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妹 

姉が結婚する。

今まで大好きだったお姉ちゃん。
告白された時、相談して来てくれたことを思い出す。

世界中の誰よりも幸せになってほしい姉の背中を、全力で押したのを覚えている。

幸せそうな2人の写真を見せてもらい、きゃっきゃ言いながら、そこに映る姉の幸せな姿に、私も幸せになった。

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そんな姉の結婚に向けた、両家の顔合わせ。

今まで写真でしか見てこなかった姉の彼を目の前にして、
素敵なご家族を目の前にして、
今までに見たことのない幸せがどんどん広がっていく様を見た。

間違いなく、幸せのオーラで包まれた空間。
3時間の食事の中、
会話は止まることなく、初対面の全員が笑顔になった不思議なあの空間。
その場にいた全員が、2人の幸せを願い、確信し、「お似合い」と言う言葉を超越した感情に浸り込んでいた。
幸せの量が大きすぎて、空間が壊れそうだった。


やっとお姉ちゃんの彼に会えた。

本当に素敵な人。
前から話には聞いていたし、写真でも何度も見たことはあったが、
とにかく柔らかく笑う青年で、細く、すらっとした背丈と、目の綺麗さが凄まじい。
じっと話し手の目を見て、優しい相槌を何度も打つ。
姉を見る目がとにかく優しく、2人の目が合う線が見えるのであればこの瞬間だろう、と思ったほど、互いを思いやる感情が手に取るようにわかった。

両家の父母も、目と目が合い、笑い合い、色んな線が蝶々結びとなって目に見えるようだった。

「顔合わせ」と言う名の通り、互いの顔を見て、笑顔でお互いの話に花を咲かせる。圧倒される。

ただ、
目に入る幸せな情報以外に、心の中にじわじわと広がっていく感情は最後まで何かわからなかった。
2人が左手の薬指につける指輪を見ると締め付けられる感情も、何かわからなかった。


なんだこの感情。
よくわからない。

姉が、私の知ってる姉ではない姿で、姉として喋っている。
知らない家族と家族になろうとしてる。
急に、私の知らないことだらけの姉の姿を目の前にして、お腹が痛くなった。

馬鹿らしいが、
私は、姉の一番理解者だと自負していた。
思い込んでいたし、揺るぎない自信もあったし、姉もそうだと思ってた。
だけど、私の知らない姉と、その姉の姿を大事に愛おしそうに見つめる彼。そしてその2人を祝福する皆んな。

完敗した気がした。

戦いじゃないけど、私のポジションが無くなった気がした。
私の方が、ずっと前からお姉ちゃんのこと知ってるのに。
私の方が、ずっと前からお姉ちゃんが好きなのに。

食事の後、
2人の同棲する家へ移動することになった。

道こっちかな?とか、
意外と時間経ってたね、とか。
何時に帰る?とか、
お会計ありがとう、とか、
こそっと話す2人の目線や会話、全てが他人のようだと感じた。
知らない姉の姿。
正確には、今日初めて会った、知っていたはずの「知らない人」と、よく知る笑顔を振り撒く姉の「知らない光景」。
さっきからずっと、お腹がチクチク痛い。

2人が出す身内感。
誰の入る隙もない空気感。

この感情が言葉で表すと何なのか、その時は分からなかったが、私はおそらく

猛烈に寂しく、辛く、悔しかった。

今まで私が幸せに感じていた4人の家族の色が変わった気がした。

本人は、
「私は結婚しても家族の一員だから!」
「苗字が変わっても、いつでも帰ってくるし、変わらないから!」
と言うが、
こっちからすれば、
もう既にその発言をする目の前の姉は、私が知ってる姉と違う。

結婚するし、
苗字も変わるし、
同じ家には帰らない。
(今日だって父母私は家に帰り、姉と彼は2人の家に帰る。)

変わらないから!と言う言葉は、変わった人間が言う言葉だ。
変わらない人間はいない。
知っている。

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辿り着いた2人の家。

綺麗で長く続く廊下。
壁に飾られた姉の絵。
見覚えのある本棚と、知らない新しい机。
前に写真を送ってくれた、ベランダの木のベンチと机。
見覚えのあるソファ。
見覚えのあるテレビ。

腹痛がさらにひどくなり、吐きそうだった。

幸せが風船の大きさで目に見えるなら、
部屋の隅から隅まで、ギチギチに広がった風船が今にも割れそうだ。

知らない部屋なのに、知っている。
2人が一緒にいる時間を大切にしていることが、これでもかと思い知らされる。
姉の好きなブランドの椅子がベランダに2つ並んでいる。
半年前のクリスマスの写真、見せてくれた部屋がここなんだ。


壁に飾られた姉の絵は知っている。
以前私にも一度見せてくれた。

その絵は、2人が毎日見える位置に飾られている。

2人が来客のために紅茶を入れてくれる。
コップの数、足りるかなぁと会話している。

知らない人。
知らないのに、一番知っている笑顔の姉がそこにいる。
訳がわからん、なんだここ。

もっと知りたい気持ちと裏腹に、
この空間から早く立ち去りたかった。

素敵な家族同士の交流は、本当に素晴らしくて眩しかった。
きっと2人は幸せになる。
互いの家族の付き合いも、きっと楽しく豊かなものになる。
幸せしかない。
そう、この空間には幸せしかないのに、
私は1人、喉の奥が熱くなることに知らないフリをするので精一杯だった。

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母も父も、
結婚の際、親ではなく、好きな人と一緒になる未来を選んで家族を作ってここにいる。

子供を産んで、いつかこの時が来ることも、寂しいと分かっていながら親は承知していたはずだ。長女が結婚しても、同じ道を歩んできた理解者として寄り添えるし、受け止められる。

長女も、親元から離れる寂しさはあれど、
揺るぎない大好きな彼と一緒にいる未来を選び、離れていく。

だけど、
妹の私は、1人。

急に1人ぼっちになった感覚だった。
彼氏がいるとかいないとか、そんなの関係ない。
これはきっと、妹にしか分からない。

結婚すると聞いた時、
純粋におめでとうと思ったし、姉が大好きな彼と一緒になれてよかったと心から思った。
姉が大好きな彼。
姉を大好きな彼。

だけど、実際に彼と出会い、2人の仲睦まじい光景を目の当たりにして、そう簡単には全てを受け入れられなかった。
これには自分でも驚いた。

「こんなに優しい素敵なお兄さんができるんやで?」
「これ程までにない、嬉しいことや。」
「家族が増えるんやで、すごいことや。」
私は捻くれてるのか、全然受け入れられなかった。

姉が大好きだったから、
家族が大好きだったから、
「お兄ちゃんがいたら」なんて思ったことは人生で一度も、一瞬たりともなかった。

嬉しいよ。
嬉しいけど。
妹にしか分からない、複雑な気持ち。

家族に手を振り、彼と住む家に帰る姉。
なんだよ、ちくしょう。

思った以上に姉の結婚に揺らいだ想いに
1日に戸惑い疲れる私を置いていく時間。

気遣いたくないのに、変に姉の彼に気遣わなければならない事態が腑に落ちない。
その配慮が伝わらずに機嫌が悪くなる姉。
なによ。
こっちの思いも理解してないくせに。

姉は、
一度機嫌が悪くなるとものすごく怖く、
機嫌が治るにはすごく時間がかかることを
私はよく知っている。


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