血液ガス分析を行わず酸素投与するリスクについて 大阪府宿泊療養施設の担当者(医師)に聞いた


以下報道にあるように、大阪府は4月下旬から新型コロナ患者用の宿泊療養施設に酸素を投与する機器の配備を始めている。容体急変時に一時的に対応できる体制づくりとのこと。



しかし、酸素投与にはメリットだけでなくデメリットもある。
例えば、以下の医院HPでは、「呼吸不全には動脈血液中のCO2量によってI型呼吸不全(正常内か低値)とII型呼吸不全(高値)に分けられます。問題は後者で、高濃度の酸素を投与するとCO2の量が一気に増加し意識消失、死に至るCO2ナルコーシスという状態に陥ります。そのためには動脈血液中のCO2を測る必要があります。この場合には動脈血ガス分析装置が必要となります。」と、酸素投与時に血液ガス分析で二酸化炭素の量を把握しておく必要性が説かれている。




血液ガス分析を行わずに酸素投与を行うリスクについて、医師の立場で大阪府のコロナ患者宿泊療養施設における酸素投与について指示を出している健康医療部感染症対策支援課のヒラヤマさんに電話で聞いた(6月22日)。以下、再質問も含めた内容の要旨。

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酸素投与は肺への医療行為なので、メリットだけでなくデメリットもあることを私ども十分理解しています。酸素投与を行った場合に起こり得るリスクとして一番懸念されるのは、「CO2ナルコーシス」と言われる現象です。私たちは酸素を吸って二酸化炭素を吐くことで体の組織をコントロールしていて、体内の二酸化炭素のレベルによって、呼吸したいとかしなくてもいいというスイッチを切り替えています。例えば、タバコをよく吸われる方に多い病気で慢性閉塞性肺疾患というものがありますが、おおむねその患者さんは体の中に二酸化炭素がたまりやすい状態にあると言えます。そうした二酸化炭素がたまりやすい状態にある方、またはたまってしまっている状態の方に酸素を投与すると、それが引き金となって体が呼吸しなくていいと反応する可能性があり、命に関わる事態を引き起こしかねません。その防止ために、血液ガスを動脈から採血し、体内の酸素だけではなく二酸化炭素の値も把握することで酸素投与の安全なマネジメントができます。

私どももその点を十分理解しています。宿泊療養施設における酸素投与は、ここで治療を完結する目的での行為ではなく、病院での治療につなぐための暫定的な救命措置として行っているもので、症状が改善するまでここで何日間も酸素投与することを前提としていません。具体的に安全性を担保する方法ですが、現場の看護師と協力しながら、濃厚な喫煙歴はないか、肺の疾患を指摘されたことはないかなどの病歴の聴取を確実に行い、あらかじめリスクを把握します。さらに、呼吸状態の確認のため、患者さんには必ず一人一台のパルスオキシメーターを貸与し、看護師の指導のもと一日3回、動脈血酸素飽和度(SpO2)の数値をチェックします。その数値と、患者さんが1分間にどれほど深く呼吸をしているか、1分間に呼吸回数がどれくらい増えているかなどを確認することによって、臨床経験をもとに、血液ガス分析だとこういう状況になっているだろうことがおおむね予想できます。私もテレビ電話等で患者さんの呼吸様式を把握した上で実際の酸素投与量を決定します。酸素投与の限界を十分理解した上で、病院に行くまで患者さんの命を持たせるというゴールのもとマネジメントしているわけです。


ーー酸素投与は暫定措置とのことですが、病床逼迫している現状で入院先が決まらず結果的に何日間も酸素投与を行ってしまう可能性はないでしょうか?

酸素投与を行った患者さんについては優先順位を上げて入院につなげるよう動いています。「第4波」という大阪府で最大の危機の中でも、24時間以内に必ず入院させることができています。

ーー「幸せな低酸素血症」という言葉があるように、酸素飽和度の数値は低くても元気に生活できている人も多いと聞きますが、そのような方に対しての判断はどのようにしていますか?

自覚症状ベースですべて判断するのは危険というのが新型コロナの特徴です。複数の指で測ったりするなど酸素飽和度の測定が正確に行われていることを確認することが前提ですが、その数値が90を下回るような場合は、自覚症状として呼吸苦を伴わなくても酸素投与を開始する判断に踏み切ることが多いです自覚症状の有無に関わらず患者さんの臓器が低酸素にさらされている事実が重要だと考えます。新型コロナはそういう判断が求められる病気だということが分かっています。

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電話を終えた後、以下のことを思った。

臨床経験をもとに病歴や呼吸状態を把握することで血液ガスでの状態が予想できるなら、血液ガス分析は不要なものなのか、他の医師の意見も聞きたい。

酸素投与した患者を24時間以内に必ず入院につなぐようにするというのは、それができなかった場合を想定すると、綱渡りのような危ういマネジメントではないだろうか。

呼吸苦などの自覚症状を伴わない場合も酸素投与することが多いというのは、症状を把握することで血液ガス分析なしに酸素投与するリスクを抑えていることと矛盾しないか。

酸素投与のリスクについて、今後も調べていきたい。

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