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宇野維正先生考察第五十四段 FM COCOLO WHOLE EARTH RADIO 2021/12/19 ON AIR 「田中宗一郎 宇野維正が2021年の音楽シーンを語り倒す、 必聴の1時間」出演回の宇野先生

この回の宇野先生考察は恒例のFM COCOLO WHOLE EARTH RADIOでの宇野先生とタナソーの対談からの発言をピックアップしていきます。毎回、大阪のトークショウに合わせて収録しているこの番組。今週は音楽で来週は映像作品だそうですが、音楽についての特集のまずはピックアップしていきます。



『はい、映画音楽ジャーナリストの宇野維正です』
『今回はFM COCOLOからラジオを聴いている皆さんに我々が注目した2021年の音楽、映画、ドラマシリーズなどの話をしながらこの一年のポップカルチャーはどのような物だったのか?と言うお話をしていければと思っています』
『今週は音楽についてです』
『今年、K-POPは除いて日本で一番かかった外国の曲はThe Kid LaroiのSTAY。流行ったよね』
『日本、割とありがちなのはエドシーランだとShape of youだっけ?ビリーアイリッシュだとBad Guyだっけ?曲だけ独り歩きして、それはそれで良い事なんだけど、もうその曲だけが当たるみたいになっちゃうとつまらないので僕からの一曲目の選曲はThe Kid LaroiのNot Soberを聴いて貰ってキッドラロイについて語っていければと思います』



『The Kid LaroiのNot Sober。これはPOLO Gとかラッパーのfeatしてるんですけど、キッドラロイまだ18歳なんですよね。ラロイと言うのは彼のカミラロイ族。オーストラリアのアボリジニーの出身だってところから来てるけど、元々アメリカの音楽シーンで名前が知られるようになったのは Juice Wrld。もう亡くなってしまいましたけど、彼のツアーのサポートとかをやったりして、それが15、6歳で。シーンで言うとエモラップと言われてるシーンから出てきたんだけど、日本での受け入れられ方はポップスター的だし、パフォーマンスとか観てるとオアシス的なロックスターなんだけど、まあまあけど彼が出て来てるのはエモラップのシーン。これを聴くとそれが良くわかると思うけど』



宇野先生without youを歌う


『エモラップのシーンから出て来たけど果たしてこれはエモラップなのか?』
『そもそもジャンルとしてなんなのか?って言う所はあるけど、注目して欲しいのは彼の歌い方なんですよ。オアシスとの比較で言うとオアシスは語尾を伸ばして歌う。without youは伸ばして歌うけど、だからオアシスっぽいんだけど、STAYとかNot Soberとかは彼のほとんどの曲は語尾のキレが良い。ビートをエディットするような感じでキュッ、キュッとなっていてもちろん韻も踏んでるしで、これはまあ歌い方とも言えるし、あるいはラップ的な言葉で言えば彼なりのフロウを持ってるとも言えると思うけど、彼とかポストマローンとかはラップミュージックの延長で歌うスタイルのフロウを更新して行っているシンガーだと思う。シンガーかラッパーか。もはやその二つには違いは無くなってるんだけど。これまでラップとロックの勾配はJAY-Zとかもそうだったけど、ロックバンドと一緒にやるとかギターのサンプリングするとか、音楽的な引用が多かったんだけど今のシーン、今のリスナーは実はフロウが更新されてロックリスナーにも聴きやすい。けど、ラップの流儀でやってるシンガーが現れて来てると言う。マシンガンケリーとかそうかも知れないし、日本だと(sic)boyとかも。これはちょっとキッドラロイにはそこまで当たらないけど、最近のラップはシャウトをするようになったじゃないですか。Playboi Cartiとか。シャウトはラップではご法度だった。韻を踏む音楽だから。だけど、日本のLEXとか聴いても分かる様に彼らはシャウトする様になった。実はラップとロックの境界上にある音楽の進化は実はフロウとかシャウトがそういう声が牽引していると言う聴き方をするとキッドラロイはめちゃくちゃ聴きやすいんだけど、新しさが分かるかな?と言うそういうお話』
『ちょっと心配なのは日本は本当にラップがオーバーグラウンド化しなかったままここまで来ちゃってるからアレなんだけども所謂、ポップで聴ける物でもラップミュージック、トラップでも良いけど通過した後の歌い方とその前の歌い方は明確に違っていて、そこを通過しちゃうとその前の奴はちょっと野暮ったくて聴けないと言うのが今の世界中の若いリスナーの感覚なんだと思う。そこはサウンドだけじゃなくて歌い方にも注目して欲しいと言う話でした』

タナソー「僕が選んだのはピンクパンサレス。」

タナソー「TikTokってやってる?」
『本当にたまに観るぐらい』

タナソー「Pink Pantheress - Break It Offです」





『これドラムンベースじゃないですか。毎回、名前が出るけどウィークエンドも前のアルバムで一曲ドラムスベースみたいな曲をやって流行る予兆とかはあったのかも知れないけど唐突感ありますよね』

『けどさ、90年代後半って今の若い子は生まれてないから全然新しい音楽として聴かれてるんだろうね。ピンクパンサレスもそうだけど』

『どっちもイギリスでは一世を風靡したけど、当時は地域別に分かれてたからドラムスベースと2ステップもイギリスでは流行ったけど北米とかでは流行らなかったよねビートミュージックとして』

『原動力がTikTokっていうのが今っぽい話だよね』

『キッドラロイもBTSのジョングクがカラオケで歌う動画を観てBTSのファンも聴くようになったとか結局流行りの震源地がTikTokとか動画コンテンツになってるのは我々はどうしたら良いの?』

『次、僕の二曲目はBad Bunny。プエルトリコのスーパースターですね』

『カーディBとかドレイクとも曲を出して北米やヨーロッパでもスーパースター。所謂、スペイン語を使うアーティストではトップなんですが、今年、日本語の曲を出した。日本では多少、ネタとして話題にはなったんですが、私はこの曲に射抜かれまして、今年の一曲と言ったらこの曲なんで。聴いてください。Bad BunnyでYonaguni』




『これを聴いた時に切なくて泣いてしまった。最後の日本語のパートで「今日はセックス したい。」このポリコレ全盛の時代にそんな事歌う奴いないですよ。なんだお前は!って』
タナソー「ブルーノマーズはいますけどね」

『初めて聴いた時は日本語だって知らないからさあ。急に言われた時のビックリした感じ。でも、その後に「でもあなたとだけ」って急にプラトニックが来る訳ですよ。その順番!?みたいな。その後に「どこにいますか?」って、えっ!?どこにいるか知らないのにそんなこと言ってるの?って。それが与那国?みたいな。なんで与那国なのか、歌詞を読んでもMV観ても分からないんだけど、全盛期の阿久悠にも書けなかったこの極上のセンチメントをいきなりプエルトリコのスーパースターが歌ってるって言うね。私はそれに撃ち抜かれたんですが。本当にバッドバニーって可愛くて可愛くて。この曲もそこに入る前に、彼は盛り上がってくると自分の名前を言うんですよね。バッドバニー バババー、バッドバニー ワワワーって言うんですよね。そんな奴いる?って。盛り上がるとそうやって自分の名前を言う。可愛い。それは世界中の女性が虜になるのも分かる。現在、27歳なんですけども今年だとワイルドスピードにもチラッと出てたりとか、曲も提供してましたが、あとNetflixだとナルコス メキシコのシーズン3に出てますよ。マフィアの役で。そんなに大きな役ではないけど、予告ではバッドバニー推しみたいな。本当にスーパースター。でも、日本では北米のスーパースターでさえ知名度が限定されるドレイクにせよカニエにせよ。プエルトリコのスターって更にもう一段階あるじゃないですか。だけど確実にやっぱりスペイン語の人口は増え続けていて。それは北米でも。スペイン語で歌うセレーナゴメスとか。スペイン語アルバムの需要は昔からあるけど、一番新しい所だとロザリアとウィークエンドとか。どの話でもウィークエンドが出てくるのは流石だなと思うけど。ウィークエンドもついにスペイン語で歌う。スペイン語が英語と並ぶぐらいのグローバルな言葉となった中でもう少しスペイン語のポップソングも日本で聴かれるようになって欲しい。デスパシートみたいに。プエルトリコのスターとかが日本でも認知されて欲しいなあと思ってる』


日本では同じようにグローバルスターになって来たBTSの存在があって、ある種、日本でもK-POPが強い訳で。K-POPブームって実はスペイン語だけじゃなくて所謂、洋楽と呼ばれる音楽をかつてなら聴いていたであろう人たちも吸収してしまいそれによって英語圏のポップミュージックのマーケットが痩せ細ってしまう問題があって良し悪しだと思うけど、ただまあ普通にポップチャートに英語とスペイン語と韓国語が並ぶ時代にもう少しスペイン語の曲が聴かれて欲しい。と言うかバッドバニーの可愛さに気付いて欲しい。』
『日本の場合は歌謡曲はラテンミュージックを重要な参照な元にしていた。だからレゲトンっぽいことをやってるグループもありますけど、バッドバニーがヨナグニで日本語で歌ってるように実な感性としてはアングロサクソンよりラテンの方が日本人にはメロディの好みとかも本当は近いはずなのでそう言うところでも色々なヒントになりえるんだろうなと。』

タナソー「4曲目はアデルの新作ですね。」
『素晴らしかったね』

タナソー「Adele の Love Is A Game」





『待たされただけの事はありましたね、アデルは』

『この曲のクレジットのボーカルがアデルしかなくて子供っぽい声も全部自分でやってるのかな?凄いね。宇多田ヒカルみたいだ』
『日本だとなかなかこう言うアルバムが生まれないのはタイタップでシングルを積み重ねて行って、それで最終的にアルバムで帳尻合わせる。全部新曲のアルバムってなかなか出来ないじゃん。アルバムってこういうものだよなあって』
『一曲目はルドヴィックゴランソン。チャイルディッシュガンビーノの音楽的パートナーがやっている』
『スウェーデンの音楽プロデューサーなんですが、いきなりブラックパンサーの音楽を手掛けてクリストファーノーランにも気に入れられて映画音楽家としてもトップオブトップになった。』
『インフロはアデルと歳も出身地も一緒ノースロンドン』
『アデルの曲の作り方は相当、密接にプロデューサーと同じ時間を過ごして一緒に生活する事で作る。だからこんなに時間がかかるらしいんだけど』
『そんなことしている間に重要な仕事を沢山してるインフロは只者じゃない。今後、どう言う仕事の仕方をしていくか分からないけど最重要プロデューサーに名乗り出たと思う』
『今年はビリーアイリッシュのセカンドアルバムとか色々あったけど最後アデルが全部持って行ったなと思った』
年々注目度は下がってますけどグラミー賞。アデルの作品は来年の対象ではなく再来年の対象になりますけど。再来年賞レースはアデル一色になるだろうから憂鬱なんですけど。別にアデルが嫌いな訳じゃないけど賞との相性がよすぎるから。だってこれレコード業界のお爺さんとかも大喜びする音楽じゃないですか。けど、若者も聴ける古臭い音楽じゃない所が凄い。余りにも万能カードなんで最後に全部持って行ったなと言う感覚はありつつ』
『僕は今年はカニエウエストのドンダ推しですけどね』

『今日の四組は結果的にアメリカのアーティストはいなかったけどそれで全部語れちゃう感じはしたね。凄いよね』
『世界でいまどんな音楽が流行ってるのかを伝えるルートは無くしたくないですね』
『来年も頑張りましょう。』
『ありがとうございました。宇野維正でした』


【総評】

以前からバッドバニーの魅力を語りたいと言っていた宇野先生。ついてのっここで語ることが出来ました。本当にバッドバニーについて語るときは嬉しそうです。

個人的に気になったのはバッドバニーのYONAGUNIを聴いて泣いたという話ですね。先日、「泣いたとか言いたくない。おじさんの涙なんて何の価値もないと言われてしまったから」と言っていた宇野先生がわざわざ泣いたと公言するとはバッドバニーの魅力は恐ろしいです。

宇野先生が言っていたK-POPブームによって本来なら洋楽のスターに憧れるはずだった層がK-POPスターに食われてしまっているという分析はなるほどと思いましたね。確かにBTSブレイク以降洋楽のポップスターの日本での人気は陰りがちかも知れません。

あと、相変わらずの宇野先生のヒッキー好きにグラミー批判といつもの宇野先生らしいところも出てましたね。

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