
 17条は、訴訟の著しい遅滞等を理由に裁判所による移送を認めるものであり、16条による移送を排除して自庁処理を認める規定ではない。しかし、同条の趣旨は、審理に適した裁判所に訴訟係属させることにあるところ、仮に16条により移送された後に17条直接適用により元の裁判所に移送するとすれば迂遠であるから、自庁処理を求める場合には同条が類推適用されると考える。
 2 あてはめ
 Xの居住地、Lの事務所、YのA支店はA市にある。A支店は、Xと直接本件契約を締結した支店であり、A支店の従業員は重要な証人になる見込みがある。本件車両はA市に所在するXの自宅にある。一方、A市中心部とB市中心部との間の距離は、約600kmであり、公共交通機関を乗り継いで約4時間掛かるため往復するのに1日掛かりとなる負担がある。
 以上により、「当事者」「証人」の「住所」、「検証物」の「所在地」等の観点から、B地方裁判所で審理をすると「訴訟の著しい遅滞」が発生するといえるため、17条の要件をみたす。
 よって、17条の類推適用が認められる。
 3 結論
 よって、本件訴訟はA地方裁判所で審理されるべきである。
設問2
第1 自白の成否
 1 規範
 自白によって不可撤回効・証明不要効という重大な不利益が生じるため基準を明確にすべきことおよび間接事実は証拠と同質でありその評価は自由心証主義(247条)により裁判官に裁量があることからすれば、自白とは、相手方が証明責任を負う主要事実に限られると考える。
 2 あてはめ
 (1)元の請求について
 元の請求の訴訟物は履行遅滞による契約解除(民法541条)に基づく原状回復請求権としての代金返還請求権でありYが債務の履行をしなかった(契約不適合)ということはXに立証責任がある主要事実である。
 売買の目的物である本件車両が本件仕様を有していなかったという⑤の事実は契約不適合を直接示す事実であり、④の本件事故が起きた事実は本件車両が本件仕様を有していなかったことを推認させる事実である。したがって、⑤の事実を推認させる間接事実にすぎない。
 (2)追加された請求について
 追加された請求の訴訟物は債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項)であり、債務不履行と損害の発生との間の因果関係があることについてはXに立証責任がある主要事実である。
 ④の事実は、⑤の事実による債務不履行によって本件事故が起き損害が発生したという因果関係を直接示す事実である。したがって、Xが立証責任を負う主要事実である。
 3 結論
 よって、元の請求においては④の事実について自白は成立しないが、追加された請求においては自白が成立する。
第2 不可撤回効の有無
 1 規範
 自白によって不可撤回効が生ずるのは、不可撤回効が生ずることに関する相手方の信頼保護および自白者が不可撤回効が生ずることを認識しつつあえて自白を行ったことに対する自己責任(禁反言)からである。そこで、相手方の信頼を保護する必要がなく、不可撤回効が生じることについて自白者に落ち度がない場合、不可撤回効は生じないと考える。
 2 あてはめ
 元の請求時点では上述のとおり自白が成立しないから、Xに関し④の事実について証明不要効に対する信頼を保護する必要はない。
一方、Yは不可撤回効を認識しつつ④の事実を認めたものではなくYに落ち度はない。
 3 結論
 よって、不可撤回効は生じないため、Yは④の認める旨の陳述を撤回できる。
設問3
 本件日記は220条1、2、3号には該当しない。また、4号の拒絶事由の内、イ、ロ、ハ、ホには該当しない。そこで、ニの自己利用文書に該当しないか検討する。
 1 規範
 自己利用文書が拒絶事由とされているのは、個人のプライバシー等を保護および事後的な提出を強制されることで文書作成の萎縮効果が生じることを防ぐ目的である。
 この趣旨から、①内部文書性が認められること、②開示による不利益が生じること、③開示を認めるべき特段の事情が存在しないこと、の観点から自己利用文書に該当するか判断する。
 2 検討
 (1)日記であること
 提出命令の対象は日記であり、日記は本来外部に公開することを予定していないため①内部文書性が認められ、また自身の体験を赤裸々に記載するものであるからプライバシーの侵害という②の不利益が認められないか問題になる。
 この点について、本件日記の記載部分は、事実の報告をするものであり②プライバシー侵害が認められない、記載部分は第三者では立証困難な会社内部の事情を明らかにする重要な唯一の証拠ともいえることから③開示を認めるべき特段の事情が存在するかという点を考慮する必要がある。
 (2)Zが開示を拒んでいること
 Zはプライバシーを理由に証拠提供を拒んでおり、①内部文書性および②プライバシー侵害という不利益が認められるか問題になる。
 この点について、本件日記の作成者はTであり、Zは相続人とはいえ作成者ではない点を考慮する必要がある。
 (3)Tが既に死亡していること
 作成者であるTは既に死亡しており、Tのプライバシー侵害はなく②の不利益が認められないか問題になる。
 この点については、仮に死亡後であれば容易に文書提出命令が認められるということになると、生前の作成行為に萎縮効果が生じるという不利益が想定されるため、これを考慮する必要がある。   以上

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