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【就職への最短距離を学ぶ】”ぎせんこう”を訪問

枚方市の「津田サイエンスヒルズ」という静かで自然豊かな丘の上に、大阪府立北大阪高等職業技術専門校(ぎせんこう)という職業訓練校があります。

一般の人にとって、高校や大学ほど馴染み深い学校ではないかもしれません。

ここではどんな授業が行われているのでしょうか。
工業高校とどう違うのでしょうか。
生徒の就職活動はどのように進められているのでしょうか。

そういったお話を伺いに、副校長の山本哲也さんを訪ねました。
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大阪府が運営しているこのぎせんこうには、今回、訪問した北大阪校の他に、東大阪校、南大阪校、夕陽丘校などがあります。

以下インタビュー形式です。

実務直結を一年間みっちり

ーー北大阪校のカリキュラムの概要を教えてください。

北大阪校の主なカリキュラムは大きく
機械系の3Dモデルクラフト科
制御系のロボテックオートメーション科 、ICTプログラミング科 
建築系の建築設計科、建築インテリア科、建築設備料
ワークトレーニング科
の四つの領域に分かれています。

3Dモデルクラフト科は、主に3Dモデル機械加工の2分野を学びます。パソコンで様々な製品の図面(CAD)を作成して、それをもとに金属やプラスチックを加工していくという流れで、3次元CADや3Dプリンタを使った製作も体験できます。

ロボテックオートメーション科では、現在さまざまな企業の工場で進んでいる製造ラインの自動化に必要な制御盤配線やプログラミング、ロボット制御などの技術を学びます。今後、多くの需要が見込まれる分野です。

ICTプログラミング科では、洗濯機やポットなど、日常生活で使っている製品を制御しているプログラムや電子回路の技術を習得します。IoT機器のソフトウェア開発技術も学びます。この分野の仕事をするようになれば、自分で製作した家電製品を目にする機会があって、達成感を味わえることが多いと思います。

建築系の3科目、特に建築設備学科では、住まいに絶対必要な「水道」「電気」「ガス」などの設備について、施工管理やメンテナンスの知識と技術を学びます。最近は住宅よりも大規模なビルの分野で人材不足がより顕著なので、そちらを想定してカリキュラムを組んでいます。就職先も、小さな工務店というよりは少し大きな建設会社を意識した内容です。

また、ワークトレーニング科は、15歳以上の知的障害のある方が対象で、清掃作業、木工作業、物流作業などの体験を通して、自分の適性を見つけたり、仕事で必要な習慣を身につけてもらいます。

どの科目も未経験者を想定していて、基礎からしっかりやっていきます。

ロボテックオートメーション科の多関節ロボット

ーーどんな生徒さんが多いですか。

18歳以上の方が対象で、年齢の上限はないため、幅広い年代の方が通っています。例えば、30歳になったけど、今の仕事を40,50歳まで続けて大丈夫かと不安を感じて別の仕事を探す中で、当校を見つけて来られるような方や、新たな分野へ就職するために専門的なスキルを身に着けたい方などが比較的多いですね。高校を卒業してすぐ入学する人は減っています。年によっては60歳代の生徒さんがいることもあります。

ーー工業高校との授業内容の違いを教えてください。

工業高校は文科省の所管ということもあり、社会科など一般的な科目も学びますが、当校では実務に直結することを集中的に学びます。工業高校で3年かけて学ぶような内容を1年でギュッと縮めて習得するイメージです。その点は大きく違うと思います。

座学もありますが、約7割が実習です。卒業後に現場で通用するように、実際にモノに触れながら進める授業が多いです。

すぐ働きに行きたいけど、いきなり社会に出るのは自信がなくて、まず技術を身に着けたり社会経験を積みたい人もいると思います。特に高校生は、同世代以外の人と関わる機会が少ないため、社会性を身につける意味でも、ここで幅広い世代の人と一緒に学んでみるのはどうでしょうか。

ーー勉強する期間はどれくらいですか。

北大阪校のカリキュラムはすべて1年間です。

学校に通う期間には、資格試験を受験する費用などが必要になります。条件を満たす人のみですが、雇用保険の延長給付や、国の給付金を受けることができます。

1年という期間を確保するのは、簡単ではないかもしれませんが、数か月や半年ではなく、1年間みっちり打ち込むからこそ基礎から応用までをしっかり身につけられる面もあります。

ミスマッチを減らす就職活動

ーー生徒の就職活動について教えてください。

9月くらいから、4月に入学した生徒の就職活動が本格的に始まります。企業側も同じ頃から動き始めるところが多いですね。

普段の授業を通じて生徒のスキルを把握している担任の先生に加え、就職支援担当者が生徒の希望を聞きながら、ハローワークの求人など様々な情報の中から最適な選択肢を一緒に探していきます。

それまでに、厚労省が推奨しているジョブカードを利用してキャリアの棚卸しをして、自分の強みや弱みを整理してもらうサポートを行います。

また、ビジネスマナーや心構えについても基本から指導します。社会経験のある方にとっては既知の内容になるかもしれませんが、履歴書の書き方など基本的なことができていない人もいるので、そういうところからしっかりフォローしていきます。

毎年、今頃には、ビジネスマナーの講習を終え、応募書類の準備が整っている状態です。

ーー何社くらいの企業とやりとりがありますか。

昨年は300社から400社の企業様から、求人の提供を受けたり、求める人材についての話を聞きました。

求人をいただいた企業様には、できる限り生徒が応募する前に見学をさせていただくことをお願いしています。工場や会社の雰囲気を見た上で受験するかどうかを決められるので大きなメリットと言えるのではないでしょうか。

希望が多い企業様にはこちらに来てもらって話を聞く機会を設けることもあります。

企業様がハローワークと当校の両方に求人を出すこともありますが、当校の訓練内容、生徒の年齢やスキルを把握した上で出していただく当校専用の求人もかなりの数あります。

こうした流れでマッチングを進めて、採用可能性を高めたり、ミスマッチの減少に努めています。今年もすでに内定をもらっている人が何人かいますよ。

認知を広めていきたい

ーー今後、力を入れていきたいことを教えてください。

やはり、社会で求められる技能や技術を身に着けた、ものづくり人材をひとりでも多く社会に送り出したいですね。

現在の在籍生徒は63名。定員は約170名ですから、まだ受け入れられる余裕があります。去年の約70名、一昨年の約120名と比べると減ってきています。

最近の少子高齢化や若者のものづくり離れの影響もあり、好景気のためハローワークで仕事がみつかりやすい時期には、応募者があまり伸びない傾向が見られます。

大阪には製造業の中小企業が多いため、ものづくりに携わる人を育てるという役割も担っています。その意味でも求人をいただいている企業様により多くの人材を送り出したいです。

そのため、より認知を広げることに力を入れていきたいと考えています。ハローワークに登録して求職活動をしている方への認知度もまだ高いとは言えず、それ以外の方の認知度はもっと低いと思います。高校生にはあまり知られていないのではないでしょうか。

ハローワークでの広報活動に加えて、さまざまな場所にチラシを置いたり、SNSで情報を発信したり、体験イベントに参加したりして、認知度を高めていきます。


編集後記

訪問して話をお聞きして、たくさんの気づきがありました。そのうちの一つを書きます。

2013年に北大阪校が設立されて以来の最も大きなカリキュラムの変更は、約4年前に金属製品の溶接、切断、曲げ加工、穴あけなどを扱う金属系の科目がなくなって、東大阪校に統合されたことだそうです。

金属関連の分野は、「きつい、汚い、危険」のイメージが強くて、企業のニーズが高いものの、就職を希望する人が少なくて、なかなか定員が埋まらない状況です。そのため、金属系の企業が集積する東大阪で、地域の企業と連携しながら、業界に求められる人材を一元的に育成するため、統合されたとのことでした。

パンフレットを見ながら、その東大阪校の「ものづくり金属科」の話を聞いていて、ハッとさせられました。

一瞥して、昔ながらの溶接工場向けの訓練内容というイメージを持ちましたが、どうでしょうか。

以下の説明を聞いて、そのイメージがガラッと変わりました。

ものづくり金属科では、基本実習として「手溶接」や「半自動溶接」を行い、その応用としてロボットに溶接作業を教える実習があります。その際に、自らが溶接作業をした経験が非常に役に立つ。

パンフレットにも、先端機器(溶接機・レーザー加工機)の操作まで学べると書かれていますが、うっかり読み落としそうです。溶接をロボットに教えているシーンを見てみたくなりました。

誌面だけで伝えるのは難しくて、現場を見学したり、担当の方の話を聞いたりすることではじめて気がつける視点が、他にもたくさんあるのでしょうね。







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