設問1
第1 課題1
 Y2の主張が認められるためには、民事訴訟法(以下省略)135条の要件をみたす必要がある。
 1 規範
 将来給付請求を広く認めると、顕在化していない紛争の審理を求めることになること、被告が将来的に防御をするには請求異議の訴えを提起しなければならないことという弊害がある。そこで「あらかじめその請求をする必要がある」かは、将来権利が発生することが確実であり、かつ現時点でこの請求権を行使する必要性が認められる場合であると考える。
 2 あてはめ
 敷金返還請求権は賃貸物件の明渡しまでに生じた一切の賃借人の債務を控除した残額について生じる(民法622条の2第1項)ものであるから明渡しまで具体的な金額が確定しない。さらに、賃貸借契約を終了させる解除権行使は不可分であり(民法544条1項)Y2単独で行使することができないところ、Y1は本件契約の継続を望んでおりこの場合には敷金返還請求権は発生しないこととなる。そのため、敷金返還請求権の基礎となる事実・法律関係が存在し、継続しているとはいえない。よって、将来権利が発生することが確実とはいえない。
 また、たしかにXはAからの金銭交付を礼金であると主張し、将来的に敷金の返還を拒む蓋然性が認められるが、上述のとおり、Y1が本件契約の継続を望んでいることによりそもそも敷金返還請求権自体が発生しない可能性もあり、発生するか否かがY1らの事情によるものであるにもかかわらず仮に請求が認められた場合にXに請求異議の訴えを申し立てる負担を負わせることは公平とはいえず、現時点で敷金返還請求権の行使をする必要性はない。
 3 結論
 よって、「あらかじめその請求をする必要がある」とはいえず、課題1の訴えは不適法である。
第2 課題2
 Y2は、本件建物の明渡し後に敷金の返還を受ける地位があることの確認の訴えを求めるべきである。
 1 確認の利益
 あらゆる訴訟物につき確認の利益を認めると対象が無限定になりまた確認の訴えには執行力がなく紛争解決の実効性を認めがたい。
 そこで、①対象選択の利益、②方法選択の利益、③即時確定の利益が認められる場合に限り確認の訴えが認められると考える。
 2 あてはめ
 (1)①対象選択の利益
 対象選択の利益とは、確認の対象が現在の法律関係の訴えであることをいう。
 敷金返還請求権は、将来的に行使するものであるが、建物明渡時までに発生した賃借人の債務を控除して残額がある場合に行使することができる、という条件付きの権利と考えれば現在の法律関係の訴えといえる。また、敷金の具体的な金額は本件建物の明渡し時に確定するものであるが、そのような金額を明示しない敷金の返還を受ける地位の確認であれば既に具体的に発生しているものといえる。よって、対象選択の利益が認められる。
 (2)②方法選択の利益
 方法選択の利益とは、他の形式の訴えよりも紛争解決に資することをいう。
 課題2においては、敷金請求権の将来給付の訴えが認められないことを前提としており、給付の訴えでは紛争解決ができないため、当該確認の訴えがより紛争解決に資するといえる。よって、方法選択の利益が認められる。
 (3)③即時確定の利益
 即時確定の利益とは、現時点で確認を求める必要があるほど紛争が成熟していることをいう。
 Xは、現時点においてAから交付を受けた金銭が敷金であることを争っており、将来的にY2が返還請求権を行使した際に支払いを拒む可能性が高いため、既判力により敷金の返還を受ける地位にあることを確認する必要がある。
 Y2が実際の権利を実現するためには、上記の将来請求の訴えとは異なり、強制執行のために新たに給付訴訟を提起する必要がある。Xはその際に敷金発生の事実や金額について防御権を行使することができ自ら請求異議の訴えを提起するなどの負担はなく、現時点で請求権の確認が認められても過度の負担は追わない。
 よって、現時点で確認を求める必要があるほど紛争が成熟しているといえ、即時確定の利益が認められる。
 3 結論
 以上により、当該訴えに確認の利益が認められる。
設問2
第1 心証形成の資料
 裁判所は「口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果」を心証形成の資料にできる(247条)。これらに対しては、双方当事者に反論の機会が与えられるからである。
第2 Y2の発言
 和解期日における発言は、他方当事者の同席が必要とされるものではなく、反論の機会が保障されたものではない。そのため、心証形成の資料とすることはできない。
第3 和解手続上の発言を心証形成資料とすることの問題点
 反論の機会が与えられないことにより、当事者の手続き保障が害され、また一方当事者の発言のみを聞くことにもなるから裁判の公平も害する。
 さらに、一方当事者の発言のみを聞くことで、裁判官がその発言をうのみにしてしまい、誤った判断に導かれるおそれがある。
設問3
第1 課題1
 1 本件訴訟の類型
 通常共同訴訟に該当すると考える。以下理由を述べる。
 (1)規範
 訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合は固有必要的共同訴訟(40条)になるが、それ以外は通常共同訴訟であると考える。
 (2)あてはめ
 本件建物は不可分な1棟しかないことから、Y1およびY2にとって合一にのみ確定すべきとも思える。
 しかし、本件訴訟は賃貸借契約の終了に基づく明渡し請求であるところ、賃借人らの明渡し義務は不可分債務であり単独で全ての債務の履行する義務がある。そのため、XとしてはY1またはY2いずれかに対し債務名義を取得すれば権利の実現ができるため、共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべきものとはいえない。
 (3)結論
 よって、通常共同訴訟に該当する。
 2 取下げの可否
 通常共同訴訟の場合、共同訴訟人独立の原則(39条)により、一方の共同訴訟人に対してした訴訟行為は、他方の共同訴訟人との関係において効力を有しない。
 したがって、一方当事者であるY2に対してのみ訴えの取り下げをすることは可能である。
第2 課題2
 1 共同訴訟における証拠調べの効果
 上述のとおり、共同訴訟人独立の原則により、本来はそれぞれの訴訟活動は独立に扱われる。
 しかし、証拠が提出された場合、歴史的事実は一つであり裁判官はその証拠から何らかの心証を形成する。そうであるにもかかわらず、その心証を別の当事者との関係では不存在とすることは、観念上可能であるとしても不自然な事実認定になるおそれが否定できない。
 よって、共同訴訟における証拠調べの結果は全ての当事者に影響を与える(証拠共通の原則)。
 2 取下げによる影響の有無
 訴えの取り下げにより、訴訟は初めから係属していなかったとみなされる(262条1項)。そうだとすれば、取り下げられた方の訴訟で提出された証拠も初めから提出していなかったことになるとも思える。
 しかし、上述のとおり、証拠に関しては、一度裁判所に提出されると裁判官が心証を形成するため、事実上、その効果を事後的に排除することはできない。
 よって、訴えの取り下げがあったとしても、既に提出された証拠には影響を与えない。
 3 結論
 以上により、Y2が提出した本件日誌の取調べの結果を事実認定に用いてよい。   以上

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