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新しい豊かさを求めて、新しい家をつくってみた話。

カウンターキッチン。意外と机の下の収納スペースが便利。

小さな一軒家をつくりました。

これまで住んでいた家は、2LDKのマンション。リモートワークも増え、4人家族で暮らすには手狭になってきたのがきっかけで、引っ越しを考え始めました。

けれど、都内のマンションって、さも当たり前のように、4人家族は70−90㎡ぐらいの3LDKの家を35年ローンで購入するもの、という前提でつくられ、その上で足元をみた価格設定がされているような気がする。。

その前提がある限り、どうしたって同じ顔つきをした間取りの、どこかの誰かがつくった幸せのロールモデルを踏襲する暮らし方になってしまう。。

そこで色々検討した結果、今回は狭いながらも土地を購入して、これからの時代の新しい豊かさってなんだろう、ということを自問自答しながら、都内に小さな一軒家を建ててみることにしました。

これからの時代の「豊かな家」って何なのでしょうか。

僕は決して、広大な土地で、豪華絢爛な暮らしをしたい、とは思いませんでした。もちろん広い家に住めるにこしたことはないですが、家族4人しかいないので、それ相応の広さがあればそれでいいと思いました。

なんなら大学時代、部活の合宿所にみんなでギュッと集まって住んでいたのが楽しかった思い出があるので、広々しすぎてガランとした寒々しい家に住むよりは、家族みんなでギュッと集まって合宿所生活をしているような家のほうが幸せを感じる自分がいました。(もちろん財力的にも、都内にそんな広い家は買えないという、どうしようも出来ない現実もあります涙)

また、僕は山が好きなので、山の近くの自然に囲まれた家にも興味があり、2拠点生活とか、山に近い郊外に住むことも検討しました。一度、温泉が常時湧いている箱根の家にトライアルステイをしている友達のところに泊まらせてもらったらとっても楽しかったので、温泉が湧いている家に住めたら、なんて豊かなんだろう、なんて思ったりもしました。

ということで、実際、自分の好きな八ヶ岳周辺の物件も見て回ったのですが、、、やはり現実的に検討していくと、なんだかんだ2拠点生活は結構なお金と時間がかかってしまう。そしてやはり、郊外に住むことは子どもの学校のことを考えると、少し非現実的でした。

これからの時代の新しい豊かさって何なんだろう。こうして色々検討していく中で、次第にみえてきた自分が欲しい豊かさは、「物質的な豊かさ」や「体験的な豊かさ」ではなくて、「関係性の豊かさ」なのではないかと思ってきました。

これからの時代、ウェルビーイングに暮らす上で欠かせないものは「つながり」と言われています。

「つながり」を生み出す家って、どんななんだろう。
家族ともっと豊かに繋がれる家って、どんな家なんだろう?
社会ともっと豊かに繋がれる家って、どんな家なんだろう?

最近では、会社の経営でも、財務指標だけでなく、非財務指標が重要視されてきています。

まさに目にみえない「関係性資本」が生まれ、溜まっていくような、そんな家の在り方を再発明してみたい、と思うようになりました。

そこで、立ててみたのは、以下3つの問いです。

①住むことを、ただローンを払うだけの消費行動ではなく、関係性を生み出し、社会とつながる、創造的で豊かな行為にする再定義するならば、家にどんなスペースがあるべきなんだろう?

②家族との関係がもっと豊かになる仕掛けを創るには、これまでの家の間取りの、どんなあたり前を疑い、変えていけばいいのだろうか?

③結果それは、これまでの「3LDK」に変わる新しい間取りのあり方の発明にできないだろうか?

この問いに対して、家族と、建築家の中村航さん(モザイクデザイン)と一緒に考えながら、プランを練っていきました。

結果、導き出したアイデアは、以下の3つになります。

①家に、社会とつながるための新しい空間「マイパブリックスペース」を創ること。

世の中との接点を家が持ち、新しい何かが生まれる機能を家が持つことで、ただ消費するだけの家とは違う意味がつくれるのでは、と考えました。具体的には今回、アーティストに限らず誰もが自由に自分を表現できる、小さな貸しギャラリーを併設しました。子どものレゴ展でも、近隣のおじいちゃんの写真展でも、なんでも企画できるスペースです。

②「テレビを真ん中に人が集うリビング」から「キッチンを真ん中に人が集うリビング」に変えてみること。

テレビとソファがあると、それだけで、ありがちな幸せの形になってしまう。でも一人一台スマホを持つ時代、テレビがあれば家族が集まるという形が今後変わっていく、と考えると、最終的に家族が集まるのは「食」なのではないか、という仮説から、かつて家族が集う場所だった囲炉裏をアップデートした、家族で囲むキッチンが主役の空間をつくりました。

③それぞれの個室に扉がない、ゆるやかに家族の存在を感じ、つながりあう新しい空間設計をしてみること。

せっかく家族みんなで住んでいるのに、それぞれが自分の部屋に閉じこもってしまうのは、なんだかちょっと寂しい。。個室なんだけど個室でない、新しい間取りをトライしてみました。

ということで、結果、とても提案性のあるお気に入りの家が出来上がりました。

具体的にご紹介すると、、

全部で3階建ての小さな家ですが、1階の半分は、社会とつながり、新しい何かを生み出す「マイパブリックスペース」に割きました。ここで社会や地域との関係性を生み出す新しい挑戦がこれから出来ればと思っています。

ギャラリースペース。どう活用するか、これから考えます。


そしてもう半分が、毎日の暮らしをサポートする楽屋としての機能を持つ「ライフバックヤード」。玄関、土間、収納、洗面所、バスルーム、クローゼット、トイレ、が1フロアにまとまっており、家に帰って、手洗って、着替えて、お風呂入る時も脱いだものをすぐ洗濯でき、洗濯した服もすぐに収納できる、という超合理的空間です。洗濯したものを他の階の部屋にまで持っていくという地味に大変な労力も軽減できる間取りになっています。

色々なものが収納できる土間スペース

2階は「キッチンリビング」。「テレビを真ん中に人が集うリビング」から「キッチンを真ん中に人が集うリビング」に変えるべく、特注のキッチンとダイニングが真ん中に配置されたワンルームに。建物自体は木造だけど、2階に鉄骨の梁を入れて補強することで、柱のない広々とした回遊型空間になっています。

実際住んでみて思いましたが、やっぱり話をしながら料理を作れるのって楽しい。壁に向かって黙々とつくるのではないカウンターキッチンって素晴らしいなって思いました。

キッチンとダイニングテーブルが一体化したトライアングルテーブル
ソファをなくしたものの、やはりぐで~としたくて、この後ヨギボー追加。

3階は「パーソナルプレイグラウンド」。それぞれの個室に扉がない、ゆるやかに家族の存在を感じ、つながりあう新しい空間設計ということで、なかなか斬新なスペースに。書斎やトイレや、バルコニーや屋根裏部屋につながるハシゴもあります。天井が高いので、開放感があって気持ちいいです。

寝室と書斎
境目がゆるやかな子ども部屋
変化があって面白い天井部
バルコニーにつながるハシゴ
屋根裏部屋は、子どもたちの遊び場に。

ということで、提案性のある家が出来ました。

僕らは知らないうちに、4人家族=3LDKという幸せ像を刷り込まれている気がします。消費することが幸せだった時代に、マイホームを持つことは最大の消費であり、最大の幸せでもありました。だからこそ4人家族なら3LDKで大丈夫、という、ある種の供給側の論理が押し付けられてしまっており、もはやそれ以外の間取りはマンションでは、なかなか見かけません。でも、これからの時代も、その幸せ像を踏襲しているままでいいのだろうか。そんな問いからはじまった小さな一軒家づくりのプロジェクトは、結果として、「リレーション」という言葉が大きなキーワードになりました。

■家族が集う場所は、TV中心から、キッチン中心に変わっていくからこそ、家族が吸い寄せられるキッチンの存在感を最大化させたスペースに。<家族リレーション>

■個室が家族の分断を生まないようにする、「心地よいゆるやかなリレーションが感じられる個室空間」という考え方を、個室の空間設計に持ち込むこと。<個人リレーション>

そして何よりも、

■生活空間を少し削ってでも、「社会とつながるマイパブリックスペースを家に持つ」こと。それによって、家を消費物から、創造装置へと変えていく。<社会リレーション>

3LDKから3R(Relation)へ。

家を、「財務資本を減らしていくもの」から「関係性資本を増やしていくもの」にしていく。

これからの家のあるべき形、家族の幸せの形を、この家を通して表現していきたいと思います。

企画:esbok+yuki
建築家:中村航(モザイクデザイン代表)
構造設計:金田泰裕(yasuhirokanedaSTRUCTURE)
施工:東京組
photo by takuyaseki

<建築家中村さんのこだわり>
■敷地を斜めに横切る用途地域境で建物をカットして耐火建築となることを避け(防火地域側に建物がかかると耐火建築物としなければならずコスト増)、同時にポケットパークを作りだす。
■2・3階では最大に床面積をとりながら、1階は駐車スペース確保するために壁を斜めにカット。ちなみに斜め壁の角度は60度で、耐震のための壁にもなっている(60度より角度が小さいと壁量に加算できない)
■2つの道路からの道路斜線で屋根の勾配は決まっている→結果的に立方体を4回縦横斜めにカットすると生まれる多面体形状となっている

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