H24司法試験 憲法
第1 〔設問1〕
1 提起すべき訴訟
Dは、A寺への助成が政教分離(憲法(以下省略)21条1項、3項、89条)に反することを理由に訴えを提起したい。
もっとも、政教分離は国家の宗教への中立性を要求する制度的保障にすぎず、個人の権利を構成するものではないため、国家賠償のような主観訴訟を提起することはできない。
そこで、客観訴訟として、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、B村知事に対し、A寺への助成は政教分離違反で無効であるから、A寺に対し不当利得返還請求権(民法703条)を行使せよとの訴訟を提起すべきである。
2 憲法上の主張
政教分離に反するとは、①宗教団体に対し、②助成等が行われることである。もっとも、一切の助成を禁ずることは、逆に宗教を理由とした差別につながり不当であるから、(ⅰ)目的、(ⅱ)効果から、国家と宗教の過度のかかわりを生じさせるものが政教分離違反であると考える。
(1) ①A寺が宗教団体に該当すること
A寺は、C宗の末寺であり、墓地を所有している。A寺の沿革および墓地が亡くなった人の遺骨を埋蔵し、個人を弔うものであることから、A寺は宗教団体といえる。墓地は先祖の供養という人倫の大本といえる行為の場であるが、そもそも先祖を供養するということが、教的である。
(2) ②助成について
ア (ⅰ)目的
助成の目的は、A寺が、村の唯一の寺であり、A寺だけが大きな墓地を所有していることから、その再建を急ぐことにある。
上述の通り、墓地は宗教的活動を行う場である。
そうであれば、A寺への助成は、宗教を助長するものであるといえ、国家と宗教との過度のかかわりを生じさせる。
イ (ⅱ)効果
墓地が公共的性格を帯びることを理由に助成が許されるとしても、墓地の整備のための助成として2500万円の助成をすることはあまりにも高額すぎる。
また、墓地の再建が許されるとしても、庫裏は住職の住居であり、墓地の再建とは関係がない。さらに、本堂は村民の相談等が行われる場所であるが、本堂でなければできないというわけではなく、目的を達成するうえで不可欠のものではない。本件火事によって、製材工場やその関連会社の建物が全焼した中、A寺を優先して助成するにあたり、必要性のない助成を執行することは、A寺を優遇しすぎる効果が発生する。
したがって、国と宗教の過度のかかわりを生じさせる。
(3) 結論
以上により、政教分離に反し、本件助成は違憲無効であるから、Dの訴えは認められる。
第2 〔設問2〕反論を踏まえた私見
本件助成が政教分離に反するかは、まずA寺が①宗教団体に該当し、②助成等が行われたといえるかによって判断する。②助成については、一切の助成を禁ずることは、宗教に対する逆差別になることから、(ⅰ)目的、(ⅱ)効果から過度に国と宗教とのかかわりを生じさせるものが政教分離に違反すると考える。この点は、原告の主張と同じである。
1 ①A寺が宗教団体に該当すること
原告のいうとおり、A寺は、沿革および墓地を所有し埋葬・埋蔵という宗教的な活動をする施設であるから、宗教団体に該当すると考える。
(1) これに対し、被告から以下の反論が考えられる。
宗教団体とは、特定の宗教を信仰する団体をいう。
A寺は「宗旨・宗派を問わない」と記載したパンフレットを配っている。C宗の規則で、他の宗旨・宗派の信者からの希望があった場合、当該希望者がC宗の典礼方式で埋葬または埋蔵を行うことに同意した場合にはC宗の方式が採られるが、これは、墓地、埋葬に関する法律13条に基づく要請に従っているだけで、A寺が自主的にC宗の方式を行っているわけではない。また、村民の相談も行う公共的な存在でもある。したがって、特定の宗教を信仰する団体とはいえず、宗教団体には該当しない。
しかし、この反論は適切ではない。
(2) 政教分離は国と宗教との過度のかかわりを禁ずるものである。そうであれば、客観的に見て、特定の宗教を信仰していると認められれば宗教団体に該当すると考える。
A寺は、「宗旨・宗派を問わない」としているが、現実的には求めに応じてC宗の方式で埋葬または埋蔵を行っている。これが墓埋法の要請であろうと、客観的に見ればC宗という特定の宗教を信仰している施設といえる。
また、公共的な活動をしていることを理由に宗教性が減少することは考えられるが、それのみをもって宗教的性格を帯びなくなるものではない。A寺は上述の宗教的行為を行っており、村民の相談等は、また別個の活動であるので、A寺の宗教性は否定されない。
したがって、宗教団体に該当する。
2 ②助成について
(1) (ⅰ)目的
ア 被告からは以下の反論が考えられる。
墓地の再建は、先祖の供養という人倫の大本といえる行為の場を復活させるためにある。また、村民の交流の場を復活させる目的もあり、これには当然宗教的意味はない。
したがって、宗教的な目的はなく、国と宗教との過度のかかわりを生じさせるものではない。
この反論は適切であると考える。
イ 上述の通り、政教分離は、宗教との過度のかかわりを禁ずるものであるから、仮に、問題となる行為が本来的に宗教的な意味を有するとしても、それが世俗化されているのであれば、過度のかかわりが生ずるものではないため、宗教的目的を有さないと考える。
原告は、先祖の供養がそもそも宗教的行為であるというが、墓参り等は、特定の宗教を信仰しているか否かにかかわらず、日本国民の多くが行う行為となっている。
また、B村では、C宗の檀家でない者もいるが、A寺がC宗の方式で埋葬等を行うことを知りつつ、多くの村民がお墓を建立している。
そうであれば、先祖の供養に対して、特定の宗教を信仰するというような宗教的な意味付けはなされていないといえ、世俗化されているといえる。
したがって、宗教目的を有しているとはいえず、特定の宗教との過度のかかわりを生じさせるものとはいえない。
(2) (ⅱ)効果
ア 仮に目的が世俗的であったとしても、生じる効果によって過度のかかわりが生じるとすれば政教分離に反する。
被告からは、目的が世俗的である以上、政教分離違反とはならないとの反論が考えられるが、過度のかかわりを禁ずるという趣旨からは、効果が過度のかかわりを生じさせるものといえれば政教分離に反するといえる。
以下、費用項目ごとに分けて検討する。
イ 墓地の再建費用
先祖の供養は世俗目的であるため、墓地の再建費用はかどのかかわりを生じさせる効果を生じさせない。
ウ 庫裏の再建費用
(ア) 被告からは以下の反論が考えられる。
庫裏は住職の住居であるが、墓地を管理するためには住職が住居を構えることが必要であり、また、火災が原因で檀家からの寄付によるA寺の再建が困難であるという事情の下では、4000万円という費用も高額とはいえない。
この反論は適切であると考える。
(イ) 被告のいうとおり、上記の費用はともにやむをえない支出であるといえる。このような支出をなすことによって、客観的に見て過度のかかわりを生じさせるものとはいえない。
したがって、助成の効果により過度のかかわりを生じさせるとはいえない。
エ 本堂の再建費用
(ア) 被告からは以下の反論が考えられる。
本堂は、村民の交流の場であり、宗教的意義を有さない。したがって、過度のかかわりを生じさせるものではない。
この反論は適切であると考える。
(イ) 政教分離の趣旨からは、原告のいうような厳格な必要性まで求められず、客観的に見て過度のかかわりが生じるものだけが禁じられる。
本堂は交流の場として使用されており、宗教的な意味はない。また、火災によって工場等も消失しているが、企業が営利を目的とするものであるのに対し、A寺は、村民の心のよりどころになっている。C宗の檀家ではない村民も、A寺で交流しており、公共的な存在といえる。また、上述の通り、A寺は自ら再建を行うことが難しい状況であるから、企業に優先して助成を行ったとしてもやむをえない支出といえる。
したがって、過度のかかわりを生じさせる効果は有しない。
3 結論
以上により、いずれの助成も政教分離に反するものではないため、Dの請求は認められない。 以上