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間にあってみたかった

友人にもらった納豆専用の器がある
納豆を混ぜるためのもの。
もちろん他のことにも使えるんだけど
僕は律儀に納豆のときにしか使っていない。

その器をくれたのは奈良の女の子だった。
今は大阪在住だけど当時は奈良だった。
その時、関西の人間から納豆の・・・っていうのが
ああ、関西人は納豆が苦手は嘘だったなと思った。

僕はその子にずっと何年も憧れていた
それは完全に恋心だった
言わないまま数年間、友人としていた
19歳の頃に京都との遠距離でこりていた僕はその距離を超えれる気がしていなかったのもある。
でも当時の自分を真っ二つに切ると
ただの臆病だった。

当時、彼女は関西でほんのりモデルをやっていた。
身長は161くらいで低かったが
関西での広告でたびたび仕事していた子だった。
東京にもなんやかんやで来ることも多かった
その時には必ず会ってご飯をした。

その子と会ったのは僕が短い期間アパレル販売やってた時
メンズの服を見ているので恋人へのものかと聞いたら
弟の服を探しているということだった。
屈託ない笑顔で人懐っこくて
定期的に東京に来るというその子と2回目あった時にはもうお茶をしていた
聞こえはリア充だけど
どうして仲良くなったかは覚えていないけど
気づくと10年選手になっていた。

ある時(何年前かは覚えていない)
奈良に突然遊びに行った。
その時、彼女は大阪にいたが奈良で会おうとなった。
暑い夏の午後
奈良公園にその子はきれいな浴衣で現れた。
自慢げに僕に見せたかったと笑った。
これはどう見てもラブストーリーの展開なはずなのに
突然には始まらなかった。
(それどころか何年も始まっていなかった)
公園を散歩して奈良ホテル(彼女が以前バイトしていた働いていた)で
彼女は普通の服に着替えた。
「このまま車は暑くて無理や」
と本当に汗だくだった。
その日は本当に暑かった。
そのまま大阪に僕を送迎してくれた。
僕はホテルを大阪にとっていた。

旅の目的は奈良公園の散歩でもなく
大阪の食い倒れでもなく
その子に自分がずっと秘めていた想いを告げるためだった。
そうじゃないといけないと急に思った。
僕は「実は・・・」
とまるで卒業式に告白する高校生のように切り出した。
全て話した。
好きだと思ったけど
不似合いかも
遠いから
すぐに新しい恋人ができるだろう
そうやってずっと切り出さずにいたこと
少し驚きながらも聞いてくれて

彼女は涙ぐんでいた
そして口を開いて
「なんで言ってくれんかったん」
まさかの言葉だった。
そう、それは僕にも彼女の恋人になれるチャンスがあったことを
示す言葉だった。
でももう遅かった。
彼女はその時、もう婚約をした人がいた。

人生はいつもちょっと間に合わない。
間に合いたかったな
と思ったけど
それは紛れもなく出遅れ過ぎた自分のせいだった。

考え方を変えれば
間に合うことが全て正解とは限らない。
少なくとも
その恋は間に合わなくてよかったものだと
今は思える。

そう思えるなんて僕も年をとったものだと
納豆をかき混ぜる。
あ、味噌を買い忘れた。
スーパーから帰ってきて思い出す。
また少し思い出すが間に合わなかった。

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